JAK-STAT経路はPsA滑膜線維芽細胞の炎症病態と代謝機能に影響を与える【Journal Club 20211110】

Targeting JAK-STAT Signalling Alters PsA Synovial Fibroblast Pro-Inflammatory and Metabolic Function.
JAK-STAT経路はPsA滑膜線維芽細胞の炎症病態と代謝機能に影響を与える
frontiers in immunology 2021; 12: 672461.

【目的】
JAK阻害薬はPsAの治療薬として注目されている。
PsAFLSに対する4種類のJAK阻害薬の効果を比較検討する。
炎症性サイトカイン、代謝機能、細胞浸潤、細胞遊走への影響を検討する。

【結果】
Table1 PsA患者背景
対象はCASPAR分類基準を満たし、研究同意を得られたPsA患者。
関節鏡にて滑膜組織を採取した。

Figure1 PsA-FLSの炎症メディエーターに対するJAK阻害薬の効果
A: western blot法を用い、オンコスタチンM(OSM)によりPsA-FLSのpSTAT3発現が亢進することを確認した。
B-D: PsA-FLSを各JAK阻害薬で治療した後、OSMで刺激した。細胞上清中のサイトカイン(MCP-1, IL-6, IL-8)をELISAを用いて測定し、遺伝子発現をreal time PCRを用いて測定した。
OSMで刺激したPsA-FLSのMCP-1, IL-6の分泌はコントロール群と比較し、有意に増加した(p<0.05)。
IL6の遺伝子発現は有意に増加した(p<0.05)。
MCP-1分泌の抑制:Peficitinib, Upadacitinib, Baricitinib(p<0.05)。
MCP-1 mRNA発現抑制:Upadacitinib, Baricitinib(p<0.05)。
IL-6でも同様にJAK阻害薬でのサイトカイン分泌、遺伝子発現の抑制を認めた。
IL-6分泌の抑制:Peficitinib, Upadacitinib(p<0.05)
IL-6 mRNA発現抑制:Baricitinib, Upadacitinib(p<0.05)
MCP-1, IL-6に反して、IL-8分泌はOSMにより抑制された(p<0.05)。
各JAK阻害薬はIL-8分泌・遺伝子発現に有意な影響を与えなかった。

Figure2  PsA-FLSの糖代謝に対するOSMとJAK阻害薬の影響
Cellular bioenergetic function analysis
PsA-FLSの糖代謝に対するJAK阻害薬の影響を、Seahorse XFe96-Analyserを用い、ECARとOCRを測定した。
※ECAR(Extra Acidification Rate):細胞外酸性速度≒解糖系 細胞外に排出される水素イオン濃度
 OCR(Oxygen Cunsumption Rate):酸素消費速度≒ミトコンドリア呼吸 細胞の酸素消費濃度

A: OSMの刺激によりECARの増加を認めたが、OCRには影響を与えなかった。
B: ベースラインECARの増加を定量化し、OSMにて有意な増加(p<0.05)。すべてのJAK阻害薬でECARの減少を認め、peficitinib、baricitinibにて有意な減少を認めた(p<0.05)。
C: 最大解糖能を定量化し、OSMにて有意な増加(p<0.05)。すべてのJAK阻害薬でECARの減少を認め、baricitinibにて有意な減少を認めた(p<0.05)。
D,E: ベースラインOCRと最大呼吸能には、OSM、JAK阻害薬は有意な影響を与えなかった。
F: ECAR:OCR比はpeficitinib、baricitinib、upadacitinibにて有意な減少を認めた(p<0.05)。
G: OSMによるPsA-FLSの解糖系への移行はJAK阻害薬によって改善された。

Figure3  PsA-FLSの糖代謝に対するIL-1βとJAK阻害薬の影響
A,B: PsA-FLSを各JAK阻害薬で治療した後、IL-1βで刺激した。細胞上清中のサイトカイン(MCP-1, IL-6)をELISAを用いて測定した。
  IL-1β刺激によりPsA-FLSのMCP-1, IL-6の分泌は増加したが、JAK阻害薬による分泌抑制効果は認めなかった。
C-F: IL-1βの刺激によりECARの増加傾向を認めたが、OCRには影響を与えなかった。
  JAK阻害薬によるECARの減少、ECAR:OCR比の減少は認めなかった。

Figure4  PsA-FLSの糖代謝に対するIL-1βとTofacitinibの影響
A-C: IL-1βの刺激によりECARの増加傾向を認めたが、OCRには影響を与えなかった。
  TofacitinibによるECARの減少、ECAR:OCR比の減少は認めなかった。
D-E: TofacitinibはOSM刺激によるPsA-FLSのMCP-1, IL-6の分泌を抑制した(p<0.05)。しかし、IL-1β刺激によるMCP-1, IL-1βの分泌は抑制しなかった。

Figure5 OSMによるPsA-FLSの浸潤に対するJAK阻害薬の影響
Transwell invasion assay
B: OSMによりPsA-FLSの浸潤能は有意に増加した(p<0.05)。
 JAK阻害薬は、OSMにより増加したPsA-FLSの浸潤能を減少させ、PeficitinibとFilgotinibは有意に浸潤能を減少させた(p<0.05)。
C: OSMによりPsA-FLSより分泌されたMMP1, MMP3, MMP9の分泌はPeficitinibによって有意に抑制された(p<0.05)。
D: OSMによるMMP1の遺伝子発現はPeficitinib, Baricitinibにより有意に抑制された(p<0.05)。

Figure6 OSMによるPsA-FLSの遊走に対するJAK阻害薬の影響
Wound repair scratch assay
A-B: OSMによるPsA-FLSの再増殖はJAK阻害薬によって有意に抑制された(p<0.05)。
C: OSMによるPsA-FLSのICAM-1の遺伝子発現は、JAK阻害薬により抑制されたが、Upadacitinibで有意に抑制された(p<0.05)。

好ましい点:
JAK阻害薬の選択性による違いによる、PsA-FLSの炎症病態に関わる影響が明らかになった。

Limitations:
JAK-STAT経路の活性化にOSMを用いたが、PsAの病態に関わるその他のサイトカイン(IL-12, IL-23, IL-22, IFNγ)に対する、JAK阻害薬の影響が検討されていない。

結論:
本研究ではJAK阻害薬によるPsA-FLSの炎症病態への関与が明らかなとなった。
本研究結果は、PsA患者の治療選択としてJAK阻害薬の役割を支持するものとなる。

担当:猪狩 雄蔵

 

 

 

 

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