Long-term experience with rituximab in anti- synthetase syndrome-related interstitial lung disease
(抗ARS抗体間質性肺疾患に対するリツキシマブの長期使用経験)
Rheumatology 2015;54:1420 1428
———————————————————————-
<サマリー> 重症間質性肺疾患の34人に対するリツキシマブ投与後12ヶ月の呼吸機能の変化とCT画像の変化を比較した。34人中24人が12ヶ月後の経過観察を受け、努力肺活量、1秒量、DLCOの改善が得られたが、他剤との比較や安全性の評価は不十分である。
———————————————————————-
P:既存の糖尿病のない炎症性疾患で全身ステロイドを長期使用した患者
E:リツキシマブ投与前
C:リツキシマブ投与後
O:呼吸機能の変化
<セッティング>
・オスロ大学で1994年-2013年の間で抗ARS抗体陽性間質性肺疾患と診断された症例
<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
・観察研究
<Population、およびその定義>
・オスロ大学で1994年-2013年の間で抗ARS抗体陽性間質性肺疾患と診断された症例122人のうち、リツキマブを投与された34人。抗ARS抗体、抗SS-A抗体が測定されている。抗Jo-1抗体、抗Pl-7抗体, 抗Pl-12抗体, 抗EJ抗体, 抗OJ tRNA 酵素抗体が測定されている。
<Control、および、その定義>
・コントロールなし
<主なアウトカム、および、その定義>
・治療前, 後12ヶ月の呼吸機能、1秒量、D L C O
・HRCT, 治療前と治療後(中央値 5ヶ月後、3-12ヶ月)2人の放射線科医による間質性病変の範囲の評価(GGO, 小葉間隔壁の肥厚、浸潤影、網状影)、実質陰影の評価
・筋炎の評価:CKの治療前後評価、MMT8の評価
・12ヶ月以内の死亡、20週目までの入院を要する有害事象
<交絡因子、および、その定義>
・記載なし
<解析方法>
呼吸機能、C K、MMT8の前後評価はWilcoxon signed-rank test, P < 0.05.で評価された。
<結果>
・オスロ大学で1994年-2013年の間で抗ARS抗体陽性間質性肺疾患と診断された症例122人のうち、リツキマブを投与された34人
・リツキシマブのindication
- 30例:「Severe」、「Progressive」, and/or 「治療抵抗性」の肺疾患
- 2例:重症関節炎
- 1例:筋炎
- 1例:リンパ腫
34例中6例が6ヶ月以上12ヶ月以内にフォロー終了となり、24例が12ヶ月以上のフォローがされた。24例のフォローアップは中央値84ヶ月のフォロー期間があった(23-440ヶ月)
(Table 1)
・24例中19例がJo-1抗体陽性、3例がPl―7抗体陽性、2例がPl-12抗体陽性
・抗SSA抗体が18/241で陽性
・急性発症もしくは急性増悪例 は50%
・2例は肺高血圧の診断で1例は肺移植を施行された
・筋炎は79%に診断
・関節炎は13%に診断
・リツキシマブ投与開始のタイミング
発症からのタイミングは1-330ヶ月後まで幅広く、中央値52ヶ月後
・リツキシマブの投与方法 24例中21例で以下
- 1000mg
14日空けて
- 1000mg
・リツキシマブの投与サイクル 中央値 2.7回(1-11), だが、8/24例は1サイクルのみとなっている
・6/24例は先行して他の免疫抑制薬の使用なし
□呼吸機能
・21/24例で評価できた。
FVC 58%(15-60)→72%(38-105)の改善
1秒量 58%(35-107)→71%(31-115)の改善
DLCO 41%(15-60)→48%(15-84)の改善
7/24人は上記全てのパラメータで>30%の改善があった。
そのうち6/7人は発症から1年以内にリツキシマブが投与されている
そのうち4/6人はリツキシマブ投与前の免疫抑制剤の使用がない
□HRCT
23/24人でCTを治療前後で撮影
肺病変の範囲は33%(0-93)減少した。
その他)C K、抗体価の前後評価もされた。
□他の投薬
・18/24人で他のリツキシマブ投与前に他の免疫抑制薬が投与されていた。
・7/24人でリツキシマブ投与前のP S L>10mg/日を投与後にPSL <10mg/日に減量した。
・22/24人でリツキシマブの1サイクル投与後に他の免疫抑制薬を使用されており、3ヶ月以内に開始されていた。
・12/24人の急性発症もしくは急性増悪症例のうち、10人はRTX+IVCYを併用していた。
□死亡例、副作用
・34例中7例が死亡の報告あり
・観察期間内で6例は非死亡の入院を要する感染合併症を発症した。
RTX導入後 1-20週後に発症した。
・6例では全てRTX投与直前もしくはRTX導入後にIVCYが併用されていた。
<結果の解釈・メカニズム>
・発症早期にリツキシマブが投与された例では、呼吸機能、CTの改善が良好であった。
<Limitation>
・後方観察で、標準治療プロトコルが設定されていない
・急性発症/急性増悪例ではIVCYとの併用が行われている他、RTX初回導入後の維持療法が他剤を使用されており、リツキシマブ+IVCYの効果との比較はできていない
・サンプルサイズは小さい。
・維持療法に移行した例は少ない
<批判的吟味>
・改善したとされている症例は、初発寛解導入期であり通常のARS-ILDの改善の経過としては妥当な経過と考えるため、「リツキシマブは発症早期に使用することが有効」との結論が早計と考える。
・維持療法への結びつけとしては不十分。
・急性増悪例へのRTX+IVCY併用療法は現状の実臨床では行いがたく、有効性としての評価材料にはならない可能性がある
・ステロイド投与量に関する情報が乏しい
<この論文の好ましい点>
・検討されている、リツキシマブの間質性肺炎への有効性に関して、自験例で長期観察例を集計した点
<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・現時点ではリツキシマブの寛解導入、維持療法の有効性については確立されたものはなく、実臨床上は「難治性」の症例、「既存の維持療法に再発性」の症例に限定して使用することが現実的かもしれない。
・感染症発症リスク増大は、少なくともIVCYとの併用を前後で行う際には明確であり、導入に際しては細心の注意をはらう必要がある。
・さらなる追加報告を確認して、今後の症例への適応を考慮する。
担当:鷲澤 恭平