☆チョコスタ☆第3回 「ランドマーク解析についてお話します!」

☆チョコスタ☆はちょこっとだけ、アドバンスな統計解析を自分の分野(リウマチ膠原病分野)で考え、理解を深めようというブログです。

基本はリウマチ膠原病領域のトップジャーナル「ARD、A&R、Lancet Rheumatology、Rheumatology(Oxford)」から優先的に論文をピックアップ、なければ「SEMINARS IN ARTHRITIS AND RHEUMATISM、Therapeutic Advances in Musculoskeletal Disease、ARTHRITIS RESEARCH & THERAPY、Rheumatic & Musculoskeletal Disease(RMD) Open、ARTHRITIS CARE & RESEARCH、Journal of Rheumatology」からピックアップします。

第3回はランドマーク解析についてお話しします。

・主な内容:Morgan CJ. Landmark analysis: A primer. J Nucl Cardiol. 2019;26(2):391-393.

・具体例:リウマチ膠原病分野よりKuo CF, Grainge MJ, Mallen C, Zhang W, Doherty M. Effect of allopurinol on all-cause mortality in adults with incident gout: propensity score-matched landmark analysis. Rheumatology (Oxford). 2015;54(12):2145-2150. 

ランドマーク解析とは,生存時間分析において,追跡期間中に発生する時点(ランドマーク時間)を指定し,ランドマーク時間まで生存している被験者だけを解析することです。

すべての被験者がベースラインで治療され、その後数年間追跡される研究を具体例としてあげます。

図1は、3人の被験者の最初の6ヶ月間を表示したものです。破線は被験者が治療に反応しなかった時間、実線は被験者が治療に反応した時間で、被験者1は反応なし、被験者2、3はそれぞれ1.6ヶ月、2.9ヶ月後に治療に反応しています。

研究者は、治療に反応した被験者が反応しなかった被験者より有意に長い生存時間を持つことに興味があることが多いです。被験者1を「非反応者」、2、3を「応答者」として分類し、Kaplan-Meier推定またはCox比例ハザードモデルのような生存分析法を用いて、治療後のこれらの2群の生存を比較することは正しくありません。被験者2、3は「非応答者」として研究を開始し、追跡調査の後半になるまで「反応者」になりません。「反応者」は少なくとも反応時まで生存することが保証されており、これは不死時間バイアス(Immortal Time Bias:ITB)と呼ばれます。

ITBを避けるために、今回解説するランドマーク解析が使用されます。ランドマーク時間を選択し、その時間以前に追跡不能となった被験者や死亡した被験者は解析から除外します。残りの被験者は、ランドマーク時間までに反応があった被験者を「反応者」と分類し、ランドマーク時間までに反応がなかった被験者は、たとえその被験者が後に治療に反応したとしても、「非反応者」として分類します。

図2Aではランドマークは治療後2ヶ月となっています。被験者1、2は、その時点ではどちらも治療に反応していなかったので、「非反応者」に分類されます。被験者2が後に治療に反応するとしても、ITBを避けるために、被験者2は、ランドマーク時間での状態により「非反応者」とみなされます。被験者3は、ランドマーク時刻の前に治療に反応したため、「反応者」dに分類される。

図2Bではランドマークは治療後4ヶ月となっています。ランドマークが遅いため、被験者2は治療に反応するのに十分な時間があり、この被験者は「反応者」に分類されます。

ランドマークが選択され、不適格者が除外され、被験者がランドマーク時の状態によって分類された後、通常の生存分析法が適用されます。これらの結果は通常どおり解釈されますが、結論はランドマーク時点まで生存していた対象者にのみ一般化できるという重要な注意点があります。

ランドマーク時間によって結果が異なるため、ランドマークの選択は極めて重要です。ランドマーク時間より前に発生した事象は解析から除外されるため、ランドマーク時刻を遅くするとサンプルサイズが小さくなり、統計的検出力が低くなります。ランドマーク時間が早ければ早いほど、後期反応者が「非反応者」として誤って分類される可能性が高くなります。複数のランドマークの時期を使用して感度解析を実施する必要があります。

ランドマーク解析に代わる方法として、治療効果を示す共変量の値が時間的に変化することを許容するCox比例ハザードモデルがあります。このCoxモデルの拡張により、(ランドマーク後の時間だけでなく)フォローアップ期間全体を考慮することができ、解析から除外する被験者や事象はありません。さらに、この方法によって、ランドマーク時刻を選択する問題と誤判定誤差の両方が回避される可能性があります。しかし、このモデルから得られる結果の解釈は非常に難しいと言われています。詳しくは次回解説します。

リウマチ関係の論文での具体例として、下記の論文を挙げます。アブストラクトを紹介します。ランドマークを1年、3年と設定し感度解析を実施しています。

Kuo CF, Grainge MJ, Mallen C, Zhang W, Doherty M. Effect of allopurinol on all-cause mortality in adults with incident gout: propensity score-matched landmark analysis. Rheumatology (Oxford). 2015;54(12):2145-2150. 

目的

痛風発症患者を対象に、アロプリノール使用と全死亡の関連を検討すること。

方法

英国Clinical Practice Research Data-linkを用い、曝露期間(1年または3年)内に6ヶ月以上アロプリノールを投与された痛風罹患者の全死亡率を、投与されなかった患者と比較検討した。不死時間バイアスを考慮するためにランドマーク解析が用いられ、既知の交絡因子の潜在的影響を制御するために傾向スコアマッチングが使用された。

結果

同定された23332人の痛風患者のうち、傾向スコアをマッチさせたコホートには、診断から1年後の日(ランドマーク日)にアロプリノールに曝露した患者1016人とアロプリノール非使用者1016人が含まれていた。ランドマーク日から中央値で10年間の追跡期間中に死亡したアロプリノール使用者は437人、アロプリノール非使用者は443人であった。アロプリノール使用者と非使用者の全死因死亡リスクは同等であった(ハザード比 0.99;95% CI 0.87-1.12)。3年間のランドマーク解析では、3519人のアロプリノール使用者(1280人死亡)と3519人の非使用者(1265人死亡)が比較された。全死因死亡のハザード比は1.01(95%CI 0.92-1.09)であった。

結論

英国のプライマリケア環境における痛風偶発症患者集団におけるこの傾向スコアマッチによるランドマーク分析では、全死亡のリスクに対する中立的な効果が見出された。

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