関節リウマチにおける滑液由来線維芽細胞様滑膜細胞の表現型および機能的特徴

Sci Rep. 2021 Nov 12;11(1):22168. 
Phenotypic and functional characterization of synovial fluid-derived
fibroblast-like synoviocytes in rheumatoid arthritis
著者名 Køster D, Morten Nielsen et al. Department of Biomedicine, Aarhus University,
Høegh-Guldbergs Gade 10, 8000, Aarhus, Denmark. 
Background
関節リウマチ(RA)のFLS(線維芽細胞様滑膜細胞)は持続的にNFkB経路を活性化し、局所の増殖、炎症性サイトカン・ケモカインの産生および軟骨浸潤を含む病原的表現型を獲得している。RAの関節液は豊富な細胞を有し、RA-FLSが含まれていることが示されている。滑膜由来のRA-FLSは炎症環境下から培養環境下に移してもPassage7まで病的表現型を維持している。最近、滑膜組織のシングルセル解析によりRA-FLSに複数のサブセットが存在し、滑膜表層
(PDPN+CD34-THY1-)と滑膜下層(PDPN+CD34-THY1+, PDPN+CD34+THY1+)に局在する2つの主要なサブセットが存在することが明らかになった。特に下層に位置するPDPN+CD34-THY1+サブセットは疾患活動性およびHLA-DR発現に関連し、サイトカインの産生の増加、白血球浸潤および活性化に関与する。このためRA-FLSのサブセットは新たな治療標的細胞として注目されている。滑膜組織の採取は簡単でなく、日常診療で採取される関節液からFLS培養することができるのならRA研究に有用である。
本研究では関節液由来FLS(sfRA-FLS)の表現型および機能を解析し、滑膜由来FLS(tRA-FLS)のサブセットと比較することを目的としている。

Methods:外来診療で治療的関節穿刺時に少なくとも一つの関節が腫れた再燃時のRA患者9人より末梢血および関節液を採取した。Ficoll-Paque密度勾配遠心分離より末梢血単核球(PBMC)と関節液単核球(SFMC)を分離した。SFMCをDMEM完全培地で48時間培養し付着していない細胞はPBSで洗い流し、培養が継続された。PBMCはCD3およびCD28抗体を結合したビーズでT細胞増殖を刺激し培養後、sfRA-FLSと48時間共培養もしくは単独培養した。
細胞はex vivo実験にはpassage4まで、in vivo実験にはpassage7まで使用.
・ Western blot (n=3): anti-NFκB p65, anti-phospho-NFκB p65, anti-NFκB p100/p52, anti-IκBα
・ Flow cytometry: CD34, CD45, THY-1-, Podoplanin, ICAM-1, HLA-DR
・ ELISA(supernatants): MCP-1, IFNγ, IL-1β, IL-1, IL-4, IL-6, IL-8, IL-10, IL-12-p70, IL-13,TNF-α
・ Stimulation experiments: 10ng/mL TNFα, 10ng/mL IFN-γ
・ SCID mouse model of RA: OA患者軟骨とsfRA-FLSを移植し、invasion coreを測定
・ Statistical analysis: Student’s paired t-test / Wilcoxon signed-rank test (GraphPad Prism 7)

Results:80%患者でPassage4において線維芽細胞様の均一な増殖細胞が培養できた。

Table 2. Patients characteristics 4年以上経過したRA患者 培養できたのが7人とできなかた2人に臨床的な違いは認めなかった。 n=7の患者のうちDAS28は3人、Serologyは2人、治療は1人がデータ欠落 
Figure1a.
WBC抗原のCD45 neg sfRA-FLSは主にPDPN+THY1+細胞(89.8% ± 9.2%)とCD34-細胞(98.7% ± 0.6%)だった。
Figure1b.
正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)を比較するとsfRA-FLSでPDPN+THY1+細胞は有意に多く、CD34-細胞の発現は同程度だった。
Figure1c.
均一な集団のsfRA-FLS(n=5)は刺激なしに複数の炎症性サイトカインを産生し,MCP-1とIL-6はNHDF(n=3~5)の分泌を著明に上回った。
Figure1d.
無刺激でのsfRA-FLS(P4)は異なるドナー間でもNFκB関連経路のタンパク発現は類似した。

Table1
IL-4, IL-12, IL13は有意差をもってNHDFより産生が亢進していたが、他のサイトカンも発現は高かった。
Figure 2a, b.
ICAM-1とHLA-DRはtRA-FLSに発現し、炎症特性と関連するためsfRA-FLSで測定した。
発現は無刺激とTNF-α, IFN-γで刺激、活性化自己PBMCとの共培養で評価した。
ICAM-1の発現はTNF-α, IFN-γで刺激およびPBMC共培養で有意に上昇した。
HLA-DRの発現はTNF-α刺激およびPBMC共培養で有意に上昇した。
Figure 2d.
さらに共培養はIL-1β, IL-6, MCP-1の発現を亢進させてた。IL-10は抑制された。

滑膜由来の不死化したRA-FLSはPDPN+THY1+細胞は[84.5(73.6-95.1)% ]、CD34-細胞[(99.7(99.4-99.9)% ]であり、TNF-α, IFN-γ刺激でIL-6、ICAM-1とHLA-DRの発現は増強されsfRA-FLSと同様だった不死化FLSは無刺激でのICAM-1とHLA-DRの発現はsfRA-FLSより高かった。
SCIDマウスの一側に軟骨とsfRA-FLSを、対側に軟骨のみを移植。両側とも軟骨のみを移植したマウスと比較したところ、sfRA-FLSとともに移植した軟骨だけでなく、対側に軟骨のみを移植した軟骨にもsfRA-FLSの浸潤を認めた(5.6倍)。これは局所の軟骨への浸潤だけでなく、離れた軟膏への遊走、浸潤能が
tsRA-FLSと同様にsfRA-FLSにもあることが示された。

Discussion
P4まで継代したsfRA-FLSは約90%がPDPN+CD34-THY1+細胞で均一化されていた。つまりこのサブセットは他のサブセットより増殖性が強い。これは不死化したtsRA-FLSと同様であり、関節液由来と滑膜由来は同様の病原性サブセットが残ることを示している。PDPN+CD34-THY1+細胞は複数の炎症性サイトカイン(特にIL-6とMCP-1)を産生し、NFκB経路が活性化していることが示された。さらに活性化されたPBMCとの共培養では炎症性サイトカンの発現増
加(主にIL-1β, IL-6, MCP1)に加えICAM-1とHLA-DRの発現が増強した。これはsfRA-FLSが直接抗原提示に関与する能力を持つことを示唆している。sfRA-FLSが離れた部位の軟骨に移動して浸潤した。sfRA-FLS単独の作用でなく2次的なものかもしれないが、媒介していることは示唆される。
Limitation:関節液採取の関係上、大関節炎を呈している再燃例の患者を反映している。

今後の課題 関節液と滑膜からのサンプルをさらに比較していく必要がある、治療とsfRA-FLS細胞の関係に関する研究は患者にとってオーダーメードの治療をもたらす可能性がある。

(担当:若林 邦伸)

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