JAK3-STAT pathway blocking benefits in experimental lupus nephritis
Arthritis Research & Therapy 2016; 18: 134.
目的:
SLEにおけるJAK-STAT経路の関与とループス腎炎に対するtofacitinibの効果を明らかにする。
方法:
SLEのモデルマウスであるNZB/NZWF1マウスをシクロフォスファミド(CYP)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、トファシチニブ(TOF)で12週間治療した。
未治療群と腎機能、抗dsDNA抗体価、腎組織学的変化、C3・IgG沈着、T細胞・マクロファージ浸潤、炎症性遺伝子発現、サイトカインの変化を評価した。
結果:
トファシチニブはSLEモデルマウスにおける抗dsDNA抗体の減少、タンパク尿の減少、腎組織における組織的ダメージの軽減、腎組織への炎症細胞浸潤の抑制、腎臓における炎症性サイトカイン、STATの遺伝子発現抑制、全身における炎症性サイトカインの抑制を認めた。
Figure1 TOF(CP)、MMF、CYPで治療したマウスの(a)蛋白尿と(b)アルブミン尿
Controlと比べ、TOF、MMF、CYPで治療したマウスの蛋白尿とアルブミン尿はほぼ正常範囲まで低下した。
Fig2 血清抗dsDNA抗体価への影響
TOF、MMF、CYPのいずれも抗dsDNA抗体価を減少させたが、TOFにおいては著名な抗体価の減少が認められた。
Fig3 TOF、MMF、CYPの腎病理組織における影響を項目ごとに評価する。
メサンギウム増殖、毛細血管外増殖、糸球体沈着、毛細血管内増殖、間質性浸潤、尿細管萎縮、間質性線維化
各病変に0~3の組織学的スコアを用いてスコアリングした。
CYP:すべての病変を減少させた。
MMF:糸球体沈着、毛細血管外増殖、間質性線維化は完全にみられなかった。
TOF:毛細血管外増殖、尿細管萎縮、間質性線維化は完全にみられなかった。
それぞれの組織学的スコアを比較すると、治療群はコントロールと比べ、有意に組織学的スコアを減少させた。
Control: 8.6±1.1、CYP=2.6±0.8、MMF=1.6±0.5、TOF=2.6±1.2
Fig4 腎組織におけるIgGおよびC3の沈着
C3の沈着はCYP>MMF>CPの順により抑制された。
IgGではCP>MMF>CYPの順に抑制された。
Fig5 腎組織でのマクロファージとT細胞の浸潤
すべての治療群でマクロファージの浸潤は減少していた。
マクロファージは主にボーマン嚢に近い糸球体の周辺と間質領域に局在していた。
T細胞は尿細管間質に局在していた。
Table1 腎臓における遺伝子発現
STAT: すべての治療で遺伝子発現の減少
IL2, IL6:すべての治療で遺伝子発現の減少
TLR9:dsDNAのセンサーであり、未治療群で過剰発現しており、治療群で発現が抑制された。
Fig6 全身の炎症性サイトカイン
CYPはTNFα以外すべてのサイトカイン産生を抑制した。
TOFはTNFα、IL17、IFNαのサイトカイン産生を抑制する。
トファシチニブはSLEモデルマウスにおける抗dsDNA抗体の減少、タンパク尿の減少、腎組織における組織的ダメージの軽減、腎組織への炎症細胞浸潤の抑制、腎臓における炎症性サイトカイン、STATの遺伝子発現抑制、全身における炎症性サイトカインの抑制を認めた。
結論:
SLE発症早期のトファシチニブによる治療は、SLE(ループス腎炎)において新しい効果的な治療選択となる可能性がある。
担当:猪狩雄蔵