巨細胞性動脈炎の診断における側頭動脈生検の最も適した長さは?【Journal Club 20201014】

Optimal length and usefulness of temporal artery biopsies in the diagnosis of giant cell arteritis : a 10-years retrospective review of medical records
巨大細胞性動脈炎の診断における側頭動脈生検の最適な長さと有用性:10年間の医療記録のレトロスペクティブレビュー

Raymand Chu, et al.

Lancet rheumatology published online August 20, 2020


<背景>
側頭動脈の生検長に関して、2020年にアップデートされたEULAR recommendationでは、少なくとも1㎝異常が推奨されている一方、生検感度は長さに依存するといった報告(本文献15,16)や0.5cmでよいといった報告(10)もみられ、一定の見解がない。至適生検長の上限を提案する報告もない。

 <セッティング>
カナダ アルバーダ州のAlbert health serviceのレポジトリから電子カルテデータを抽出
検出期間 2008年1月~2018年1月の10年間

<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
後ろ向きコホート研究

<Population、およびその定義>
   ・10年間に側頭動脈生検を受けた患者
   ・年齢や最終診断に関しては記載なし

<主な要因、および、その定義> 
■側頭動脈生検で巨細胞性動脈炎が診断されたか否かを検討
(一人の病理学者が、全記録をチェックし、Burke and Taora in Practical Cardiovascular Pathology 1st editionの基準にそって診断)
■年齢、性別、CRP、ESR、側頭動脈生検の特徴(左右・長さ)のデータを収集し、病理学的診断の予測因子を解析した

<Control、および、その定義>なし

<解析方法>

  • カテゴリ変数は頻度、連続変数はSDの平均、正規分布していない場合、IQRの中央値としてあらわした。
  • 年齢・ESR/CRP 血管長予測因子は95%CL、オッズ比を計算し、 ロジスティック回帰分析を行った
  • ベースラインの単変量解析でp値<0.2であった年齢、ESR,CRP, 血管長を逆方向と順方向のステップワイズ回帰を用いて多変量解析をおこなった。
  • モデルの適合度はhosmer-lemeshow goodness-fit testで行った
  • 多変量モデルと単変量モデルに病理学的陽性所見の予測因子として生検長のみを加えた、ROC曲線を作成
  • ロジスティック回帰モデルを様々な生検長のカットオフ値(0.5,1.0,1.5,2.0および5cm)で比較するため、Akaike information criterionを使用し、診断感度のchange pointを決定した。

<結果>
 ・1176名、1203生検検体を抽出
  ⇒要請ではあったが、診断基準を満たさないため13検体を除外
  ⇒最終的に1190生検検体(1163名)を検証

  • 222/1190(18.7%)が病理学的に巨細胞性血管炎の診断を満たした
  • 単変量解析では年齢、ESR値、CRP値、生検長が陽性予測因子として抽出された(table1)
  • 多変量解析では年齢、CRP、生検長が生検陽性予測因子として抽出された(table1)
  • 生検長を層別にodds比を比較すると、5cmがchange pointとされた(Akaike information criterion)
  • AUCは血管長を含む多変量因子で69, 血管長を除くと0.68、血管長のみ0.60であった(figure )

<Limitation>
  ■レポジトリの電子カルテ記録からの抜粋(選定基準は生検施行例)の限界

  • 治療内容が不明(ステロイドの先行投与が診断精度を下げている可能性)
  • 側頭動脈の理学所見が不明(視診上異常が強ければ、長くとられている可能性がある)
  • 側頭総脈の生検部位が統一されていない
  • 個々のケースの最終診断が不明(個々の生検の必要性が不明瞭 TA除外目的に行っているものも多く含む可能性)
  • 最終確認は一人の病理医だが、初期の診断レベルの差も重要
  • 考察には、手術による有害事象を減らすため、生検長の上限を考察する必要性について触れているが、有害事象の検討はされていない

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>

  • 外科とのより円滑な連携や、評価の統一化のためにも生検長を決定しておくことは重要
  • 巨細胞性動脈炎に関しては側頭動脈が唯一の組織学的診断が可能な部位でありより精度を高める必要がある。

<この論文の好ましい点>
 ・レポジトリを利用し、多くのケースを集めている点
 ・侵襲の大きな検査・処置に対し、振り返り考察をしている
 ・有効な最大長に関して考察している点

<この論文にて理解できなかった点>
    ・AUCをみると、生検長はそこまで重要でない印象を受ける⇒この解釈は?

 

文責 高橋良

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