多発性筋炎/皮膚筋炎に伴う間質性肺疾患における初期の血清バイオマーカーの組み合わせによるリスク予測モデリング【Journal Club 20211020】

Risk Prediction Modeling Based on a Combination of Initial Serum Biomarker Levels in Polymyositis/Dermatomyositis–Associated Interstitial Lung Disease
多発性筋炎/皮膚筋炎に伴う間質性肺疾患における初期の血清バイオマーカーの組み合わせによるリスク予測モデリング
Arthritis & Rheumatology Vol. 73, No. 4, April 2021, pp 677–686

<サマリー>
CRP、KL-6の値、抗MDA-5抗体を組み合わせた予測モデルは、PM/DM-ILD患者の予後予測に有用である。

<セッティング>
JAMI:2011年10月から2015年10月に参加施設を受診したPM/DM-ILD発症症例を対象。多施設共同のレトロスペクティブコホート。

<研究デザインの型>
予後予測モデルの構築研究

<Population、およびその定義>
・派生コホート:JAMIデータベースに登録されたPM、古典的DM、CADMの成人患者497名
・検証コホート:オリジナルのJAMIコホートへの登録が終了した後にJAMI参加施設を受診したPM/DM-ILDの成人111名

<主な要因、および、その定義>
抗MDA-5抗体、抗ARS抗体、CRP、フェリチン、KL-6、SP-D

<主なアウトカム、および、その定義>
死亡、ILD関連死亡

<交絡因子、および、その定義>
予測モデル構築のため該当なし

<解析方法>
・多変量解析は、抗MDA-5陽性群と抗MDA-5陰性群に分けて実施した。
・死亡に対するバイオマーカーのカットオフ値は、ROC(receiver operating characteristic)解析を用いた。
・多重共線性を評価した後、バイオマーカーの二値変数をCox比例ハザードモデルに適用し、全死亡を予測する最適モデルを特定した。
・Breslow検定で選択されたバイオマーカーを用いて、最終的なCox比例ハザードモデルを決定した。
・モデル内の予測変数を選択した。Wald 検定、ステップワイズbackward法(P ≥ 0.10)
・治療が予測モデルに与える影響を調べるため、高用量グルココルチコイド(プレドニゾロン換算で1日50mg以上)、カルシニューリン阻害剤(シクロスポリンまたはタクロリムス)、シクロホスファミド、静脈内免疫グロブリンなどの初期治療薬を、潜在的交絡因子として最終的な多変量モデルに組み入れた。
・オリジナルのCox比例ハザードモデルを検証するために、二値のすべての欠損値に対して、1,000個の代入されたデータセットを用いて、多重代入法を適用した。
・多重代入法では、先行研究で有意であったすべての二値またはカテゴリー変数を使用した。
・結果は,ハザード比(HR)と95%信頼区間(95%CI)で示した。
・Cox比例ハザードモデルから得られた有意な変数を用いて、死亡率の予測モデルを作成した。
・さらに、元のデータセットから各スコアの死亡率を求め、1,000回再サンプリングしたデータセットを用いたブートストラップ解析により95%CIを算出した。
・多重比較のP値はBenjamini-Hochberg法で調整した。
・累積生存率は,Kaplan-Meier 分析を用いて評価し,Breslow 検定によりサブグループ間で比較した。
・05未満のP値を有意とした。

<結果>
・派生コホートと検証コホートにおけるPM/DM-ILD患者のベースライン特性と初期治療→table1
・観察期間の中央値20カ月(範囲1~50カ月)の間に93人(19%)の患者が死亡
・死因は、ILD関連呼吸不全76名(82%)、感染症5名(5%)、悪性腫瘍5名(5%)、腎不全、心筋症、自殺などのその他7名(8%)であった。
・死亡した93人のうち、73人(78%)が抗MDA-5抗体陽性であった。
・抗MDA-5抗体がJAMIコホートにおける死亡率の最も強い予測因子であることが明確に示された。抗MDA-5抗体陽性患者の主な死亡原因は、ILDに直接関連する呼吸不全(92%、n=67)であった。
・死亡率の予測に有用な初期血清バイオマーカーの同定
抗MDA-5抗体陽性患者と抗MDA-5抗体陰性患者の全死亡率の予測モデルを独立して開発

予測因子となる血清バイオマーカーの候補
・抗MDA-5陽性患者:CRP、フェリチン、KL-6、SP-D、抗MDA-5抗体
・抗MDA-5陰性患者:CRP、フェリチン、KL-6、SP-Dレベル、抗ARS抗体

Table 2. 抗MDA-5抗体の有無で層別されたPM/DM-ILD患者の全死亡を予測するための初期血清バイオマーカーのカットオフ値
多変量ROC解析:CRP,フェリチン,KL-6,SP-D,抗MDA-5抗体レベルなどの連続変数の全死亡率を予測するための最適なカットオフ値を決定した。個々のカットオフ値は、最も高い曲線下面積(AUC)に基づいて選択された。KL-6を除く血清バイオマーカーの最適なカットオフ値は、抗MDA-5抗体陽性患者と抗MDA-5抗体陰性患者で異なっており、抗MDA-5抗体の有無で層別された患者サブグループで独立した予測モデルを開発する必要があると判明した。

Table 3. 抗MDA-5抗体の有無で層別されたPM/DM-ILD患者の全死亡率を予測する初期血清バイオマーカー
上記の有意差のあった潜在的な説明変数としてCox回帰分析。ステップワイズbackward法で最終的にCRP値とKL-6値を、全死亡の有意な独立リスク因子として選択(抗MDA-5陽性患者と抗MDA-5陰性患者の両方で)。感度分析の結果、初期治療法や多重代入法による欠損データ補完を調整した異なるモデル間で、統計的有意性は一貫。

血清バイオマーカーの組み合わせに基づく死亡率の予測モデル→ table4
抗MDA-5陽性患者と抗MDA-5陰性患者に分けて、全死亡率の予測モデルを作成した(抗MDA-5陽性患者:CRP≧0.8 mg/dl、KL-6≧1,000単位/ml、抗MDA-5陰性患者:CRP≧1.1 mg/dlおよびKL-6≧1,000単位/ml)。
リスクスコアを危険因子の数とした場合の抗MDA-5陽性患者のリスクスコア0、1、2の患者の死亡率は13.6%、39.2%、57.5%であった。この3群モデルでは、ブートストラップ法で推定した死亡率の95%CIは、サブグループ間の重なりが最小限に抑えられて分離された。
抗MDA-5抗体陰性患者において、リスクスコアが0、1、2の患者で観察された死亡率は、それぞれ2.0%、4.7%、27.5%であり、ブートストラップ法で推定した死亡率の95%CIは、スコア0の患者とスコア1の患者で明らかに重複した。リスクスコア0の患者とリスクスコア1の患者を組み合わせて2群モデルを作成したところ、2群間の95%CIは良好に分離された。

これらの結果から、抗MDA-5抗体、CRP値、KL-6値に基づいて、PM/DM-ILD患者の追跡期間中の死亡リスクが低い(15%未満)、中程度(15〜50%)、高い(50%以上)の3つに分類する「MCKモデル」と呼ばれる予後予測モデルを構築した(図1A)。

図1C :Breslow検定を用いたKaplan-Meier解析:リスクスコアで層別された抗MDA-5陽性患者の間で生存曲線が有意に分化しており、この3群モデルの有効性が確認された。

図1E:抗MDA-5陰性患者では、3群モデルではスコア0の患者とスコア1の患者で累積生存率に差がなかったが、2群モデルでは生存曲線の分化が優れていた。

・モデルの性能→table5
PM/DM-ILD患者の死亡率を予測するMCKモデルの性能を、抗MDA-5抗体検査単独と比較。抗MDA-5抗体検査は二値変数で、全死亡率に対する感度は79%、特異度は65%、陽性予測値(PPV)は35%、陰性予測値は93%、精度は68%であった。
MCKモデルでは、患者を「高リスク」「中リスク」「低リスク」の3つのリスクグループに分けることができた。低リスクの患者を選択すると,他の指標は低下することなく,感度と特異度が向上した(それぞれ81%と73%)。高リスクの患者を選択した場合、特異度は96%、PPVは58%、精度は82%に向上した。
ILDによる死亡リスクを評価したところ、ほぼ一致した結果が得られた。これらの知見は、MCKモデルを用いたPM/DM-ILD患者のリスク層別化の改善を示唆する。

・検証コホートにおけるMCKモデルの検証
PM/DM-ILDの成人症例111例からなる独立した検証コホートを用いて、死亡リスクの予測に関するMCKモデルの再現性を評価した。中央値21カ月の間に19人(17%)の患者が死亡した。
ベースラインの特性は両コホート間で類似していたが、派生コホートに比べて検証コホートでは抗MDA-5抗体がより多くみられ、患者はより集中的に治療(表1)。派生コホートで開発された予後のMCKマトリックスモデルは、検証コホートでも原則的に再現された(図1B)。また、MCKモデルで層別した累積生存率は、派生コホートのものとほぼ同様であった(図1DおよびF)。

・簡易MCKモデル
MCKモデルでは、抗MDA-5陽性患者と抗MDA-5陰性患者で異なるCRPのカットオフ値を適用(それぞれ0.8 mg/dlと1.1 mg/dl)している。モデル化をより簡便にするため、ROC分析を用いてコホート全体のCRPの最適なカットオフ値を検討したところ、1.0 mg/dlであることが判明(AUC 0.704)した。PM/DM-ILD患者全員のCRP≧1.0 mg/dlとKL-6≧1,000 units/mlを用いた簡易MCKモデルは、抗MDA-5陽性患者と抗MDA-5陰性患者の両方において、累積生存率の判別という点で許容できる性能を示した。

<結果の解釈・メカニズム>
予測研究でありメカニズムはなし

<Limitation>
・JAMIの参加施設は主に三次紹介病院であり、より重症の患者が登録されている可能性がある。
・JAMIでは、筋肉や皮膚に症状のない抗ARS抗体を持つ患者を登録していない。
・血清バイオマーカーの候補は、JAMIデータベースに掲載されているものに基づいて選択されており、多数のバイオマーカー候補の中から選ばれたものではない。
・KL-6レベルの測定は、現在、一部の国でしか臨床現場で利用できない。

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・死亡リスクの低い患者を特定することができた→そのような患者に対して不必要に過剰な免疫抑制を行わないようにするための情報を提供できるかもしれない。
・96%の特異度で死亡リスクの高い患者を特定した→これらの患者は、積極的に免疫抑制を行うべきであり、tofacitinibや血漿交換などの新しい治療法の臨床試験の対象となる可能性がある。

<この論文の好ましい点>
・国内の筋炎を相当数集めた非常に貴重なデータである。日本人のデータであり国内の患者への結果の外的妥当性も高い。
・抗MDA-5抗体、CRP、KL-6と簡便な指標である。
・MCKモデルは、抗MDA-5抗体検査のみの場合と比較して、患者を3つのリスクグループに分けることでより詳細なリスク層別化が可能であり、抗MDA-5抗体の有無によって死亡リスクを細分化することができる。
・異なる治療時代に選択された独立した導出コホートと検証コホートの間で、MCKモデルの有用性が一貫している。

担当:柳井 亮

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