シェーグレン症候群の局所療法・全身療法に関するEULAR recommendation【Journal Club 20220928】

EULAR recommendation for the management of Sjogren`s syndrome with topical and systemic therapies.

Ann Rheum Dis 2020; 79: 3-18

Manuel Ramos-Casals et al.

 

◆全般的な推奨

  • SJS患者は専門の医療スタッフに診てもらうべき
  • 乾燥症状に対しては、局所対症療法から行う
  • 活動性の高い全身病変に対しては、全身療法を考慮する

 

◆病態ごとの推奨

口腔内乾燥症状

1.治療開始前に唾液腺機能の評価を推奨

2.唾液腺機能の重症度に準じて、以下の初期治療を考慮する

 

 2-1.軽症:非薬物的刺激(トローチ、キシリトール、ガム)

 2-2.  中等症:薬物療法(ピロカルピン〈サラジェン®〉、セビメリン〈サリグレン®〉 

副作用サラジェン>サリグレン?、漸増投与も選択肢)

副作用時の代替薬:ビソルボン、ムコフィリン、ムコダイン

          電気刺激療法

 2-3.  重症:唾液代用品(サリベート 医薬外の口腔ケア薬)

 口喝症状に対し、GCやRTX、HCQなどの免疫抑制療法は使用しない

 

ドライアイ

3.初期治療:人口涙液/眼軟膏(マイティア、ヒアレイン、ジクアス)

4.重症/難治例:眼科専門医の診断、免疫抑制剤含有点眼、2-4週以内のNSAIDs点眼ステロイド点眼、シクロスポリン点眼⇒(効果不十分なら)自家血清点眼液

※日本のガイドラインでは涙腺プラグ、サラジェンやサリグレンの投与推奨

 

OSS(ocular staining score:角膜<Fluorescein>と結膜<Lissamine green>を別々の染色法で染色し、点数化する方法)はシェーグレン症候群と他の乾燥性角結膜炎を鑑別するのに有用な検査法(OSS≧5:SJSの可能性が高くなる。OSS≦1:神経障害性疼痛を考慮

  • Lissamine greenは日本では使用が難しい。フルオレセインでBUTを測定、ローズベンガルで角膜・結膜染色し障害の程度を調べる。

 

全身の合併症

5.SJSの合併症のうち、倦怠感や痛みを合併する患者の重症度は特定のツールを使用して評価されるべき
6.有効性と副作用のバランスを考慮して、鎮痛薬や鎮痛補助剤の使用を検討すべき
7.  SJSの全身性合併症の治療は、ESSDAIのスコアを用いて臓器特異的な重症度に合わせ

て選択、調整すべき

 

8.GCは、活動性の全身性合併症に対し必要な最小用量、かつ最短投与時間で使用する

9.免疫抑制剤は主にGCを減量するために、使用されるべきであり、特定の免疫抑制剤がより優れていることを裏付けるエビデンスはない

10.重度の難治性全身性合併症の患者では、B細胞標的療法を検討する

11.全身性合併症の臓器特異的治療は関して、原則としてGC、免疫抑制剤、生物学的製剤の順に使用すべきである。時には併用も考慮する

12.B細胞リンパ腫の治療は、特定の組織学的タイプと病期に応じて選択する

 

入手可能なエビデンスでは、シェーグレン症候群の全身合併症に対する治療アプローチを支持するデータは存在しなかった。そのため、後ろ向き研究の結果やEULAR recommendations作成メンバーの臨床経験に基き、以下の治療アルゴリズムが提案された

 

唾液腺病変

◆急性唾液腺炎:①感染症を除外、②3-5日のNSAIDs、③GC(PSL0.3mg/kg/day)さらに効果不十分の場合は、リツキシマブやベリムマブ(両者ともSJSに対する保険適応なし)の投与を考慮

◆慢性唾液腺炎;腫瘍やIgG4関連症候群などの疾患を除外

 

関節病変

◆関節症状が関節痛か関節炎かを区別する

関節痛:変形性関節症や線維筋痛症を除外

・まず運動療法を指導関 

◇治療薬

  • 第1選択薬はNSAIDs(7-10日以内)で治療開始。
  • 急性の関節痛を繰返す場合⇒HCQ(保険適応なし)
  • 慢性関節痛にはデュロキセチン(サインバルタ)やプレガバリン(リリカ)などの線維筋痛症に準じる。ただし、オピオイドの使用は避ける。

関節炎:滑膜炎5関節以下⇒①NSAIDs+HCQ

滑膜炎5関節以上⇒RAを除外した後に、HCQとGC(PSL 0.5mg/kg/day)

効果不十分の場合⇒MTX、レフルノミド、AZP(いずれも保険適応なし)

さらに効果不十分の場合⇒RTXやABT(いずれも保険適応なし)

 

皮膚病変

◆環状紅斑:限局性;GC外用薬

びまん性:HCQ単独、もしくはGC(PSL 0.3mg/kg/day)併用

効果不十分:他の抗マラリア薬単独、もしくはGC(PSL 0.5-1mg/kg/day)併用

◆皮膚血管炎:限局性紫斑:GC内服(PSL 0.3mg/kg/day)

広範性の紫斑、虚血性病変、潰瘍の場合、GC(PSL 0.5-1mg/kg/day)

効果不十分の場合は、経口免疫抑制剤投与、または、クリオグロブリンによる血管炎合併時にはRTXを投与。それでも効果不十分の場合(重篤なクリオグロブリンによる血管炎合併時)はCY±血漿交換

 

肺病変

◆気管支病変:吸入療法
◆間質性肺炎:中等度:GC内服(PSL 0.5mg/kg/day)

重症:GC内服(PSL 0.5-1mg/kg/day)

効果不十分の場合は、AZP、MMF、CyA(保険適応なし)

それでも効果不十分の場合は、CY、RTX、あるいは、血漿交換療法

腎病変

◆糸球体病変が見られた時にはSLEやANCA関連血管炎を鑑別する

◆軽症の尿細管病変:対症療法(重炭酸補充やK補充)

◆中等度の尿細管・糸球体病変:GC内服(PSL 0.5mg/kg/day)

効果不十分の場合は、AZP、MMF、CyA(保険適応なし)

◆重度の尿細管・糸球体病変:GC内服(PSL 0.5-1mg/kg/day)

効果不十分で、クリオグロブリンによる血管炎合併時には、RTX、CY、血漿交換療法

 

 

末梢神経病変

SJSの末梢神経障害としては、多発神経炎、軸索神経炎、神経根症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)等がある
◆多発神経炎:GC内服(PSL 0.5-1mg/kg/day)

効果不十分の場合は、経口免疫抑制剤、RTX、CY、血漿交換療法
◆感覚性軸索神経炎:対症療法(神経障害性疼痛に対する薬剤など)

◆運動性軸索神経炎、神経根症、CIDP:IVIg、mPSLパルス療法、CY

中枢神経病変

SJSの中枢神経障害としては、中枢神経系血管炎、視神経脊髄炎(NMOSD)、リンパ球性髄膜炎、多発性硬化症様病変などがある。
◆中枢神経系血管炎、NMOSD:GC内服(PSL 0.5-1mg/kg/day)

効果不十分の場合は、CY、RTX、血漿交換療法、エクリズマブ(抗アクアポリン4抗体のNMOSDの場合)
◆リンパ球性髄膜炎:対症療法 
◆多発性硬化症様病変:多発性硬化症に対する治療

 

 

血球異常

  • WBC<500):重篤な感染症を繰返す場合、G-CSFの投与を検討。

(ただし、白血球数が1000を超える程度の最小投与量とすること)

  • PLT<20000:GC内服(PSL 0.5-1mg/kg/day)
  • 溶血性貧血:Hb 8-10 GC内服(PSL 0.5-1mg/kg/day)

Hb< 8  GC内服+IVIg

効果不十分の場合は、RTX、血漿交換療法、CYを検討。

抗SSA抗体陽性の妊娠可能女性への対応

◆一次、二次予防としてHCQ投与が推奨(日本では未承認)。
◆胎児の心ブロック
 ・I°心ブロック:胎盤通過性のあるフッ化GC(デキサメタゾンやベタメタゾンなど)

の投与を検討する。頻回にエコー検査を行う
 ・II°心ブロック:フッ化GC投与開始(1ヶ月以内で投与中止)。

効果不十分の場合、IVIgを考慮
 ・III°(完全)心ブロック:

  • 心内膜線維弾性症(EFE)、胎児水腫(hydrops)、心機能低下がある場合:

フッ化GC投与+IVIg 

効果不十分の場合は、血漿交換療法を考慮

  • 心内膜線維弾性症、胎児水腫、心機能低下がない場合:

フッ化GC投与、IVIg、血漿交換療法のいずれも行わない方がよい。     ただし、モニターはしっかり行う事。

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