関節炎患者のCD34+THY1+滑膜線維芽細胞サブセットはin vitroで高い骨芽細胞能と軟骨形成能を示す【Journal Club 20220921】

Arthritis Res Ther. 2022 Feb 15;24(1):45.

CD34 + THY1 + synovial fibroblast subset in arthritic joints has high osteoblastic and chondrogenic potentials in vitro

著者名 Noda S, Hosoya T, Komiya Y, Tagawa Y, Endo K, Komori K, Koga H, Takahara Y, Sugimoto K, Sekiya I, Saito T, Mizoguchi F, Yasuda S. 

Department of Rheumatology, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental University  

 

Background

 SFs(滑膜線維芽細胞)は炎症性サイトカンやプロテアーゼの産生、パンヌス形成により関節リウマチおよび変形性関節症の病態に関与している。SFsは自己複製や間葉系組織へ多系統分化能など間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells; MCS)の特徴を持っている。滑膜組織から分離された間葉系幹細胞は骨髄由来の細胞より効率的に軟骨細胞(chondrocytes)へ分化させることができる。間葉系幹細胞は機械的刺激や炎症性サイトカンより増殖するため滑膜由来の間葉系幹細胞は骨びらん修復に有用と考えられる。これまで筆者たちは滑膜組織のシングルセル解析によりSFsには複数のサブセットが存在し、CD34とTHY1発現に基づき、CD34-THY1-とCD34-THY1+, CD34+ THY1+の3つのサブセットが存在することが明らかにしてきた。CD34-THY1+サブセットはOAよりRAで多く、CD34+THY1+サブセットはRAとOAで同等であるが、この2つのサブセットはCD34-THY1-サブセットより炎症性サイトカインの分泌ならびに増殖能、浸潤能が高いことを報告している。一方、THY1とCD34は創傷修復に関連する間葉系細胞の表面マーカーでもあり、骨軟骨形成に関与している可能性がある。既にTHY1+CD73+SFはTHY1-CD73+サブセットより高い軟骨形成能があることが報告されている。3つのサブセットは間葉系幹細胞としての機能がそれぞれ異なり、それはTHY1発現が決定すると仮説を立てた。本研究ではSFsサブセットの間葉系幹細胞としての機能(骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞への分化能)を評価した。

 

Methods:

RAおよびOA患者の関節置換術時に滑膜組織を連続して70人(RA18人、OA52人)から採取。RA患者は全て生物学的製剤を含むDMARDs治療を、10人はステロイド(平均PSL2.9mg/日)治療をうけていた(Table1)。サンプルデータに限りがあるためRAとOAを合わせて統計学的に分析した

滑膜組織は酵素処理しSFsを単離し、セルソーターを用いてCD34、THY1の発現に応じて3つのサブセットに分離した(12連続サンプル RA:3, OA:9)。

  • Live cells→CD31(PECAM1 Pltマーカー),CD235a(RBCマーカー), CD45(WBCマーカー)が陰性細胞→PDPN陽性細胞→CD34, THY1 

分離した3つのサブセットを間葉系幹細胞に特徴的な表面マーカー(THY1, CD34, CD73, CD271, CD54, CD29, CD44)で染色し、フローサイトメトリーによるmean fluorescence intensity(MFI)分析を行った。

分離したSFsを骨芽細胞、軟骨細胞および脂肪細胞へ分化させるため専用培地で3週間培養し、分化を組織染色およびqPCR(mRNA発現)で評価した。

  • 免疫染色:骨芽細胞分化 alizarin red (Merk)、ALP、軟骨細胞分化 safranin O, 脂肪細胞分化 oil-red staining
  • qPCR: ALPL, RUNX2, OCN, ACAN, LPL, PPARγ, THY1, CD34, CD73, CD271, CD54, CD29, 18S
  • 骨芽細胞へ誘導:3×10^3 cells/cm^2 on 12 wells plate をosteogenic differentiation medium including 0.2M L-ascorbic acid-2-phosphate(Wako), 5mM beta-glycerophosphate(wako) and 1nM dexamethasone(Wako). Media were changed twice per week. Cultured for 3-4w. 3 dishes 9-11 donors.
  • 軟膏細胞への誘導:1.25-2.5 x 10^5cells on 15mL tube and centrifuged at 1,500xg for 5min. cultured in condrogenic induction medium containing 1000ng/mL BMP2 (PeproTech) and 10ng/mL TGF-B3 (PeproTech), incubated for 3w.
  • siRNA: 1.2 x 10^4 cells into 12 well cell culture plates. Incubated with 20pM THY1 siRNA using Liprofectamine for 3days.
  • Cell survival/proliferation assay: watersoluble tetrazolium salt (WST-8) colorimetric assay using cell counting kuo-8 (Dojindo)
  • FACsAb:anti-CD45-APC-H7 (2D1, BD Biosciences, CA, USA), anti-CD235a-APC-Alexa Fluor750 (11E4B-7-6, Beckman Coulter, FL, USA), anti-CD31-PE-Cyanine7 (WM-59, eBioscience, CA, USA), anti-CD146-APC (P1H12, eBioscience), anti-CD34-PE (4H11, eBioscience), anti-PDPN-PerCP-eFluor710 (NZ-1.3, eBioscience), anti-THY1-FITC (5E10, BD Bioscience), anti-CD73-PE-CF594 (AD2, BD Bioscience), anti-CD271-APC (ME20.4, eBioscience), anti-CD54-PE-CF594 (HA58 BioLegend, CA, USA), anti-CD44-APC (G44-26 BD Bioscience), anti-CD29-APC (TS2/16 BioLegend), human TruStain FcX (BioLegend), and Live/Dead fixable aqua dead cell stain kits (Molecular Probes, Thermo Fisher Scientific, MA, USA).

 

Results: 

分離直後の滑膜細胞のTotal samples (OA〇+RA□)における間葉系幹細胞マーカーの発現

骨芽細胞分化に優れた間葉系幹細胞マーカーのTHY1, CD73はCD34+THY1+サブセットにおいて強く発現していた。

Figure1A. THY1の発現はCD34+THY1+>CD34-THY1+>CD34-THY1-のサブセット順で有意に高かった。THY1の発現はOA.RAと疾患によらずCD34+THY1+サブセットにおいて最も高かった。

 

Fugre1B. CD73とCD271の発現はCD34+THY1+サブセットで最も高かった。

骨形成能が低いことを示すCD54(ICAM-1)とCD29(β1インテグリン)の発現はCD34-THY1-サブセットよりCD34+THY1+サブセットで低かった。CD44の発現に差は認められなかった。

(統計学的優位差はRA+OAとOAでのみ観察されたがRAとOAは同じ傾向を示した)

 

Figure2A&B. 骨芽細胞への分化能石灰化形成を示すアリザリンレッド染色骨芽細胞を示すALP染色で評価。CD34+THY1+サブセットがRAおよびOA由来いずれでも最も発現が強かった

アザリンレッド染色ではCD34+THY1+サブセットがCD34-THY1-の4倍,CD34+THY1-の1.5倍広かった。ALP染色ではCD34+THY1+サブセットがCD34-THY1-の2倍広かった。

Figure 2C. 骨芽細胞分化関連遺伝子(RUNX2, ALPL、OCN)をqPCRで評価。

骨芽細胞分化のmaster regulatorであるRUNX2の発現はCD34+THY1+サブセットの方がCD34-THY1+サブセットより2.8倍高かった。骨芽細胞分化の初期マーカーであるALPLは他の2つのサブセットよりCD34+THY1+サブセットで1.8倍高く発現していた。成熟骨が細胞の分化マーカーであるOCNの発現レベルもCD34-THY1-セブセットよりCD34+THY1+セブセットで1.7倍高かった。

(統計学的優位差はRA+OAとOAでのみ観察されたがRAとOAは同じ傾向を示した)

THY1+サブセット、特にCD34+THY1+サブセットがinvitroで最も優れた骨形成能を示すサブセット

Figure 3A. 軟骨形成分化培地で培養後、CD34+THY1+サブセットが最大の軟骨細胞ペレットを形成。

Figure 3B. サフラニンO染色(赤)での軟骨基質の比率はCD34-THY1-(39%)、CD34-THY1 +(41%)、およびCD34+THY1+(46%)であり、CD34+THY1+サブセットは、CD34-THY1-サブセットよりも軟骨マトリックス比率が有意に高かった。

Figure 3C. 軟骨形成を評価する軟骨基質のアグリカンをコードするACANの発現レベルはCD34-THY1-サブセットよもCD34-THY1+(2.8倍)およびCD34+THY1+(8倍)で高かった。

(統計学的優位差はRA+OAとOAでのみ観察されたがRAとOAは同じ傾向を示した)

THY1+サブセット、特にCD34+THY1+サブセットがinvitroで最も優れた骨形成能を示すサブセット

 

Figure4. 脂肪細胞分化培地で培養後、すべてのSFサブセットは同等に脂肪滴を示した。 リポタンパク質リパーゼおよびペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γをコードするLPLおよびPPARγを含む脂肪細胞関連遺伝子の発現レベルに有意差はなかった。

 

Figure5. CD34+THY1+サブセットにおいて、THY1が骨芽細胞および軟骨細胞分化能に関与していると考え、Bulk SFsにおいてTHY1をsiRNAでノックダウンしたところ骨芽細胞への分化が抑制された。

Figure5A&B. THY1をsiRNAでノックダウンしたところアリザリンレッド染色およびALP染色が抑制された

Figure5C. RUNX2とALPのmRNA発現が抑制された。

内因性THY1発現がCD34+THY1+サブセットの間葉系幹細胞機能に不可欠であることが示唆された

 

Discussion

CD34+THY1+サブセットに高発現するTHY1が、高い骨・軟骨分化能に関与することがわかった。これは骨髄由来間葉系幹細胞の骨形成にTHY1が関与する既存の報告と一致する。また、内皮細胞の分化を介した血管新生にTHY1が関与する報告もあり、血管周囲のSFは血管内皮細胞からのNotch3シグナルにされされ、THY1発現が誘導・維持される。滑膜組織において血管周囲に局在するTHY1+サブセットが滑膜炎と関節損傷に続く血管新生を誘発している可能性もある。

SFにおけるTHY1の発現は関節損傷が起きたときに増強されるため、THY1が関節の恒常性を調整することが示唆される。また関節炎環境下ではCD34+THY1+サブセットは機械的ストレスや損傷によって代償性に誘発される可能性がある。

CD73がTHY1+サブセットで高発現し、THY1ノックダウンでCD73発現が抑制されたことは、CD73もTHY1+サブセットの高い骨形成能に関与している可能性がある。さらにTHY1+に加えCD34も間葉系幹細胞のマーカーとして重要である。CD34は造血幹細胞だけでなく循環線維細胞にも10%発現し、損傷部位に動員され炎症や創傷修復に関与しており、骨芽細胞分化と軟骨細胞分化する可能性が示唆されている。

TNFおよびIL-6阻害治療下における骨びらんの修復は、IL-6阻害治療で最も頻繁に観察されたと報告されている。間葉系幹細胞の誘発はIL-1βとTNFαを含む炎症性サイトカイン存在下で増強される。炎症性サイトカインの抑制は関節炎を効果的に改善するが、間葉系幹細胞の誘発し組織を修復するには有益ではないかもしれない。

炎症性サイトカイン分泌と高い増殖能によりRAの病態に寄与すると考えられ、悪玉と考えられていたCD34+THY1+サブセットが、骨・軟骨の修復・再生に関与する善玉サブセットとしても機能しうることが明らかとなった。CD34+THY1+サブセットの高サイトカイン産生能を抑制し、間葉系幹細胞としての骨・軟骨分化能を高めるような治療薬(Notch3リガンドの1つであるJagged 1とDelta-like 4およびTHY1を増強するactivating hypoxia-inducible factor αが候補)が、従来の抗炎症のみならず関節再生にも働く新しい抗リウマチ薬となる可能がある。また間葉系幹細胞の炎症関節への直接注入は制御性T細胞の誘導により免疫抑制効果を発揮しT細胞の増殖とサイトカン産生を阻害することが証明され、関節腔へのヒト間葉系幹細胞を投与する臨床試験が検討されている。間葉系幹細胞由来自体でなく間葉系幹細胞由来のエクソソームは軟骨形成を促進する可能性がありRAならびにOAの新しい治療戦略になりうる。

 

Limitation: 滑膜組織サンプルの半分以上がOAに由来し、RAとOAの分化能の比較は十分ではない。

CD34 + THY1 +サブセットの骨形成および軟骨形成の可能性は、invivo環境では評価されていない。

Wnt経路を含む以前に報告されたシグナル伝達経路の関連性を分析していない。

各サブセットの細胞数が限られているため、THY1ノックダウン実験にはバルクSFを使用している。

THY1以外のMSC表面マーカーの機能は調べられなかった。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

私たちと一緒に学びませんか?

プログラム・募集要項はこちら


昭和大学病院
〒142-8666 東京都品川区旗の台1-5-8
アクセスマップ
電話:03-3784-8000(代表)

[初 診]月曜~土曜 8:00~11:00
[再 診]月曜~土曜 8:00~11:00(予約のない方)
[休診日] 日曜日、祝日、創立記念日(11月15日)、年末年始