pSSへの抗BLyS薬とRTXの併用療法について

A randomized, phase II study of sequential belimumab and rituximab in primary Sjögren’s syndrome

Xavier Mariette, Francesca Barone, and Chiara Baldini, et al. 

Mariette X, Barone F, Baldini C, et al. A randomized, phase II study of sequential belimumab and rituximab in primary Sjögren’s syndrome. JCI Insight. 2022;7(23):e163030.

 

 

<イントロダクション>

Primary Sjögren’s syndrome (pSS)の特徴にB細胞活性化があり, BLySが上昇している.

抗BLyS薬はナイーブ, 活性化, 形質B細胞のサブセットを減少させる. そしてB細胞選択性を高める. また, 抗Blys薬を使用した際には末梢記憶B細胞が増加するとされているが, これは記憶B細胞の組織移行性の低下が指摘されている. pSSではBELISS phase2でESSDAI,ESSPRIの改善が認められ, EULARは重症・治療抵抗性全身性pSSに考慮するとしている.

RTXは末梢循環のCD20陽性B細胞を抑えるが, tissue resident B細胞へは効能が低い. pSSへのRTXの効能は様々であり, TEARS試験とTRACTISS試験では一次アウトカムを達成できなかった. RTXはpSSに承認はされていないが, EULARは重症・治療抵抗性全身性pSSに考慮するとしている.

RTXの反応性の低さに関しては血中BLys増加することが指摘されており, 後の自己反応性B細胞の出現が再燃につながるとしている. 末梢記憶B細胞はRTX
により抑制されるが, 組織常在B細胞の反応性の低さには, 異所性に増加したBLysの関連が指摘されている. これらから抗BLyS薬とRTXの併用によりシナジー的な効果が出現すると予想された.

 

<サマリー>

pSSへの抗BLyS薬とRTXの併用療法は単剤治療と比較し有害事象に有意差はなく, 唾液腺B細胞を有意に抑制し, 臨床的改善の可能性が示唆された.

——————————————————-

以下の4群に割り付けた(placebo, belimumab, rituximab, or belimumab + rituximab.)

 

<セッティング>

 

<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>

RCT. double-blind study. 観察期間68週(52週が治療期間で16週がフォローアップ期間).

86名(70名をincludeする予定であった.)

 

<Population、およびその定義>

18歳以上, pSjS(診断根拠:American-European Consensus Group criteria)

活動性あり(ESSDAI≧5)かつ, 有症状(口渇, Numeric Response/Rating Scale [NRS] ≧ 5/10)かつ, 非刺激性唾液腺流速>0ml/minもしくは非刺激性唾液腺流速>0.05ml/min

 

<主なアウトカム、および、その定義>

Safety outcomeThe primary end point was safety to week 68, assessed in the safety population, including incidence of AEs and adverse event of special interest; AESI;注目すべき有害事象) AESIs included malignant neoplasms, post administration systemic reactions(PASR, インフュージョンリアクション), all infections of special interest (opportunistic infection, herpes zoster, tuberculosis, sepsis), depression/suicide/self-injury, and deaths, as well as study-specific AESIs of severe skin reactions, cardiac disorders, posterior reversible encephalopathy syndrome, progressive multifocal leukocephalopathy, and biopsy-related AEs.

 

Immunologically outcome:

68週時点で末梢血B細胞を評価(total [CD19 + ], memory [CD20 + CD27 + ],

naive [CD20 + CD27 – ], and plasmablast [CD27br + CD38br + CD19 + ]), serological biomarkers (IgG, RF, IgA, IgM, free BLyS, total BLyS, C3, C4, CH50, κ and λ light chain, κ/λ ratio, β2 microglobulin, CXCL13, SS-A, SS-B)を評価.

唾液腺CD20陽性B細胞はベースライン, 24週で評価し, biomarkers (LFS, B cells, B cell/T cell ratio, plasma cells, total aggregate area/total glandular area ratio, average focus size, foci displaying GCs, foci displaying follicular DCs, foci displaying CD3/CD20 segregation, plasma cell/B cell ratio, memory B cells [switched and nonswitched], follicular B cells)

 

Clinical outcome

  • ESSDAI(a systemic disease activity index designed to measure systemic disease activity in pSS)の変化, mean stimulated salivary ●●●flow, Numeric Response/Rating Scale [NRS, 口渇感]
  • ESPRI(a disease-specific patient-reported index designed to assess the severity of patients’ symptoms in pSS)
  • シルマー試験

 

<解析方法>

サンプル数:本研究では事前に決めた治療効果の差を検出するものではなく, サンプル数を定めていない. 約70人が組み入れる予定とされ, 各治療に20人, コントロール群に10人割り当てる予定であった. 脱落, 重症合併症の発症を考慮し, 86名includeした.

FCMの変化と唾液腺パラメータの変化はホッジス・レーマン推定量を用いた.

ESSDAIの反応性には一般化推定方程式を用いた.

 

<結果>

9割以上が白人女性で, アジア人, 黒人など多人種は少ない.

治療期間52週を62名が達成でき, フォローアップ期間もいれると60名(69.8%)が継続できた.  

4群間で活動度に明確な差はない.とされているが, sever-high severでみるとcombination群が最多.

hCQ利用率がcombination群で低い.

 

  • 薬剤による副作用は各郡有意差なし. no serious infections of special interest occurred.
  • 治療終了後のB細胞低値:50.0% belimumab + rituximab group, 75.0% belimumab group, 48.0% rituximab group, and 15.4% placebo で治療期間終了時に正常以下のB細胞数であり, 追加のフォローアップ期間を設けた(最大36週)
  • Serious AEs(SAEs)はプラセボ群では発生していない.

SAEs:3 (12.5%) patients in the belimumab + rituximab group, 2 (8.3%) patients in the belimumab group, and 4 (16.0%) patients

in the rituximab group

 

薬剤と関連していると考えられたSAEsは, 2 (8.3%) patients in the belimumab + rituximab group (enterocolitis infectious and pyelonephritis), 1 (4.2%) patient in the belimumab group (pneumonia), and 1 (4.0%) patient in the rituximab group (neutropenia and rash). Infection and infestation SAEs were reported in 2 (8.3%) patients in the belimumab + rituximab group, 1 (4.2%) patient in the belimumab group, and 1 (4.0%) patient in the rituximab group.

 

One death was reported in the belimumab + rituximab group (food aspiration), considered by the investigator to be unrelated to the study drug.

 

  • AEsによる薬剤中止:

belimumab + rituximab 5/24[20.8%] ,  belimumab3/24[12.5%], rituximab5/25 [20.0%])  compared with placebo 1/13 [7.7%].

 

  • Immunological outcomes

ベリルマブ投与により, 早期に①total B cell(CD19 +), ②naive B cells (CD20 + CD27 – ), ③plasmablasts (CD27bright + CD38bright + CD19 +)が減少した一方で, 末梢記憶B細胞(CD20+CD27+)は一過性に増加した. ベリルマブによる末梢記憶細胞の増加は, switched (CD19 + CD27 + IgD – ) and nonswitched memory B cells (CD19 + CD27 + IgD + )  の両者で観察された.

 

図3A:ベリムマブ+リツキシマブ群, およびリツキシマブ群では、末梢血B細胞全体および循環中の他のB細胞サブセットがほぼ完全に枯渇した(定量下限値[2.5個/μL]に到達). 24週目にベリムマブを中止した後、ベリムマブ+リツキシマブ群では循環中の総B細胞の再増殖が遅れる傾向がみられた.

図3B:ベリムマブ投与群では、リツキシマブ投与群に比較し, 末梢記憶B細胞の減少は緩徐であった. ベリムマブ+リツキシマブ群のメモリーB細胞は68週目まで抑制されたままであり、12週目以降はベリムマブ+リツキシマブ群とリツキシマブ群の間に明らかな差はなかった.

 

BLyS濃度はRTX投与後に上昇したが、ベリムマブ+リツキシマブ群ではBLySの上昇はリツキシマブ投与後には起こらず、ベリムマブ中止の12週後に観察された

 

図4B:血清CXCL13濃度は、唾液腺における免疫学的活動性の指標になる可能性がある. 血清CXCL13濃度の低下は、3つの積極的治療群すべてでみられ、最も持続的な効果はベリムマブ+リツキシマブ群で観察された.

 

IgA、IgM、IgG、RF、血清κおよびλ軽鎖の濃度は、プラセボと比較してベリムマブ+リツキシマブ群で低下する傾向が認められたが、ベリムマブ群とリツキシマブ群間で明確な差は認められなかった.

SS-A、SS-B自己抗体価、またはβ2-ミクログロブリン、補体成分3(C3)またはC4、補体(CH50)レベルの治療による正常化は確認されなかった.

 

小唾液腺(MSG)の組織検査では、24週目にベリムマブ+リツキシマブ群でCD20+B細胞数が一様に減少し、ベリムマブ、リツキシマブ、プラセボ群では減少は不完全であった. 小唾液腺常在記憶B細胞(CD20 + CD27 +)は、belimumab + rituximab群とrituximab群で最も低かったが、belimumab群では残存していた.

記憶B細胞は、ベリムマブ+リツキシマブ群およびリツキシマブ単剤群で24週目に同様に枯渇していた。

形質細胞(CD138 + ; CD20 +とCD20 -の両方)の数は、リツキシマブ群でわずかに減少したが、治療に関係なく残存していた。

 

ベリムマブ+リツキシマブ群では、プラセボ群に比べ、ESSDAIスコアの平均値が大きく低下する傾向がみられた(図6A)。この傾向は治療開始12週目から認められ、治療中止後44週目にあたる68週目まで持続した。ESSDAI総スコアの改善傾向は、プラセボと比較して、ベリムマブ単剤群およびリツキシマブ単剤群でも同様に観察された。ESSDAIスコアの平均値(±標準誤差)は、68週目において、ベリムマブ(5.7[0.88])、リツキシマブ(6.5[1.18])、プラセボ(8.6[1.57])と比較して、ベリムマブとリツキシマブ併用群が低い(5.0[1.27])。治療終了後もESSEDAの改善は68週まで見られた.

52週目および68週目の平均非刺激性唾液流量は、プラセボ群に対してベリムマブ+リツキシマブ群で大きくなった(図6B)。また、刺激唾液量もプラセボ群、ベリムマブ群、リツキシマブ群と比較して、ベリムマブ+リツキシマブ群で52週目と68週目に多くなる傾向が認められた(図6C)。一方、口腔乾燥感を訴える患者には、プラセボと比較して、いずれの治療法でも顕著な差は認められなかった。プラセボと比較して、ESSPRI総スコア、ESSPRIドメインスコア、涙腺機能の平均値には、積極的治療による顕著な差はなかった。

 

※Supplementより

*Responder defined as patients with a total Clin ESSDAI score <5; Numbers at baseline; numbers decreased over the study visits.

 

<結果の解釈・メカニズム>

本症例は中等度~高度(ESSDAI ≥ 5)症例での適応.

安全性, 継続率に関しては併用療法では単剤と変わらなかった. ただしプラセボではSAEは発症していない.

併用療法は単剤に比較し, 小唾液腺内のB細胞を抑制し, 末梢総B細胞数を抑制した.

改善のあった臨床所見はtotal ESSDAI score, proportion of ESSDAI responders, and stimulated salivary flow.

有効な減少とされるESSDAIは>3(PMID: 25480887)

改善のなかった臨床所見は口腔乾燥感, ESSPRI総スコア、ESSPRIドメインスコア、涙腺機能(シルマー試験)の平均値(プラセボと比較して有意差なし)

 

末梢B細胞はベリルマブ投与開始1週間で増加し, その後8週間で減少傾向となった(8週目に初回RTX投与).

SLEに対するTabalumab(ベリルマブと同様にBLys阻害薬)では同様の傾向が見られており, リンパ球のホーミング低下が指摘されている.

本論文では常在B細胞の末梢への遊走, もしくは組織内への遊走低下が指摘される. 併用群ではCXCL13低下しており, BlysとCXCL13の両者が記憶B細胞が末梢組織への遊走に必要なことも関連している可能性ある.

 

ベリルマブ投与に対する記憶B細胞の反応は弱く, 緩徐に減少した.

 

ESSEDAIはプラセボと併用療法を比較した際は低下しているが, 単剤との比較した際には, ESSEDAI低下分の印象は少ない.

 

<Limitation>

臨床効果の差を検出するための正式な検出力は付与されていない

 

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>

腺機能に関しては, 罹患期間が長いほど線維化が進行し薬剤不応性の可能性が高い. 一回破壊した腺機能は回復しない可能性がある. 残存する腺機能の評価が必要. 一方で早期では改善できる可能性あり. 腺機能の薬剤反応性は症例個別毎に異なる可能性が高い.

また本研究では腺機能の改善が見られていないことから, 腺機能を対象にした併用療法の導入は難しい.

ただし, 病理学的に組織内B細胞浸潤の改善が見られており, 腺外病変に対する併用療法の反応は今後報告が待たれる.

 

<この論文の好ましい点>

臨床所見の変化に加え, 血清学的変化, 病理学的変化が記述されている.

<この論文にて理解できなかった点>

特になし.

 

担当:多田 尭央

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

私たちと一緒に学びませんか?

プログラム・募集要項はこちら


昭和大学病院
〒142-8666 東京都品川区旗の台1-5-8
アクセスマップ
電話:03-3784-8000(代表)

[初 診]月曜~土曜 8:00~11:00
[再 診]月曜~土曜 8:00~11:00(予約のない方)
[休診日] 日曜日、祝日、創立記念日(11月15日)、年末年始