無筋症性皮膚筋炎関連間質性肺疾患に対してトファチニブが有用な可能性がある【Journal Club 20190807】

Tofacitinib in Amyopathic Dermatomyositis-Associated Interstitial Lung Disease

Zhiwei Chen, M.D. Xiaodong Wang, M.D. Shuang Ye, M.D.
Renji Hospital South Campus, Shanghai, China

2019 Jul 18;381(3):291-293.

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<サマリー>
抗MDA5抗体陽性無筋症性皮膚筋炎関連間質性肺疾患に対して重症な肺障害を起こす前の早い時期にJAK阻害薬(トファチニブ)を使用することで死亡率低下、肺病変の改善が期待できる。

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<背景>
抗MDA5抗体陽性無筋症性皮膚筋炎関連間質性肺疾患(CADM+IP)は極めて予後不良な疾患である。ステロイドや免疫抑制薬を組み合わせた従来の積極的な免疫抑制療法にも関わらず、 6ヶ月死亡率は50%にも達する。ステロイド、シクロホスファミド、カルシニューリン阻害薬(シクロスポリンやタクロリムス)による多剤併用免疫抑制療法が従来治療に比べ、死亡率が改善したと報告されており、(6ヶ月死亡率 従来群 33% 多剤併用群 88.5%)(Hideak Tsuji. et.al. 2018 ACR/ARHP Annual Meeting)日本では同治療が広く使用されているが、それでも治療難治性の症例が数多く存在する。血漿交換療法の併用の有用性も報告されており、現在、多施設共同臨床研究が行われている。またリツキシマブやミコフェノール酸モフェチルの使用などの報告もある。

これまでJAK阻害薬(トファチニブ)がCADMに有効であったと報告されている (Kurasawa K, Arai S, Namiki Y, et al Rheumatology (Oxford) 2018;57:2114-2119)、(予後不良因子を有する治療反応不良のCADM患者に対して、トファチニブを併用したところ、従来治療では全例(6例中6例)死亡していたのに対し、5例中3例が生存できた)
今回、Histrical controlを使用した単施設非盲検非無作為化臨床試験が行われた。

P:抗MDA5抗体陽性の無筋症性皮膚筋炎関連間質性肺炎の患者
E:トファシチニブ使用群(2017年7月~2018年9月の症例)
C:トファシチニブ未使用群(2014年~2017年6月の症例)
O:生存率

<セッティング>
Renji Hospital South Campus, Shanghai Jiaotong Universityで治療された抗MDA5抗体陽性の無筋症性皮膚筋炎関連間質性肺炎の患者
2014年~2018年9月の症例
2017年7月~2018年9月の症例はトファシチニブ使用
2014年~2017年6月の症例はトファシチニブ未使用

<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
Histrical controlを使用した単施設非盲検非無作為化臨床試験

<Population、およびその定義>
18歳以上のADMクライテリアを満たす間質性肺炎合併のMDA5抗体陽性皮膚筋炎の患者
除外基準
%FVC 50%以下は除外
他の膠原病、悪性腫瘍、感染症があった場合は除外
肝アミノトランスフェラーゼが上限の2倍以上は除外

<主な要因、および、その定義>      
トファシチニブの併用療法(1日2回 1回 5mg)

<Control、および、その定義>
トファシチニブの併用なし(過去、2014年~2017年に治療された群)

<主なアウトカム、および、その定義>
6ヶ月生存率

<ベースラインの患者背景>figure1 A
年齢、性別、喫煙、罹病期間、%FVC、%DLCO,HRCT score、血清フェリチン値、CK値、アルブミン値、LDH,ESR、ステロイドの最大量、免疫抑制薬の使用、抗線維化薬の使用

<解析方法>
交絡の調整はなし
生存率はカプラン・マイヤー生存曲線で記載figure1 B
トファシチニブ使用群の治療変化を記載
治療前、1ヶ月後、3カ月後、6カ月後の血清フェリチン値、%FVC、%DLCO    figure1 C,D,E

<結果>
トファシチニブ使用群 18例、トファシチニブ未使用群(過去治療群)32例を解析した。
トファシチニブ使用群では18例中18例(100%)、トファシチニブ未使用群では32例中25例(78%)が生存した。(P=0.04)
トファシチニブ使用群において血清フェリチン濃度、予測FVC、DLCO,CT画像の変化で改善を認めた。

<結果の解釈・メカニズム>
既存の報告より
・抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎患者では、I型IFNが異常に活性化しており、JAKシグナルの阻害はIFNを抑制する (Br J Dermatol. 2019 May;180(5):1090-1098)
・抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎患者では、末梢血のCD4 + CXCR4 + T細胞が高値であり、IL-21とIL-6を高発現している。In vitroでJAKシグナルの阻害は同サイトカインを抑制し、線維芽細胞の増殖を抑制する。(Rheumatology (Oxford). 2019 Mar 1;58(3):511-521)
JAK阻害剤は上記機序によりCADMの病態を改善する可能性がある。

<Limitation>
比較しているのは過去の症例。ランダム化されていない。非盲検。
免疫抑制療法が一定でない(特に2014年~2017年、2017年以降では全く違う)
詳細な治療内容は不明。
早期の症例のみ。重症の患者が除外されている
(肝機能異常が2倍以上の強いMASが疑われる患者や%FVC 50%以下)
過去の症例では治療開始時期が遅れている可能性がある。(日本でMDA5抗体が保険適応になったのは2016年から。またCADMが認知され、早期治療が可能になってきているかもしれない)
現在日本で一般的に使用されているPSL、IVCY、カルシニューリンの多剤併用療法はほとんど施行されておらず、日本での実臨床との比較が困難。

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
➀臨床
治療反応が悪いことが予想されるCADMではトファチニブを初期の段階で投与することを検討する。
②今後の検討・研究課題
重症なCADM患者でどれ程、有用なのか。
従来治療反応不良例、再燃に至った例でも、追加治療として有用なのか。
治療反応不良・トファチニブが必要になりそうな症例が事前に分からないか。予測因子・リスクの評価。
トファチニブが効きやすい症例が判断出来るか。(IFNなどの血清学的な評価・vitroなどの研究)
寛解導入後のトファチニブはいつ止めるべきか。止めるべきでないのか。

<この論文の好ましい点>
これまでCADMに対するトファチニブの効果をこの症例数で条件を揃えて比較した論文はない。
トファチニブ使用群の方がその他の免疫抑制薬の使用数が少ないため、一定の効果は期待出来そう。
生存率・結果がとても良い。

 

担当:石井翔

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