大血管炎に対するトシリズマブ単剤治療の効果について【Journal Club 20210414】

Tocilizumab monotherapy for large vessel vasculitis: results of 104-week treatment of a prospective, single-centre, open study

大血管炎に対するトシリズマブ単剤治療の効果について

 著者   Shuntaro Saito, et al.

掲載雑誌/号/ページ Rheumatology 2020;59:1617–1621

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<サマリー>
新規発症の巨細胞性動脈炎と高安動脈炎の患者に対してトシリズマブ単剤による寛解導入療法を行い、有効性と安全性を評価した。トシリズマブ単剤治療は巨細胞性動脈炎と高安動脈炎に対してステロイド薬の代替治療になり得る
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<背景>
巨細胞性動脈炎(GCA)と高安動脈炎(TAK)は原因不明の原発性全身性血管炎であり、大動脈とその主要な分枝を侵す大血管に障害をもたらす。現在、寛解導入療法の第一選択薬はグルココルチコイド(GC)であるが、GCの長期使用に伴う有害事象として、感染症、骨粗鬆症、糖尿病、心血管イベント、精神病などが知られている。特にGCA患者の多くは高齢者であり、GCに関連する有害事象は重要な問題となることが多く、GCに代わる副作用の少ない標準治療が求められている。
トシリズマブ (TCZ)は、抗IL-6受容体抗体であり、既存のランダム化比較試験でGCAおよびTAKに対して有効性が示され、本邦でも2017年より同疾患に対する保険適応薬として広く使用されている(N Engl J Med 2017;377: 317–28.) (Ann Rheum Dis 2018;77:348–54)。
しかし、GCを併用せず、TCZ単独療法がGCAやTAKに有効であることを示した前向き研究はなく、今回、GCAおよびTAKに対するTCZ単剤療法の有効性と安全性を評価するための前向き臨床試験を実施した。

P:新規発症の巨細胞性動脈炎または高安動脈炎
E:トシリズマブ単剤での治療
C:なし
O:有効性と安全性(寛解率、再発率)

<セッティング>
2013年1月から2016年5月までに埼玉医科大学病院で新規に診断された大血管炎の患者

<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
単施設、非盲検、前向き研究

<population およびその定義 >
American College of Rheumatology 1990年の診断基準を満たすGCAおよびTAK

<除外基準>
活動性の感染症を認める患者、主治医が不適格と判断した患者

<主な要因、および、その定義>  
トシリズマブ(TCZ)の投与

<Control、および、その定義>
なし

<主なアウトカム、および、その定義>
寛解率、再発率、安全性

<治療プロトコール>
TCZ(8mg/kg)を経静脈的に最初の2カ月間は2週間毎(5回/2ヶ月)、その後10カ月間は4週間に1回(10回/10か月)、計15回の投与を行った。最後のTCZ投与後、1年間は無加療で追跡調査を行った。
*再燃などで主治医が必要と判断した時以外はGCや他の免疫抑制薬は使用しない。

<言葉の定義>
★完全寛解(CR)
血管炎による臨床症状の全てが消失、かつCRP(0.3 mg/dl)が正常化した場合。

★部分寛解(PR)
血管炎による臨床症状が消失しないものの改善、かつCRP(0.3 mg/dl)が正常化した場合。

★反応不良 
CR/PRの基準を満たさない場合。

★再発  
臨床症状の悪化または再発 or 血管炎に起因するCRPの上昇 or GCまたはその他の免疫抑制薬が必要となった場合。GCまたは免疫抑制薬の必要性は主治医が判断。

<解析方法>
GCA群とTAK群の臨床データをWilcoxon検定およびフィッシャーの正確検定を用いて比較。統計解析はJMP ソフトウェア 14.0.0 を使用。
欠損データに関しては最後の観察データの繰り上げを行った。

<結果>
合計11名の患者(GCA8名、TAK3名)が評価された。

★GCA と TAK の診断時の臨床的特徴(Table 1)
年齢の中央値は、GCA群で74歳、TAK群で27歳であった。
罹患期間の中央値は、GCA群では2カ月、TAK群では3カ月。
GCA8例全てに頭痛などの頭頸部の症状あり。眼病変を認める患者はなし。
GCA4例に側頭動脈生検が行われ、全例で動脈炎が証明された。

★TCZ開始後のCRおよびPR、反応不良、再発した患者数の推移(figure 1)
A、GCA患者 計8例       
B、TAK患者 計 3例

①0~52週までの評価
GCA患者(計8例)では、24週時点でCRが6例(75%)、PRが2例(25%)、反応不良 0例(0%)であり、52週時点でも同様であった。
TAK患者(計3例)では、24週時点でCRが2例(66%)、PRが0例(0%)、反応不良 1例(33%)であり、52週時点でも同様であった。
※GCA患者1名が24週時点で心不全を合併し、TCZ投与中止に至った。
※0~52週ではPR・反応不良の患者に残っていた症状は軽微であったため、追加治療を行われていない。

②52週以降(TCZ中止後)
GCA患者(計7例)では2例(29%)で再発した。(78週目、104週目に再発)
TAK患者(計3例)では、2例(66%)で再発した。(60週目、64週目に再発)
※全ての患者で観察期間中に失明、動脈瘤形成、大動脈拡張などの所見は見られなかった。

★画像所見の変化(CTおよびPET-CTの所見)
10例(GCA 7例、TAK 3例)で動脈壁の肥厚を示すCT所見を、0週目と52週目で比較。
造影効果を伴う動脈壁の肥厚とその所見の変化を放射線科医によって評価した。
(心不全のためにTCZ投与中止に至ったGCA 1例は画像撮影できず)
正常化(2/10例)、改善したが残存(5/10例)、変化なし(3/10例)、悪化(0/10例)であった。
CT所見が正常化した1名のGCA患者は0週目と52週目にPET-CTを施行。血管内への集積と分布が顕著に改善されている。(Supplementary figure S2)

★試験中の有害事象
GCA患者1名が24週目に心不全となり、TCZを中止した。
その他の重篤な有害事象はなかった。
TAK患者の1例が試験期間中に妊娠し、正常に出産した。

<結果の解釈・メカニズム>
GCAやTAKの病態生理にIL-6が重要な役割を果たし、臨床的にも効果があることは、既知の事実であるが、トシリズマブ単剤治療(ステロイドフリー)でも寛解導入療法が可能となり得ることを示した。

<Limitation>
単施設。ランダム化されていない。非盲検。無比較。症例数が少ない。
TCZの初期投与量が保険適応より多い量を使用している。
※保険適応の場合 648mg/月、本研究の場合 800~1200mg/月(50 kg計算)
眼病変などの重篤な症状がある患者などは除外されている可能性がある。
動脈瘤の発生などの長期的・重篤な合併症、死亡率などは評価出来ていない。

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
重篤な臓器合併症がない症例やステロイド使用によるリスクが高い症例では、GCA、TAK患者の寛解導入療法としてTCZ単剤療法(もしくはステロイド少量やステロイドパルスの併用)を治療選択として考慮してもよい。

<この論文の好ましい点>
GCAやTAKに対するトシリズマブ単剤(ステロイドフリー)での寛解導入療法、効果・安全性を報告した初めての研究である。

<この論文にて理解できなかった点> 
心不全のためにTCZを中止した症例がどうなったかの詳しい記載がない。

担当:石井 翔

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