Late-onset systemic lupus erythematosus: characteristics and outcome in comparison to juvenile- and adult-onset patients—a multicenter retrospective cohort
Basma M Medhat, Mervat Essam Behiry, Nesreen Sobhy, Yomna Farag, Huda Marzouk, Noha Mostafa, Iman Khalifa, Marwa Elkhalifa, Basma M. Eissa & Eman Hassan ElSayed Hassan
Clinical Rheumatology volume 39, pages435–442 (2020)
【背景】
全身性エリテマトーデス(SLE)は、女性ホルモンの影響を含むいくつかの要因がこの疾患の異質性に寄与しているため、多くが出産可能年齢の女性の疾患となっている。
しかし、高齢発症する例も一定数みられ、併存疾患を持つことが多いなど、疾患のパターンや転帰に影響を及ぼす可能性のある要因が存在することが特徴的である。
本研究は、高齢発症SLE患者の疾患パターンと転帰を後方視的に調査することを目的として行われた。
【対象者と方法】
2012年のSystemic Lupus Collaborating Clinics(SLICC)分類基準を満たし、カイロ大学、アレキサンドリア大学、ヘルワーン大学の内科、リウマチ・リハビリテーション科、小児リウマチ科で管理された患者700名の医療記録を後方視的に閲覧し、そのうち、データの50%以上が欠落していた患者、罹患期間が6カ月未満であった患者、不完全型ループス、円板状ループス、薬剤誘発性ループスであった125名の患者を除外し、以下のデータを収集した。
1.
人口統計学的データ (i)記録された最後の受診時または死亡時の年齢、(ii)初期症状の発症時の年齢として、若年発症(発症から16歳未満)、成人発症(16~50歳)、高齢発症(50歳以上)のいずれかに決定された発症時の年齢。データ収集時に成人であっても、若年発症の場合は罹患期間が長くなる可能性があるため、本研究には含めなかった。(iii)罹患期間は、症状の発現から記録された最後の来院日または死亡日までとした。
2.
臨床的特徴:累積臨床症状を記録した。症状はSLICC分類基準に基づいて定義され、併存疾患の有病率および多臓器不全(併存疾患≧2)も記録された。
3.
二次性抗リン脂質症候群(APS)と診断された患者は、2006年札幌クライテリア シドニー改変の基準に従った。
4.
血清学的調査では、抗核抗体、抗ds-DNA抗体、抗Ro/SS-A抗体、抗La/SS-B抗体、抗Sm抗体を行った。抗カルジオリピンIgG、抗カルジオリピンIgM、ループスアンチコアグラントのいずれかが陽性であれば、抗リン脂質抗体(aPL)が陽性であるとした。C3とC4は正常または低値と記録した。
5.
最終来院時の疾患活動は、Systemic Lupus Erythematosus Disease Activity Index-2K(SLEDAI-2K)により評価した。Lupus low disease activity (LLDA)は、主要臓器(腎、CNS、心肺、血管炎、発熱)に活動性がなく、SLEDAI-2K≦4と定義された。
6.
疾患の転帰は、臓器障害と死亡率にて評価した。臓器障害は、Systemic Lupus International Collaborating Clinics/American College of Rheumatology Damage Index(SDI)を用いて調査し、障害の有無(SDI≧1)を評価するために、連続変数(障害スコアの合計)および二分法変数の両方で記録した。
7.
最終来院時に患者が受けた治療を記録し、グルココルチコイド(GC)の低用量を経口プレドニゾロン≦7.5mg/mg/day、中用量を>7.5-30mg/day、高用量を>30-100mg/dayと定義した。
【統計解析】
データは、定量的なデータでは平均値、標準偏差、中央値、最小値、最大値を用いてまとめ、カテゴリー的なデータでは頻度と相対頻度を用いて集計した。量的変数間の比較は、ノンパラメトリックなKruskal-Wallis検定とBonferroni補正によるMann-Whitney検定を用いて、事後検定を行った。カテゴリーデータの比較には、カイ二乗検定を行った。p値が0.05未満の場合は、統計的に有意とした。
【結果】
《臨床症状と血清学的所見》
table1:
この後方視的コホートには575名の患者が含まれ、そのうち49名(8.5%)が高齢発症SLE患者、420名(73%)と106名(18.4%)がそれぞれ成人発症SLEと若年発症SLE患者であった。
table2:
全身症状では、高齢発症SLEでは発熱が最も少なく、体重減少とリンパ節腫脹が最も多かった。蝶形紅斑、光線過敏症、皮膚血管炎、円板状皮疹などの皮膚症状の欠如が目立ち、漿膜炎と白血球減少もみられる頻度は低かった。
臓器別では、高齢発症SLEでは腎炎(7/49 (14.3%))および精神神経系(2/49 (4.1%))の主要臓器病変が統計的に最も少なかった。腎炎が最も多かったのは若年発症SLE患者(67%)であり、精神神経系病変が最も多かったのは成人発症SLE患者(25.2%)であった。
血清学的検査では、高齢発症SLEでは低補体血症が最も少なく、抗ds DNA抗体が最も多く検出された。
《併存疾患》
table3:
高齢発症SLEの約75%に併存疾患が認められ、多臓器不全(2つ以上の併存疾患)は約35%に見られた。高齢発症SLE患者に最も多く見られた併存疾患は、高血圧(17/49 (34.7%))、次いで骨粗鬆症(16/49 (32.7%))であった。 悪性腫瘍は、若年発症SLEと成人発症SLEの患者ではみられなかったが、高齢発症SLEの患者では2/49(4.1%)にみられた。
《疾患活動性と転帰》
table4:
SLEDAI-2Kスコアは、高齢発症SLEが最も低く、若年発症SLE患者が最も高かった。
LLDA(SLEDAI-2K≦4)を達成した高齢発症SLE患者の数は、他の年齢層に比べて最も多かった。
臓器障害を評価するSDIスコアは、高齢発症SLEで最も低く、何らかの臓器障害を示した患者数(SDI≧1)も少なかった。死亡率は3つの年齢層で同程度であり、死亡原因についても3つのグループ間で差はみられなかった。
《治療》
table5:
高齢発症SLE患者では、ステロイドの投与量が少なく、免疫抑制剤の使用率が低かった。
【考察】
高齢SLEでは皮膚症状などの典型的症状が欠如した「陰性発症」が特徴的であった。
高齢発症SLEにおけるいくつかの症状の有病率については、様々な研究でばらつきがあり、全身症状、皮膚症状、血清学的症状、漿膜炎の頻度が低く、sicca症状の有病率が高いことは多くの研究で共通しているが、血清学的症状や漿膜炎の有病率が高いとする報告例も散見される。
このような様々なコホート間の不一致は、人種の違いを含むいくつかの要因に起因すると考えられる。
・中国で行われた2つの研究を除いて、異種民族の高齢発症SLEでは本研究と同様に腎炎の有病率が最も低かった。
・ラテンアメリカでの2つの研究を除いて、異種民族の高齢発症SLEでは本研究と同様に精神神経系病変の有病率が最も低かった。
低補体血症は高齢発症SLE患者で最も少なかったが、これは既報と同様である。
一方、いくつかの報告とは異なり、高齢発症SLE患者では抗ds DNA抗体の陽性率が最も高かった。これは、高齢者のSLE診断がより厳格である(診断基準の項目を満たす数が少なく、基準を満たすために抗dsDNA抗体が陽性である必要性が相対的に上昇する)ことに起因すると考えられる。
高齢発症SLEでは、併存疾患が多い傾向がみられた。既報では骨粗鬆症、甲状腺機能低下症、糖尿病、高血圧が高齢発症SLEに多くみられ、本研究と類似していた。また、多臓器不全(2つ以上の併存疾患)についても最も多く検出された。
高齢者においてSLEはより良性の疾患であると以前から示唆されていたが、併存疾患の観点からは高齢発症SLEの難しさが明らかとなった。しかし、高齢発症SLEにおける臓器障害を評価するSDIスコアでは最も良好な成績を示しており、死亡率も他の群と比較して同程度であった。
【Limitation】
・患者対象が中東に限定されたコホート研究であり、本邦での診療にそのまま当てはめることは難しい。(東アジアでの既報では本研究と比べて腎炎の割合が高かったことも記載されている。)
・後方視的研究であり、いくつかのデータが欠落している。
・観察機関が成人発症群で有意に長いにもかかわらず累積臨床症状での評価を行っており、成人発症群での疾患特性や転帰について過大評価がなされている可能性がある。
・組み込み(SLICC2012)と評価項目に重複する点が多く、皮膚症状の欠如や腎所見の欠如が他の項目の陽性率を底上げする要因となる懸念がある。
【本研究の良かった点】
・複数の施設に跨って症例を収集しており、サンプルサイズが大きい。
・高齢発症SLEの疾患特性と転帰について網羅的に比較評価を行っている。
【今後の課題】
・治療中の合併症などの評価
・初期治療の強度や再燃率などの評価
・多人種間での疾患特性の比較
担当:井上良