免疫チェックポイント阻害薬による炎症性関節炎の治療【Journal Club 20210428】

Treatment of immune checkpoint inhibitor-induced inflammatory arthritis

 著者   Susanna Jeurling, et al.

掲載雑誌/号/ページ Curr Opin Rheumatol. 2020 May;32(3):315-320.

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<サマリー>
免疫チェックポイント阻害薬により誘発された免疫関連関節炎に対する治療戦略のレビュー

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<背景>
免疫関連関節炎は免疫チェックポイント阻害薬の副作用として発現する一般的なものの一つである。多くは低容量のコルチコステロイドやcsDMARDsでの治療によりコントロールすることが可能であるが、一部にはTNF阻害薬やIL-6受容体阻害薬を要するケースがある。また、関節炎は免疫チェックポイント阻害薬の中止により消失するが、その後持続するケースもある。関節リウマチなどの炎症性関節炎の既往があるケースでも低容量コルチコステロイドの使用によりコントロールすることが可能である。

<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
レビュー

序文
 免疫チェックポイント阻害剤は主に、T細胞と他の細胞間の抑制をブロックすることによって機能し、T細胞の活性化を促進することで抗腫瘍効果をきたす。現在承認されているのは、CTLA-4、PD-1、およびPD-L1を対象としており、LAG-3、TIM-3、TIGITなどが現在開発中である。免疫関連関節炎の発生率は1−7%程度とされるが、40%との報告もある。多くの症例で治療に低容量のコルチコステロイドが用いられる。関節炎の表現型は複数報告されており、関節リウマチに類似した小関節メインの多関節炎、下肢を中心とした大関節炎、腱鞘炎、乾癬性関節炎、RS3PE症候群様関節炎が挙げられている。抗PD1単剤療法で治療された患者は、小関節メインの多関節炎を発症する可能性が高くなるが、抗CTLA4療法を単独または併用療法で治療された患者は、膝関節炎をきたすことが多い。炎症マーカーは上昇し、多くの症例でリウマチ因子および抗シトルリン化タンパク質抗体は陰性である。画像所見には、超音波検査での滑膜炎や腱鞘炎および腱付着部炎、MRIでの関節液貯留および滑膜炎や骨びらんが認められる。

包括的な原則
 免疫関連関節炎の管理については腫瘍の治療医との連携が望ましい。免疫チェックポイント阻害剤の副作用はグレード分類されており、関節炎のグレード1は、発赤、炎症、腫脹を伴う軽度の痛みとされる。中等度の痛みとADLに制限をきたすグレード2、不可逆的な関節損傷とセルフケアADLの制限をもたらす激しい痛みとしてのグレード3と4。
 グレード1はアセトアミノフェンやNSAIDなどの鎮痛薬で管理できることが多い。グレード3以上では免疫チェックポイント阻害薬の休薬が検討されるが、長期に及ぶ治療を受けている患者では、原則継続することが望ましい。

初期治療について
 初期治療はアセトアミノフェンを含むNSAIDsであり、無効の場合、コルチコステロイドが用いられる。大関節炎に対してはコルチコステロイドの関節内注射も行われる。コルチコステロイドは10mg-20mg/日で開始される。機能制限が重度の患者では、40-60mg/日が必要となるケースがある。コルチコステロイドに対する副作用のリスクがある患者や、10mg/日未満に減量が困難な患者では、MTXやSASP、LEF、HCQなどのcsDMARDsの使用が推奨される。治療薬に対する比較試験はなく、関節炎の重症度や並存疾患により決定することが望ましい。

生物学的製剤について
 生物学的製剤の使用については上記の治療に対して難治例であった場合や、関節炎の早期な消失が必要な例やコルチコステロイドの減量や使用を回避するために用いられる可能性がある。免疫チェックポイント阻害薬の副作用のため一時的に使用を中断し、再度使用する間の限定的な治療に用いられることがある。また、終末期のADL向上のために用いられる可能性がある。この施設ではTNF阻害薬を2、3回使用すると関節炎は改善するが、csDMARDsへの反応は鈍くなった傾向がある。で治療されたケースシリーズがある。これまで、csDMARDsやTNF阻害薬による治療が全生存期間や悪性腫瘍の進行に影響を与えないという報告はケースシリーズでこれまで散見されている。悪性黒色種ではTNF阻害薬の1、2回程度の短期治療では腫瘍の治療経過に進行を認めなかったとの報告もある。TNF阻害薬でのコントロール不十分例でトシリズマブでの治療が奏功した例が3例報告されている。そのうち1例はトシリズマブ治療後も再発なく、2例は免疫チェックポイント阻害薬と併用で治療されていた。免疫関連関節炎のこれまでの報告では、生物学的製剤の使用例のほとんどで免疫チェックポイント阻害薬の使用は継続されている。今後も報告例の蓄積が望まれる分野ではある。免疫チェックポイント阻害薬の中断につながる副作用として頻度の多い、免疫関連腸炎については5人の患者の報告でいずれもIFXでの治療を受け、悪性腫瘍および免疫関連腸炎のいずれもコントロールされた。

免疫抑制療法と悪性腫瘍の経過について
 免疫調節剤での治療は免疫チェックポイント阻害薬の治療効果が減弱するという理論上の懸念があるが、現状は報告により異なる。短期間のコルチコステロイは、黒色腫および他の腫瘍における抗腫瘍効果の減弱とは関連しないとされ、さらに、IFXの1-2回の投与による短期間の投与は、黒色腫におけるイピリムマブの効果減弱を来さなかった。しかし、下垂体炎のために高用量のコルチコステロイドを投与された患者は、副腎不全のためにコルチコステロイドを投与された患者よりも全生存期間が悪化した。プレドニゾロン10mg/日以上を投与された患者は、非小細胞肺がんに対する抗PD-1および抗PD-L1剤に対する治療効果減弱が見られたため、ベースラインの免疫抑制も有害である可能性がある。

関節炎の持続する例について
 免疫チェックポイント阻害薬での治療を中止したにも関わらず、関節炎が持続するケースが報告される。41人の免疫関連関節炎のケースでは中止後、半年以上の追跡の中で約半数の20人が関節炎を有していた。その要因として、免疫チェックポイント阻害薬の併用療法や治療期間が長期に渡っている傾向にあった。このことからそれらの症例は頻繁にモニタリングが必要となる可能性が考えられた。免疫チェックポイント阻害薬による副作用の発現と腫瘍の良好な経過は相関する可能性がある。免疫関連関節炎においても、関節炎が持続する方が腫瘍の経過が良好な傾向がみられていた。

その他の注意点
 免疫関連関節炎の治療を行う際には肝炎ウイルスや結核のスクリーニング検査を行うべきである。治療期間や漸減についてのデータはないため個々に設定される。多くの症例で免疫チェックポイント阻害薬の追加がなされるが、その必要性については十分な協議が必要とされる。

自己免疫性関節炎を有する患者について
 自己免疫性関節炎や他の自己免疫疾患を有する患者は免疫チェックポイント阻害薬による治療の結果、悪化する可能性がある。当初の免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験では除外された群のため後ろ向きコホート研究のみある。抗CTLA-4療法で治療された自己免疫疾患の黒色腫患者では、27%の患者に悪化がみられたが、コルチコステロイドでのコントロールが可能であった。50%の患者は原疾患の増悪も腫瘍の再発も起きなかった。PD-1標的療法による治療では、38%の患者に増悪を認めたが、これも免疫抑制剤による治療が可能であった。2011年から2016年の間のメイヨークリニックの700人の患者のうち、16人が自己免疫疾患を有し、5人は関節リウマチであった。16人のうち6人が免疫関連の副作用が出現し、自己免疫疾患の増悪は1人だった。オーストラリアの多施設のケースシリーズでは、12人中10人が増悪し、そのうち4人が炎症性関節炎の患者であった。フランスの112人の患者のうち20人が関節リウマチであり、多くは乾癬であった。24人が免疫抑制療法を受けており、関節リウマチは13人(65%)であった。自己免疫疾患の増悪や別の免疫関連の副作用は71%の患者に生じ、47%は自己免疫疾患の増悪をきたした。免疫抑制剤の投与がされたのは、再燃や新たな副作用が起こった患者であり、43%の患者であった。このデータでは生存期間の中央値は、免疫チェックポイント阻害薬での治療開始時に免疫抑制療法を受けている患者の方が短かった(3.8か月対12か月)。免疫チェックポイント阻害薬を開始する前に免疫抑制剤での治療を中止する根拠まではなりえないが、腫瘍治療医とのコミュニケーションの必要性が高いと考えられ、個々の症例ごとにリスクベネフィットを考慮するべきである。

結語
 悪性腫瘍の治療において免疫チェックポイント阻害薬は一つの有効な治療法であり、リウマチ医は精通する必要がある。初期治療は、閾値の低いNSAIDsやコルチコステロイドを用いcsDMARDsの導入へスムーズに移行させるべきである。TNF阻害剤による生物学的療法は難治性関節炎に効果的であり、抗腫瘍効果を低下させる根拠は現段階ではないが、より長期的な研究が必要である。既存の炎症性関節炎の患者は免疫チェックポイント阻害薬での治療により、増悪する可能性がある。ただし、ほとんどの場合は上記の治療戦略でコントロールが可能であり、癌治療を差し控える必要はないと思われる。免疫療法は治療を受ける患者と薬剤標的の両方の観点から拡大していくと思われるため、より前向きな研究が必要である。

<Limitation>
BUCやIGUといったcsDMARDsの報告はなく、生物学的製剤も全てが使用されてきたわけではない。

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
免疫関連関節炎に対する治療の参考とする。

<この論文の好ましい点>
免疫関連関節炎のレビュー

<この論文にて理解できなかった点> 
特になし

担当:徳永 剛広

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