Journal Club【20161221】関節リウマチ患者に間質性病変と気道病変をきたす臨床的,遺伝的リスクとは

『Different risk factors between interstitial lung disease and airway disease in rheumatoid arthritis.』

Shunsuke Mori a, Yukinori Koga b, Mineharu Sugimoto c

a Department of Rheumatology, Clinical Research Center for Rheumatic Disease, NHO Kumamoto Saishunsou National Hospital, 2659 Suya, Kohshi, Kumamoto 861-1196, Japan

b Department of Radiology, Clinical Research Center for Rheumatic Disease, NHO Kumamoto Saishunsou National Hospital, Kumamoto, Japan

c Division of Respiratory Medicine, Department of Medicine, NHO Kumamoto Saishunsou National Hospital, Kumamoto, Japan

Respiratory Medicine (2012) 106, 1591e1599

関節リウマチ患者に間質性病変と気道病変をきたす臨床的,遺伝的リスクとは

【背景】

関節リウマチは全身性の炎症性疾患であり,皮膚,血球,心血管,神経,肺などの関節外にも炎症を起こしうる.関節外病変を有する場合は予後不良とも言われている.

これまで関節リウマチ患者でILDがある場合死亡率が高い事が明らかにされており,喫煙歴,骨びらんの強い,活動性の高いリウマチ,抗CCP抗体価,RF,SE陽性のHLADRB104アリルを有する,は関節外病変が重篤であることが報告されている.

今は間質性病変と気道病変を有する関節リウマチ患者の上記を含めた,臨床的,遺伝的リスクを評価する.

 

【方法】

対象は2009年11月〜2011年7月までの間に熊本大学病院で外来治療され,HLA-DRB1を測定することに同意した関節リウマチ患者356名.

  • シリカゲルやアスベストに暴露歴を有するもの,2)胸部放射線治療歴のある患者は除外された.

患者の選択は来院理由(関節症状,治療のコンサルト,関節リウマチ合併症,その他)によらなかった.

全ての患者は1987年の関節リウマチの分類基準を満たした.

患者の初診時の臨床データ,血液検査結果,年齢,罹病期間,Steinbroker’s stage ,喫煙歴,抗リウマチ薬使用の有無は後ろ向きに集めた.

患者のHRCTは全て初診時に撮像され,読影者に臨床データはブラインドされた.

参加者のデータを間質性病変:ILD群(24名),気道病変:AD群(30名),どちらも有さない群(302名)の3群に分類した.

ILD群はNSIP19名,UIP5名であった.AD群は気管支拡張症10名,細気管支炎25名であった(5例は重複).

HLA—B51の有無は同意のもとHLA研究室で測定された.抗CCP抗体は4.6U/ml以上,RFは15IU/ml以上を陽性とされ,>90U/ml,>100IU/ml以上を高値とされた.

【結果】

356名中,24名(6.7%)がILD,30名(8.4%)がADと診断された.薬剤性や感染は否定的であった.

302名(84.8%)は正常であった.

Table1)患者背景

ILD群はは正常群と比較し,有意に平均年齢が高く,男性の喫煙者でCCP高値,RF陽性かつ高値であった.AD群は正常群と比較し,有意に罹病期間が長く(p<0.0005),重篤な関節変形(stageⅢ,Ⅳ)が多く(86.7% vs 39.4% OR,10.0 p<0.0005)CCP抗体,RF高値であった.抗CCP抗体,RF値の平均値はILD群とAD群が有意にコントロール群と比較して高値であった.AD群,ILD群で生物学的製剤治療を受けている者はおらず,MTX使用者は約13%であった.

Table2) 肺合併症の有無とHLA-DRB1アリルの分布の測定結果

全712アリル中,323(45.4%)が関節リウマチのリスクアリルであるSE(shared epitope)陽性であり,その内35.1%で04が陽性だった.AD群では04が有意に多かった(OR,2.20: p=0.003).ILD群ではSE陰性のHLA-DRB11501,1502の者が多かった.(OR,3.301,p=0.009)(OR,2.48,p=0.03)

Table3)

多項ロジスティック解析でILD群では有意に年齢(65歳以上 RR,4.58,p=0.003),リウマチ因子(100以上),抗CCP抗体価(RR,273:P-0.074),HLA-DRB11502の保有率(RR,4.02:p=0.013)が高かった.単変量で有意差が得られた性別,喫煙歴は今解析では有意差がなかった.

一方AD群は有意にSteinbrocker Ⅲ,Ⅳ(RR,11.48:p<0.0005)の者が多く抗CCP抗体価,RFが高値の者が多かった(RR,3.84,p=0.005)(RR2.96,p=0.016).HLA-DRB11502の保有率はAD群で負の相関を示した.(RR,0.15,p=0.08).

Table4)ILD群とAD群の尤度比検定で,HLA-DRB1 HLA-DRB11501,1502の存在はILD群と正の相関を示し,AD群と負の相関を示した.SteinbrockerⅢ以上の変形はどちらの群とも正の相関を示したが,AD群で強かった.

 

 

【考察】

これまでの研究ではHLA-DRB115アリルは関節リウマチのリスクとはいわれていないが,日本人患者において関節リウマチ患者が有していた場合のILDのリスクが高い報告は散見する.また,スペインでは二次性シェーグレンとの関連も示唆されている.本研究ではHLA-DRB115はILDと相関しADと負の相関する可能性がある結果が新たに得られた.また,抗CCP抗体は関節リウマチにおける特異度が高く,DMARDs抵抗性や関節破壊の予後を示すが,ILD群,AD群両群ともに陽性率が高いことに変わりはなかったが,抗体価自体はAD群で有意に高い結果が今回得られた.

また,既存の研究で罹病期間の長い関節リウマチ患者はPEF25〜75から細気管支障害を有することが報告されているが,本研究においてもAD群で変形が強い患者が多いことが改めてあげられた.

Limitation:

サンプルサイズが小さいこと.横断研究であること,ILD,ADの定義(組織学検査や呼吸機能はされていない)

 

<上級医のコメント>

・RAの気道病変、間質性肺炎の遺伝子を含めた背景因子の検討を行っているが、多重検定が考慮された解析ではないため結果の判断には注意が必要。探索的研究として考え、今後注目したoutcomeをprimary outcomeとし交絡調整などをしての研究が必要ではないかと思われる。

・間質性肺炎、気道病変のそれぞれがヘテロな集団であり、今回の結果をどのようなセッティングにて使用するかが明らかでない。

・除外基準にて、治療コンサルト、リウマチ合併症などにて受診した症例が設定されておりすべてのRA患者を連続サンプリングしていない。可能な限り一般RA患者のpopulationに近づけて(少なくとも受診した方すべての)検討をすべきと思われ、今回のpopulationが偏った集団の可能性(selection bias)が生じている可能性がある。

 

担当:小黒 奈緒

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