チョコスタはちょこっとだけ、アドバンスな統計解析を自分の分野(リウマチ膠原病分野)で考え、理解を深めようというブログです。第6回目は(Directed Acyclic Graph)その2についてお話しします。
今回の主な内容は「Using Causal Diagrams to Improve the Design and Interpretation of Medical Research Chest Volume 158, Issue 1, Supplement, July 2020, Pages S21-S28」です。第6回でこの論文の前半、第7回で後半を解説します。
第6回目のまとめ
- AはDAGの基本である適応交絡の例です。これはわかりやすいですね。
- Bは選択バイアスをDAGで表現したものです。入院に限定した対象者で解析をすると、コライダーが開いてしまいます。防ぐためには、さらに肺炎および/または電解質異常で調整する必要があります。個人の感想としてDAGを書くときにその研究の置かれたセッティング(例えば大学病院)を因子として描いてみて、それが要因と結果のコライダーの位置にいないかを確かめるべき感だなと思いました。
A. 適応交絡
MTX治療抵抗性のRA患者にBIOを追加し、その寛解割合を見た研究があったとします。大規模な無作為化試験では、プラセボと比較しBIO追加群が高い寛解の割合を示したのですが、観察コホート研究では逆の効果が示されたとします。
「BIOの追加」←「RAの活動性」→「寛解」という経路は、矢印の並びが「BIOを追加」から「寛解」への方向性を持たないため、無向性のパス(Undirected path)となります。このパスは、バイアスのある経路となります。「RAの活動性」は、「BIOを追加」と「寛解」の共通の原因であるため、交絡パスとも呼ばれます。
この交絡は、RAの活動性が高く、BIOを追加している患者は、活動性が低くBIOを追加している患者よりも寛解を起こしにくいために発生します。適応交絡(疾患の重症度による交絡:confounding by disease severityまたはチャネリングバイアス:channeling biasとも)とも呼ばれます。
バイアスのない効果を確認するためには、交絡パスのようなバイアスのある経路を遮断する必要があります。「RAの活動性」を統計的に調整する例は下記に例をしめします。
- 「RAの活動性」によって患者を層別化する。
- BIOを追加者と非使用者をRAの活動性でマッチングさせる。
- この変数の代理で患者を制限または除外する。
これらの方法はすべて、条件付けの例です。「RAの活動性」を条件とすると、cDAG に残る唯一の因果パスは 「BIOを追加」から「寛解」へのパスのみになります。
B、コライダーバイアスまたは選択バイアス
- 選択バイアスは交絡バイアスとは異なり、研究デザインの段階で発生します。これは、曝露とアウトカムの両方に共通する効果を持つ変数を条件として研究を行った場合に発生します。
- フルオロキノロンは、近年、FDAによって中枢神経系の有害事象との関連が指摘されています。研究者がフルオロキノロンによるてんかんのリスクを調べようとしたとします。
- フルオロキノロンの使用からてんかんへの因果関係の経路は2つあり、1つは有向性のパス、もう1つはバイアスがかかる可能性のある無向性のパスです。肺炎から2本の矢印が発生し、フルオロキノロンの使用と入院に向かっています。同様に、電解質不均衡から2本の矢印が出て、てんかんと入院に向かっています。肺炎と電解質異常はともに入院の原因となるため、これらの効果は入院で衝突し、入院はこの経路上のコライダーと呼ばれます。コライダーは、フルオロキノロンとてんかんの間の無向性のパスに位置するため、このブロックされた経路を通じてバイアスが伝達されるのを防いでいます。しかし、この遮断された経路は、入院を条件とするとパスが開いてしまいます。
- 例えば、このcDAGの構造を知らない研究者が、フルオロキノロンによるてんかんのリスクが、入院している人としていない人とで異なるかどうかを知りたいと思ったとします。研究者は、データを入院患者のみに限定(条件付け)した。これより、以前は入院によって塞がれていたパスが開かれることになります。「フルオロキノロン←肺炎→入院←電解質異常→てんかん」という経路が形成されということです。この新たな経路は、選択バイアスまたはコライダーバイアスと呼ばれ、偏った非因果的な関連を導くことになります。この状況を改善する方法は肺炎および/または電解質異常を調整することで、このバイアスの伝達をブロックすることです。
文責 柳井亮