BAFF受容体に対する抗体であるイアナルマブは原発性シェーグレン症候群に有効か?第2相試験【Journal Club 20200916】

Treatment of primary Sjögren’s syndrome with ianalumab (VAY736) targeting B cells by BAFF receptor blockade coupled with enhanced, antibody-dependent cellular cytotoxicity
B細胞活性化因子(BAFF)受容体に対する完全ヒトIgG1モノクローナル抗体であるイアナルマブは原発性シェーグレン症候群に有効か?第2相試験
Thomas Dörner, Maximilian Georg Posch, Yue Li, Olivier Petricoul, Maciej Cabanski, Julie Marie Milojevic, Esther Kamphausen, Marie-Anne Valentin, Claudia Simonett, Louise Mooney, Andreas Hüser, Hermann Gram, Frank Dietrich Wagner, Stephen John Oliver
Department of Medicine, Rheumatology and Clinical Immunology, Charite University Hospital, Berlin, Germany
Annals of the Rheumatic Diseases 2019;78:641-647.

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<サマリー>negative study
原発性シェーグレン症候群患者に対しB 細胞破壊型 B 細胞活性化因子受容体阻害モノクローナル抗体である ianalumab(VaY736)を単回投与した場合の安全性、忍容性、薬物動態および治療効果を評価することを目的とした第二相試験。イナルマブによる強力かつ持続的なB細胞枯渇が、大きな副作用を伴わずに倦怠症状の改善などPSS患者に治療上の有益性をもたらす可能性を示唆している。
P:活動性原発性シェーグレン症候群(pSS)患者
E:イナルマブ(リヨフィル酸塩150mg)(5%ブドウ糖輸液バッグで希釈)単回点滴静注
C:プラセボはビヒクル(5%ブドウ糖輸液バッグ)を投与
O:プラマリアウトカム:介入後12週後のESSDAI
セカンダリアウトカム:介入後12週後のESSPRI、介入後12週後のSF-36、介入後12週での多次元疲労インベントリ(MFI)、介入12週後のビジュアル・アナログ・スケール(VAS)、ianalumabの薬物動態指標(血清濃度-AUCinf /Cmax/ Tmax/ Vz [ タイムフレーム:0、1、2、3、6、9、12、16、20、24、約52週 ])
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<セッティング>
・2014年5月23日から2018年2月7日までのドイツの単一施設

<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
・ランダム化比較試験
・マスキング:4重(参加者、ケアプロバイダー、治験責任医師、アウトカム評価者)
・Study design:Figure1

<Population、およびその定義>
・pSS,抗核抗体(ANA)≧1:160で、リウマチ因子(RF)または抗SS-Aの血清陽性で、活動性疾患(EULARシェーグレン症候群疾患活動性指標[ESSDAI]≧6)を有する、18~75歳の欧米の改訂コンセンサス基準を満たす患者
・除外基準:結合組織疾患の併発、無作為化後84日以内にプレドニゾン10mg/日以上またはアザチオプリンによる治療を受けていること、リツキサンなどのB細胞減少療法の既往、その他無作為化前180日以内に他の生物学的製剤を使用していること、臨床的に重要な感染症の活動中または最近の既往歴、試験前2ヶ月以内のワクチン接種、原発性または二次性免疫不全症の既往歴 
*ヒドロキシクロロキンまたはメトトレキサートの無作為化前3カ月以上の一貫した用量での投与は許容としている
*疾患活動性評価の前または期間中の48時間以外での人工涙および人工唾液・唾液刺激剤の使用を許可
・合計27名の層別サンプリング内容:Table1
・安全性および有効性マーカーの評価は、投与前1日目と6週目、12週目、24週目、試験終了時(EoS時)に実施

<主な要因、および、その定義>
・3mg/kgのinalumab群(n=6)、10mg/kgのinalumab群(n=12)、プラセボ群(n=9)の三群にランダム化
・登録された患者全員が最初の24週間の盲検期間を終了し、解析の対象へ
・イナルマブ投与群の18人の患者全員がB細胞の回復時期まで追跡

<Control、および、その定義>
・プラセボ(5%ブドウ糖輸液バッグ)

<主なアウトカム、および、その定義>
・臨床アウトカム:
ESSDAI(医師による全身評価:12の臓器障害の評価)
ESSPRI(質問紙:乾燥症状・疲労症状・疼痛)
SF-36(36項目からなる患者の自己申告による健康状態の指標)
MFI(疲労を評価するための患者の自己申告によるアウトカム指標(質問紙))
・実験室レベルでのアウトカム:
循環白血球サブセットやB細胞活性のマーカーなど

<交絡因子、および、その定義>
・層別化内容:年齢、性別、人種、baseESSDAI、baseESSPRI
・ステロイド使用量

<解析方法>
・サンプルサイズ:27人
・IIT解析(投与群はB細胞機能が改善するまでフォローと記載)
・ベイズ反復測定モデル

<結果>Figure2,3、Table2
・SSDAIの個々の領域を評価した結果、最も改善が見られたのは関節領域であるが統計学的有意差なし
・ESSPRI のベースラインからの変化はianalumab群とプラセボ群で有意差なし
・3mg/kgのianalumab群では、6週目の時点で、全身疲労スコアがベースラインから5.4ポイント大きく減少し(95%CI 0.97~9.72)、身体疲労スコアがベースラインから4.4ポイント大きく減少した(95%CI 0.87~7.96)
・乾燥症状はianalumab群とプラセボ群の間でばらつきがあり評価困難
・ianalumabの単回投与では、プラセボ群と比較し投与群でCD19+ B細胞の減少
・B細胞数が最小値に達するまでの期間が1日から83日、回復までの時間も7週目から148週目までと患者間でかなりの差があり
・安全性について有害事象は軽度から中等度の重篤なもので、ianalumabに関連すると疑われる重篤な有害事象は指摘されなかった(Table2)
・最も一般的に観察された有害事象は軽度から中等度の輸液関連反応(頭痛、発熱、悪寒、吐き気、関節痛)、鼻咽頭炎の発生率の増加がプラセボと比較してianalumabに関連していた
・ianalumab投与患者では、B 細胞の回復期間にわたって、遅発性好中球減少症や低ガンマグロブリン血症の発現は認められなかった
・ベースラインの BAFF 血清値と臨床効果の評価項目との間に相関はなし

<結果の解釈・メカニズム>
・ESSDAI、ESSPRI、MFI、患者さんと医師によるグローバル評価では、2つのianalumab投与群間でばらつきがあった
・最も強い効果は、一般的に治療的介入に抵抗性のある pSS 疾患の主要な要素である疲労の減少の可能性が示された
・遅発性好中球減少症や低ガンマグロブリン血症などの重篤な有害事象が発生しなかったのは、BAFF-Rの作用点としてプロB細胞やプレB細胞はイナルマブの影響を直接受けないことが関与していると考察した

<Limitation>
・母集団が少ない点
・ドイツでの単一施設の研究である点(一般化の問題)
論文中に記載
・ESSDAIスコア自体にばらつきがある
・唾液腺生検などの組織レベルでの薬効評価は行われていない
・観察されたianalumabによる疲労改善効果についても、より長い曝露期間と観察期間を有する大規模な試験で確認する必要がある

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・ianalumabによる強力かつ持続的なB細胞枯渇が、安全性に大きな問題なくpSS患者の治療効果につながる可能性を示唆している
・高用量投与患者の臨床変化が試験終了まで持続していることから、曝露量を増やした場合のさらなる有効性が示唆される
・pSSにおけるianalumabの有効性を決定するためには、より多くの患者を対象としたより持続的な治療法のさらなる検討が必要であり、現在、pSS患者を対象とした大規模な試験が進行中である(NCT02962895)

<この論文の好ましい点>
・原発性シェーグレン症候群に対するianalumabの治療効果を検証しようとした初めてのRCT

 

<上級医コメント>
シェーグレン症候群に対する治療は、どの患者さんに適応させるかが議論がある。症状があきらかな進行していく方、腺外症状を有する方などであれば介入するが、前者をどのように見極めていくのが困難と考える。

文責:清水国香

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