RAに対するトシリズマブは、他の生物学的製剤と比較し、腸管穿孔のリスクとなる【Journal Club 20210217】

Risk of Gastrointestinal Perforation Among Rheumatoid Artheitis Patients Receiving Tofacitinib, Tocilizmab, or Other Biologic Treatments

ARTHRITIS & RHEUMAROLGY Vol.68, No 11, November 2016, 2612-2617

RAに対するトシリズマブは、他の生物学的製剤と比較し、腸管穿孔のリスクとなる

<背景>
IL-6阻害薬が憩室炎、下部消化管穿孔のリスクとなることは知られているが、エビデンスに乏しい。
また、昨今RA治療にJAK阻害薬の使用が増加している。JAK-1/2/3、TYK-2の経路はIL-6シグナルとも関係し、IL-6阻害薬同様、消化管穿孔をきたす可能性が考えられる。

P: RA患者
E: TOF,IL-6阻害剤投与
C: TNFα阻害剤投与
O:下部消化管穿孔の発症

<セッティング>
2006年-2013年の期間でMedicareおよびMarket Scanから患者を抽出

<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
後ろ向きコホート研究

<Population、およびその定義>
・18歳以上、2人以上の医師によりRAの診断 
・試験参加前6か月以上、生物学的製剤、TOFの投与を受けている
・除外:消化管穿孔の既往、炎症性腸疾患、悪性腫瘍

<主な要因、および、その定義>
・Primary outcome: 入院を要する消化管穿孔  
・腸管穿孔で死亡した患者、また、退院後90日以内の死亡について検討
・生物学的製剤:tofacitinib, tocilizumab, others(abatacept, adalimumab, certolizumab, etanercept, golimumab, infliximab, rituximab)
・共変量:年齢、性別、人種、併存疾患(糖尿病、消化性潰瘍疾患、胃食道逆流症、憩室炎、およびその他の消化管疾患)、および併用薬併存疾患には、糖尿病、消化性潰瘍疾患、胃食道逆流症、憩室炎、およびその他の消化管疾患が含まれていた。

<Control、および、その定義>
なし

<解析方法>
・消化管穿孔の発生率は、ポアソン分布を使用して全体、上部、下部消化管にわけて算出
・比例ハザードの仮定評価後、Cox比例ハザードモデルを使用して結果のハザード比(HR)を計算
・標準誤差は、共分散行列に対してサンドイッチ型ロバスト分散推定量を使用して調整。
・感度分析で、憩室炎、憩室症、または虚血性大腸炎の退院診断コードと、縫合、腸切除、腸吻合、または腹腔鏡検査のCPTコードを含む結果を抽出

<結果>
・190061名のうち1163例(0.6%)は腸管穿孔の既往のため、21785名(11.5%)は腸管の炎症性疾患、癌、年齢、適応外使用薬などのため除外された

Table 1:
・年齢:TNFi群と比較し、ABT群で高齢でTOF,RTX群で低年齢だった
・Bio2剤以上の使用歴:TNFi群と比較し、他の製剤群で多い
・NSAIDs使用:TNFi > ABT,RTX,TCZ
・GC使用量:RTX,TCZ > TNFi
・ベースラインでの腸管憩室を含む消化管病変は2%前後で各群で差はなかった

Table 2:
・消化管穿孔全体に対するIR(per1000 patient-years )はTCZ群で55と最も高い
・TCZ群における穿孔の81%が下部消化管穿孔でTNFi群の55%と比較し、下部消化管に多く生じた
・上部消化管穿孔は各群で差がないが、下部消化管穿孔のIRはTCZ1.26と他の群と比較し高い

Figure 1:
・多変量解析では下部消化管穿孔リスクはTCZ使用で有意に高く、TOF使用も高い傾向にあった
・高齢、憩室炎や他の腸管病変、GC(>7.5mg/day)もリスクであることがわかった

<Limitation>
・データベースからの病名、薬剤抽出のため、実際の臨床像と一致しないケース、内服コンプライアンスなどが考慮できない点
・RCTではないためTCZに対しては潜在的に消化管リスクの高い患者に投与されていない可能性
・GCの使用期間、使用総量が評価できていない
・RAの疾患活動性が考慮されていない点

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・既存の報告同様、TCZ投与は消化管穿孔の発症リスクになる可能性が示唆される。投与前の腸管病変の評価や使用中の患者教育を見直す
・必要がありそう。またGCなどほかに消化管穿孔のリスクを高める薬剤をやむなく使用しなければならない際、TCZを避けたBio選択も必要となる可能性がある。

<この論文の好ましい点>
・稀な有害事象に対し、データベースを使用し、大規模に検討を行った点

<考察>
腸管免疫の特徴からの考察
・腸粘膜下のパイエル板由来の樹状細胞はほか部位の樹状細胞と比べ、IL-6を高発現し、IgAを強く誘導することが知られている
(J. Immunol. 171, 3684(2003))
・腸管障害の際、上皮細胞の増殖や障害組織の修復のため、IL-6の発現が高まる
・IL-6は血管新生や組織修復で中心的役割を担うVEGFを制御する。
(Arthritis Rheum 2003; 48:1421-9,  Nat Rev Cancer 2007; 7: 475-85)
 →IL-6阻害は、腸内細菌叢を狂わせ、組織修復のプロセスを遅らせる可能性が想定される。

担当:高橋 良

 

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