糖尿病治療薬であるメトフォルミンはSLE患者さんに有効か?【Journal Club 20200626】

Safety and efficacy of metformin in systemic lupus erythematosus: a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled trial
メトフォルミンのSLEに対する効果と安全性:RCT

Fangfang Sun, Hui Jing Wang, Zhe Liu, Shikai Geng, Hai Ting Wang, Xiaodong Wang, Ting Li, Laurence Morel, Weiguo Wan, Liangjing Lu, Xiangyu Teng, Shuang Ye
Department of Rheumatology, Renji Hospital South Campus, School of Medicine, Shanghai
Lancet Rheumatology. 2020;2:e210-16

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<サマリー>
SLE患者さんに対して、糖尿病治療薬であるメトフォルミンを投与して再燃率の低下をみたRCT。パワー不足で有意差はつかなったが、再燃を減らし効果が期待できるかもしれない
 P:低疾患活動性のSLE患者さん
 I:メトフォルミン(商品名:メトグルコ)+SLE標準治療
 C:SLE標準治療
 O:プライマリアウトカム:SLE再燃
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<背景・目的>
 ・メトフォルミンは糖尿病薬として使用されているが、自己免疫疾患に対する利用が期待できるとされている
 ・T-helper 1細胞, 濾胞性helperT細胞、Th17、好中球、形質細胞様樹状細胞への作用が報告されている
 ・vitroでのCD4からIFN1を抑制、SLEモデルマウスにてT細胞代謝を改善
 ・オープンラベル試験で、軽度-中等症再燃低下、PSL量低下を示した(Wang H, Li T, Chen S, Gu Y, Ye S. Neutrophil extracellular trap mitochondrial DNA and its autoantibody in systemic lupus erythematosus and a proof-of-concept trial of metformin.Arthritis Rheumatol 2015; 67: 3190–200.)

<セッティング>
 ・上海の3施設

<研究デザインの型>
 ・ランダム化比較試験

<Population、およびその定義>
 ・SLE患者(199年ACRを満たす)
   18歳以上
   低疾患活動 (SLENA-SLEDAI6点以下、BILAGで1つ以上のscoreBがない)
   発症後1年以上経過 
   少なくとも1回以上の再燃歴
   1年以内にPSL20㎎以上の使用歴
   スクリーニング時にPSL、ヒドロキシクロロキン、免疫抑制剤、が30日以上固定されていること
 ・除外基準:糖尿病患者、随時血糖200㎎以上、肝障害(正常上限の2倍以上)、腎障害(クレアチニンクリアランス60ml/L以下)、妊娠中、授乳中、6か月以内のシクロフォスファミド使用、12か月以内のリツキサン使用、
 ・前半の6か月は、1-2か月ごとの来院、後半の6か月は2-3か月ごと来院
 ・1:1に割付(ブロック割付)
 ・患者、評価者、解析者は盲検化

<主な曝露、および、その定義>
 ・メトフォルミン1.5g/日
   *0.5g/日から開始して週に0.5g/日ずつ増量
   *増量途中で副作用のため増量できなくなったらその量で維持
   *PSLは、状態が安定していたら、主治医の判断で減量可能:7.5-20㎎では2.5㎎ずつ減量、7.5㎎未満では、1.25㎎ずつ減量しoffまで可能
   *PSLは当初の1か月は維持

<主なコントロール、および、その定義>
 ・プラセボ

<主なアウトカム、および、その定義>
 ・プライマリアウトカム:12か月以内の複合アウトカム発生(重症再燃、軽度-中等度再燃、もしくは両方)修正SLENA-SLEDAI flare indexを使用
 ・セカンダリアウトカム:ステロイド量の変化、BMIの変化, SELENASLEDAIの変化、副作用(Medical Dictionary for Regulatory Activities version 21で定義)、重症再燃、重度再燃までの期間、軽度-中等度再燃までの期間、

<解析方法>
 ・サンプルサイズ:180人
   パワー:80%、α:0.05、再燃出現に20%の差が期待、10%の脱落を考慮
 ・IIT解析(full analysis set:割付後に1回でも治療を受けた群で解析)
 ・χ² test 、 Student’s t test
 ・多重性の対策:Kaplan-Meier curve 、logistic regression model??←ここが理解できなかった
 ・有意差:0.05
 ・欠測対処:記載なし

<結果>
 ・試験は、2016/3/16-2017/12/13で行われた
 ・180人がスクリーニング→screened, and 149 (83%)人がエンロール
 ・9人(6%)は試験開始後除外:同意撤回(figure1)
 ・メトフォルミン群:67人、プラセボ群:73人
 ・中断例:メトフォルミン群:2人追跡不能、4人副作用のため薬剤中止、1人プロトコール逸脱、1人妊娠
        プラセボ群:2人追跡不能、1人副作用のため薬剤中止、2人プロトコール逸脱、1人妊娠、1人同意撤回
 ・140人中131人(94%)が女性
 ・平均年齢33歳 (SD 11·6)、平均罹病期間4.7年 (SD4·2)、平均SELENA-SLEDAI (スクリーニング時)2·59 (SD1·62)
 ・ベースラインデータは2群でバランスが取れていた(table1)
 ・118人(84%)で、メトフォルミンorプラセボ1.5g内服が可能であった。
 ・11人が1–1·25g、11人が1 g以下であったであり、両群でバランスがとれていた。
 ・メトフォルミン群で3人 (4%) が消化器症状で中止、プラセボ群では1人(1%)が同様の理由で中止
 ・12か月の経過観察期間で、メトフォルミン群:14人(21%)再燃、プラセボ群 25人 (37%)[relative risk [RR] 0·68, 95% CI:0·42–1·04, p=0·078]
 ・セカンダリアウトカム:ステロイド量変化、SLEDAIの変化では差はなく、BMIの変化は認めらた。
 ・12か月間での副作用はメトフォルミン群で少なかった(table3)
 ・重症副作用
   メトフォルミン群3例:1例急性腸炎、2例SLE再燃による入院、
   プラセボ群11例:1例腎盂腎炎、1例悪性リンパ腫、1例大腿骨頭壊死、8例SLE再燃による入院
    *再燃以外での重症副作用は、差はなかった
 ・副作用
   消化器症状:メトフォルミン群26人 [39%] vs プラセボ群11人 [15%]
   感染:メトフォルミン群17人 [25%] vs プラセボ群32人 [44%]
 ・重度再燃:メトフォルミン群9人 [13%] vs プラセボ群20人[27%](RR 0·59, 0·32–0·98, p=0·042; table 2). A Kaplan-Meier解析では12か月での重度再燃フリーはメトフォルミン群で有意に少なかった(ITT解析、PPT解析の両方)。ベースライン値が異なったBMIで調整したロジスティック回帰では同様の結果であった) (HR?0·39, 95% CI 0·16–0·94, p=0·036)

<Limitation>
 ・患者数が少なかったため、パワーが落ちた。当初の効果量を大きく見積もりすぎた可能性
 ・上海での研究で他の地区に適用できるかが不明(一般化可能性の問題)
 ・メトフォルミンの作用機序は、この試験では焦点ではなかったこと
 ・今回の検討では血中濃度での検討がされていない。

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
 ・Figure2の結果から考えると、じっくりと効いてくる薬剤であり、急性期には向かない
 ・費用が安く、副作用がない薬剤であり、今後期待ができる。現時点は適応外となるために使用できない
 ・SLE患者さんで糖尿病に対して使用している方を注意深く観察し臨床的な印象を蓄積する
 ・他疾患に対しての薬剤が、膠原病領域にて有効な可能性が他薬剤でもありうる。薬剤の作用機序を意識し勉強することを心がけることが重要

<この論文の強み>
 ・メトフォルミンをSLE患者に対して使用したはじめてのRCT

<この論文の好ましい点>
 ・より背景がそろい、アウトカムが発生しやすいParticipantsを設定できている

 

文責:矢嶋宣幸

 

 

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