Phase 2 Trial of Iberdomide in Systemic Lupus Erythematosus
Merrill JT, et al. Phase 2 Trial of Iberdomide in Systemic Lupus Erythematosus. N Engl J Med. 2022; 386: 1034-1045.
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<サマリー>
セレブロン調節薬イベルドミドは、全身性エリテマトーデス患者を対象とした24 週間の第 2 相試験では,イベルドミド 0.45 mg の投与において,SRI-4 反応が認められた患者の割合はプラセボ投与よりも高くなった。
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【背景】
SLEでは、複数の自然免疫経路および適応免疫経路の制御が著しく阻害されている。
白血球の発生や自己免疫に影響を与える転写因子であるイカロス(I型インターフェロンの主要産生細胞であるB細胞や形質細胞様樹状細胞の発生を誘導)とアイオロス(B細胞の分化をサポート)の分解を促進するセレブロン・モジュレーターであるイベルドミドは、SLEの治療薬として評価されている。
P:全身性エリテマトーデスの患者
E:既存治療+イベルドミド投与
C:既存治療+プラセボ投与
O:投与24週目におけるSRI-4反応率
<セッティング>
2017年7月6日から2020年1月21日まで、米国、カナダ、欧州、南米、メキシコ、ロシアの117施設で実施。
<研究デザインの型>
ランダム化プラセボ対照二重盲検試験
<対象患者・組み入れ基準>
・18歳以上で、米国リウマチ学会によるSLEの分類基準(1997年更新版)を満たす患者で、診断後6か月以上経過している。
・SLEDAI-2Kのスコアが6点以上、臨床SLEDAI-2Kのスコアが4点以上で、中等度から重度の疾患活動性を示した患者。
・抗核抗体40倍以上で、抗ds-DNA抗体もしくは抗Sm抗体陽性の患者。
・事前に全身性ステロイド、ヒドロキシクロロキン、免疫抑制剤のうち一つを安定的に使用している患者。PSL使用の場合、スクリーニングの4週間以上前より20㎎/日以下の安定した使用。
<除外基準>
・重症または不安定な精神神経症状のSLE、推定糸球体濾過量が45ml/分/1.73m2未満、蛋白尿が2000mg/日以上、導入治療を必要とする活動性腎炎、抗リン脂質症候群。
・感染症
・悪性腫瘍の既往もしくは併存
<治療プロトコール>
・SLE患者を2:2:1:2の割合で無作為に割り付け、標準治療薬の継続使用とともに、イベルドミド(0.45、0.30、0.15mgのいずれかの用量)またはプラセボを1日1回24週間経口投与した(Figure1)。
・血栓症予防のため少なくとも1種類の血栓予防薬が投与された。
<エンドポイント>
・主要評価項目:24週時点でのSLE Responder Index(SRI-4)の奏効(SLEDAI-2Kスコアが4点以上減少し、BILAG IndexにおいてAスコアまたはBスコアで測定される新しい疾患活動性がなくPGAスコア増加が0.3未満なこと)
・副次的評価項目:
SLEDAI-2Kスコアが4点以上減少した患者の割合と、皮膚エリテマトーデス病変面積・重症度指数(CLASI)-活動スコア(CLASI-A)が50%以上減少した患者の割合。
また、新たなBILAG-2004臓器病変がなく、PGAスコアが0.3ポイント以上上昇しなかった患者の割合、試験登録時に少なくとも2関節の罹患があった患者の腫脹関節数および圧痛関節数のベースラインからの平均変化、およびPGAスコアのベースラインからの平均変化。
また、ベースラインで1日10mg以上のプレドニゾンを投与されていた患者のうち、16週目までにグルココルチコイドの投与量を1日10mg以下、1日7.5mg以下に減量した患者の割合、および、ベースラインで1日10mg以上、またはそれ以上の用量を投与されていた患者の24週目までに再燃しなかった患者。
<統計解析>
・0.45mg群および0.30mg群それぞれ80例のサンプルは、主要評価項目に関してイベルドミド群とプラセボ群の間で21ポイントの差を検出する約80%の検出力が得られるように計画され、2群間カイ二乗法を用いて算出。
・一次エンドポイントにおけるイベルドミド0.45mgまたは0.30mgとプラセボの比較では、Hochberg法を用いて多重性を調整。
・ベースラインの特性は記述統計でまとめた。解析は修正intention-to-treat集団で行われた。
・主要評価項目、副次的評価項目はCochran-Mantel-Haenszel検定を用いて、ベースラインのグルココルチコイド投与量およびSLEDAI-2Kスコアについて制御した。
【結果】
・患者の割り付け(Table1、Figure1)
スクリーニングを受けた593名のうち、289名が試験参加基準を満たし、以下のように割り付けられた。
イベルドミド0.45mg群(82名)→1名投与されず81名
イベルドミド0.30mg群(82名)
イベルドミド0.15mg群(42名)
プラセボ群(83名)
ベースラインの患者特性は、年齢、性別、人種、疾患活動性などにおいてはイベルドミド投与群とプラセボ群で差を認めなかった。
グルココルチコイド投与量は平均でプレドニゾン6.6㎎/日。
高アイオロス遺伝子発現患者はイベルドミド0.45mg群、0.30mg群で多かった。
高Ⅰ型インターフェロン遺伝子発現患者はイベルドミド0.45mg群で他の群に比べて多かった。
・主要評価項目(Figure2、Table2):
24 週の時点で SRI-4 反応が認められた患者の割合は,イベルドミド 0.45 mg 群 54%,0.30 mg 群 40%,0.15 mg 群 48%,プラセボ群 35%であり(イベルドミド 0.45 mg 群とプラセボ群との補正後の差 19.4 パーセントポイント,95%信頼区間 4.1~33.4,P=0.01)であった。低い用量群とプラセボ群とのあいだに有意差は認められなかった。
・副次的評価項目(Table2):
24週目のSLEDAI-2Kスコアがベースラインから4点以上減少したのは、イベルドミド0.45mg投与群81例中45例(56%)、プラセボ投与群83例中30例(36%)。臨床的なSLEDAI-2Kスコアが4点以上減少した患者の割合は、イベルドミド0.45mg投与群で55.6%、プラセボ投与群で38.6%。
BILAGスコア、PGAスコアの低下は有意差なし。
CLASI-50スコアは、イベルミド群の方が、プラセボ群より有意に高い。
腫脹・圧痛関節数は有意差なし。
16週目までにグルココルチコイドの投与量を1日10mg以下に減らし、24週目までその量を維持した患者はプラセボ群2名、イベルドミド0.30mg群1名。
・安全性(Table3)
有害事象:イベルドミド0.45mg投与群では 81例中63例(78%)、0.30mg投与群では82例中64例(78%)、0.15mg投与群では42例中31例(74%)、プラセボ投与群では83例中31例(65%)に認められた。
治験責任医師による評価では、ほとんどの事象は軽度から中等度であった。
イベルドミド投与群で最も頻度の高かった有害事象は、尿路感染症、上気道感染症、好中球減少症、インフルエンザであった。
重篤な有害事象は、イベルドミド投与群205例中13例(6%)、プラセボ投与群83例中7例(8%)に発現。うちプラセボ投与群83例中3例(4%)にSLEの再燃あり。
プラセボ群のうち1人はLEの増悪と急性ウイルス性呼吸器感染症の後に肺塞栓症で死亡。
イベルドミド群では死亡例なし。
深部静脈血栓症はイベルドミド0.30mg群 1名とプラセボ群患者1名に発生。脳梗塞はイベルドミド0.30mg投与群1例で発生。
有害事象で脱落:プラセボ群(帯状疱疹2人)、イベルドミド群(好中球減少4人、発疹3人)
<結果の解釈・メカニズム>
イベルドミド0.45 mgの投与は、プラセボ群よりも高い割合でSRI-4反応をもたらした。
低用量では効果は見られず、ほとんどの副次的評価項目では有意差が見られなかった。
I型インターフェロンまたはAiolos遺伝子の発現量が高い患者では、高用量のイベルドミド投与でSRI-4反応率が高かったが、本症例ではベースライン時の遺伝子での層別化は行われておらず、さらなる検証が必要である。
<Limitation>
・白人の割合が高い研究である。
(黒人が少なく、アジア人は割合不明である)
・抗リン脂質抗体症候群患者や活動期のループス腎炎、CNSループス患者が除外されている研究である。
・24週以降の有効性・安全性についての評価はされていない。
<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
今後SLEの治療薬として選択肢の一つとなりうる可能性がある。
<この論文の望ましい点>
イベルドミドのSLEに対する効果を検証した最初の二重盲検プラセボ対照試験である。
<この論文の理解できなかった点、残念であった点>
イベルドミド高用量において一定の効果が得られたが、ステロイド減量には至らなかった点。
(担当:小西 典子)