Tocilizumab in patients with new onset polymyalgia rheumatica (PMR-SPARE): a phase 2/3 randomised controlled trial
新規発症のリウマチ性多発筋痛症に対するトシリズマブの有効性(二重盲検ランダム化比較試験)
著者 M. Bonelli. et al.
掲載雑誌/号/ページ
Annals of the Rheumatic Diseases 2022 Feb 24 ;annrheumdis-2021-221126.
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<サマリー>
新規発症のリウマチ性多発筋痛症にトシリズマブは有効であった。
プラセボと比較し、再発率を減らし、ステロイドフリーでの寛解率を増やし、ステロイドの累積使用量を減らすことが出来た。
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P:新規発症のリウマチ性多発筋痛症
E:トシリズマブ+プレドニゾロン
C:プラセボ+プレドニゾロン
O:再発率、ステロイドフリー寛解率
<背景と目的>
PMRは高齢者に好発し、関節リウマチに次いで多い自己免疫性疾患である。ステロイドの治療反応性は良好であるが、一方でステロイドの漸減・中止により再燃する例も多く、症例によっては治療期間が数年ないしは一生続く。症例は高齢者に多く、最大で65%の症例でステロイド関連の有害事象が発生していると報告されている。そのためステロイドに代わる薬剤が求められているが、PMRに対するステロイド以外の薬剤に関するエビデンスは少ない。
これまでIL-6受容体阻害薬であるトシリズマブは小規模や非対照の臨床研究で高い臨床効果の可能性が示されている。しかしそのエビデンスは限られており、今回、二重盲検ランダム化比較試験を行った。
<セッティング>
2017年11月から2019年10月までにオーストリアの3つの施設(ウィーン医科大学、グラーツ医科大学、ヒエツィング病院)で診断された新規のPMR患者が対象
<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
多施設合同二重盲検ランダム化比較試験。
<対象患者・組み入れ基準>
2012 EULAR/ACRの分類基準を満たすPMR患者
<除外基準>
GCAなどのステロイドを必要とする他の疾患の合併がない
<試験プロトコール/薬剤の投与方法>
- トシリズマブ
Base line時よりTCZ 162mg/週で計16週間投与。
(プラセボ群も同様に皮下注射を施行。)
- プレドニゾロン
PSL 20㎎から毎週漸減し、11週間時点でステロイドオフとする急速漸減方式のプロトコールを使用。
※base lineである治験開始時点の2週間以内であれば、PSL 25㎎までの先行投与を許容した(治験開始の2週間前であるスクリーニング時点で診断されているため)
※再発時のプロトコール
① 1週間PSL5mg増量。
A,臨床的寛解を再達成した場合、医師の裁量で4週間以内に再発前の投与量に漸減
B,臨床的寛解に達成できない場合、医師の裁量でさらにPSL増量。
寛解達成後に医師の裁量で再発前の投与量に漸減
- 再発前最終投与量まで漸減出来たら再度ステロイドをプロトコールに従って漸減
※臨床評価の方法
スクリーニング時(ベースラインの2週間前)、ベースライン(0週)、2、4、8、12、16、20、24週後で来院。患者および医師のグローバルスコア、患者の疼痛スコア、朝のこわばり、上肢挙上スコア、HAQおよびSF-36による身体機能を評価。
<主要評価項目>
Primary outcome
16週時点(TCZ投与終了時)のステロイドフリーの寛解達成率
Secondary outcome
12週目と24週目のステロイドフリーの寛解率、初回再発までの期間、16週目と24週目の累積プレドニゾン投与量。安全性。
<寛解・再発の定義>
寛解:PMRに伴う疼痛やこわばりの消失。
再発:PMRに伴う疼痛やこわばりの再燃。
<無作為化の方法>
1:1の割合でTCZ群・プラセボ群に無作為に割り当て
<盲検化の方法>
すべての患者および治験責任医師・臨床評価医を盲検化。CRPおよびESRなどの結果も盲検化した。
<統計解析>
カテゴリー変数にはFisherの正確検定、正規分布でない連続変数にはKruskal-Wallis検定、time-to-eventではKaplan-Meier 法を用いた。
intent-to-treatアプローチに基づいて解析。
フォローアップができなくなった後の欠損値は最終観察繰越法を用いた。
副次的評価項目の検定には、タイプ1エラーをコントロールするために最初の非有意性に達するまで仮説検定を続ける階層的検定戦略を適用した。
<結果>
Figure 1 対象患者のフローチャート
スクリーニングされた39名のうち、3名の患者が除外され、36名の患者が登録。
そのうち19人がトシリズマブ群に17名がプラセボ群にランダムに割り当てられた。
トシリズマブ群の84%の患者、 プラセボ群の65%の患者が治験期間を完遂した。
Table 1 ベースライン時の患者背景
ベースラインの患者の各特徴においてトシリズマブ群、プラセボ群で有意な差は認めなかった。
Figure 2ABC 主要評価項目と副次的評価項目の結果
A
16週目にトシリズマブ群で63.2%(12/19例)、プラセボ群で11.8%(2/17例)がグルココルチコイドフリー寛解を達成した。トシリズマブ群において寛解状態は16週目にトシリズマブを中止しても、24週目まで91.7%(11/12例)の患者で維持された。
B
初回再発までの期間をKaplan-Meier曲線で示したところ、トシリズマブで有意に良好な結果であった。初回再発までの推定平均日数は、トシリズマブ群で130日(±13)、プラセボ群で82日(±11日)であった。
C
両郡の平均の累積PSL投与量を提示。トシリズマブ群はプラセボ群に比べ、累積PSL投与量が少なかった。
16週時の累積PSL投与量の中央値は、トシリズマブ群で727mg(IQR 721-842)、プラセボ群で935mg(IQR 861-1244)(p=0.003)。
24週時の累積PSL投与量の中央値は、トシリズマブ群で781mg(IQR721-972)、プラセボ群で1290mg(IQR 1106-1809)(p=0.001)
Table2 副次的評価項目(階層的検定戦略を使用)
12週目および24週目のステロイドフリー寛解、初回再発までの期間、16週目および24週目の累積PSL投与量でトシリズマブ群に統計的に有意性が認められた。
Table 3 安全性
100人年当たりの有害事象の総数は、トシリズマブ群490.6(468.9-523.2)、プラセボ群555.0(531.9-579.0)であった。
最も頻度の高い有害事象は感染症で、トシリズマブ群63%、プラセボ群35%に発現したが、いずれも重篤なものではなかった。
重篤な有害事象はトシリズマブ群1例,プラセボ群5例で認められた。プラセボ群では、1名は膵炎、1名は十二指腸潰瘍、1名が歯槽膿漏、1名が血清反応陰性関節リウマチを発症した。試験期間中の死亡例はなかった
<結果の解釈、メカニズム>
血清IL-6レベルはPMR患者で高値であることが知られている。これまでの小規模、非対称の報告と同様に、トシリズマブはPMR治療に有効である。
<Limitation>
・nが少ない。白人のみが対象。
・プラセボ群でのプロトコールの脱落者が多い。
・再燃の定義が医師の判断によるPMRに伴う疼痛・こわばりで少し曖昧。(盲検化のために炎症反応などは使用せず。画像評価なし。NSAIDSも任意で使用OKで修飾あり)
・治療期間が16週のみで24週以降の長期の成績については検討できていない。
・ステロイド投与量は減量できたが、実際にステロイドの副作用が減らせたかどうかは確認できていない。
- これまで報告されているMTXなどの既存治療との比較は出来ていない。
(MTXについてはPMRに対しステロイドと併用することで、再発率の低下、ステロイド減量効果の報告がある)Ann Intern Med. 2004 Oct 5;141(7):493-500.
<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
(臨床)
ステロイド副作用が強く予想されるPMR症例には早期にステロイドを漸減し、TCZを投与することを検討する。(特に腎不全などのMTX禁忌症例では良い適応)
(研究)
長期的なTCZ使用の安全性・効果、適切な中止時期に関する検討。
治療難治例でのTCZの効果の検討。
MTXとの比較。(PMRに対するMTX vs TCZ)
<この論文の好ましい点>
PMRに対するTCZのプラセボ比較、無作為化、二重盲検の初めての論文。
PMRに対するTCZの効果(寛解率の改善、ステロイド漸減効果)を証明できた。
サンプルサイズを計算している。
翔
<この論文にて理解できなかった点・残念であった点>
PMRに対するTCZの効果はしっかり証明できた点はとても評価出来るが、今回のプロトコールではTCZ使用群での16週時点のステロイドーフリー寛解が58%で4割近くは寛解に達成できなかった。この結果からは、PMRはTCZに有効ではあるものの、臨床効果・費用対効果からはPSLの完全な代替薬にはなり得ないと感じた。
統計解析のa strategy of hierarchical testing(階層的検定戦略)の使い方がよく分からなかった。
(担当:石井 翔)