補体C4の遺伝子コピー数低値およびC4A欠損症と筋炎の関連【Journal Club 20230524】

Low copy numbers of complement C4 and C4A deficiency are risk factors for myositis, its subgroups and autoantibodies
補体C4の遺伝子コピー数低値およびC4A欠損症は筋炎のリスク因子となる

DL Zhou et al.  Annals of the Rheumatic Diseases 2023;82:235-245.

<サマリー>
C4の遺伝子コピー数低値、C4A欠損症、HLA-DRB1*03は特発性炎症性ミオパチー(IIM)のORが高い。

P:白人を中心とした均質な患者群
E:C4の遺伝子コピー数低値およびC4A欠損症
C:上記以外
O:IIMの発症頻度が上昇する

【背景】
IIMは、若年性皮膚筋炎(JDM)、成人発症皮膚筋炎(DM)、多発性筋炎(PM)、封入体筋炎(IBM)の4つのサブグループに分類される。
IIMと補体との関連についてはこれまであまり知られてこなかったが、補体C4A欠損症に関連するHLA-DRB1*03がIIMの強いリスク因子のひとつであることが示されている。
C4は液性免疫のアンカー蛋白質として重要な役割を果たしている。①0-10コピー程度の範囲での遺伝子コピー数の複対立多形②内因性レトロウイルスHERV-K(C9)による長鎖と短鎖への二極化③1120-1125位間での4つのアミノ酸が異なることによるC4AおよびC4Bの違い④C4AおよびC4Bの電気泳動的・血清学的・機能的反応性の多形 などの多様性によりC4は個体間での遺伝子的複雑性を持つ。

【手法】
イギリス、スウェーデン、チェコ、ベルギー、アメリカの筋炎遺伝学コンソーシアム(MYOGEN)によって収集された1644人のIIM患者、および地理的背景を同じくした3526人の健常人を対象とし、検体を分析した。
DM、JDM、PMについてはBohan and Peter classification criteriaを満たすもの、IBMについてはGriggs or European Neuromuscular Center or the UK Medical Research Council criteriaを満たすものとした。
遺伝子コピー数はTaqManを用いた定量的リアルタイムPCRを用いて、total C4(C4T)、C4A、C4B、長鎖(C4L)、短鎖(C4S)について測定した。C4A+C4B=C4T、C4L+C4S=C4Tとして検算を行った。
血清中補体C4およびC3濃度、HLA-DRB1ジェノタイプについても測定した。
(筋炎特異自己抗体MSA、筋炎関連自己抗体MAAの内訳や、その他自己抗体ステータスについては、おそらくMYOGENデータベースによるものと思われるが、本論文中では記載なし。)

【結果】
遺伝子コピー数はIIM vs健常人群で
C4T:3.50±0.78 vs 3.83±0.76(p=1.4×10^-46)
C4A:1.74±0.88 vs 2.10±0.84(p=6.0×10^-46)
C4B:1.74±0.59 vs 1.73±0.62
C4L:2.41±1.13 vs 2.94±1.08(p=1.7×10^-54)
C4S:1.06±0.72 vs 0.90±0.77(p=3.0×10^-12)

サブグループでは傾向に大きな差なし。C4Tの低下は主にC4Aの低下によるところが大きく、IBMではC4Bの低下も伴っていることが特徴的であった。
抗Jo-1を除いて、MSAを有する患者はそうでない患者と同様のC4およびC3濃度であった。
MAAを有する患者はそうでない患者よりもC4およびC3のレベルが有意に低かった。
抗PM/Sclおよび抗Roを有する患者はC4およびC3のレベルが有意に低かった。
HLA-DRB1*03陽性率は、健常人では26.1%であったのに対し、IIMでは56.1%であった。IBMでは75.4%、PMでは59.5%、DMでは47.6%、JDMでは45.5%であった。
ロジスティック回帰分析では、C4A欠損症とC4遺伝子サイズの変動はJDMとDMの独立したリスク因子であり、HLA-DRB1*03とC4A欠損症、C4Tの遺伝子コピー数低値はPMとIBMの独立したリスク因子であることがわかった。

【議論】
皮膚筋炎における補体を介した血管障害についてはこれまでによく知られている。
今回、IIMにおいてC4T遺伝子コピー数低値、C4L遺伝子コピー数低値、C4A欠損症がリスク因子となることが新たに示された。PMやIBMは特定臓器に対する細胞傷害性の細胞性免疫によるものと考えられており、今回の発見は液性免疫が病態に果たす役割について示唆する重要な結果である。
C4Sはより高いC4産生と関連し、C4Bは補体経路のより速い活性化をもたらす。一方でC4LはC4産生の減弱と関連するが、ウイルス感染に対するアンチセンス防御に関連している可能性がある。C4Aは免疫複合体のクリアランスや自己免疫に対する保護において重要な役割を果たす。→補体内でのバランスの変化は、自己に対する免疫応答を歪め、自己抗体の生成に伴う炎症の原因となる。
また、HLA-DRB1ジェノタイプに伴うC4A欠損症がIIMの重大なリスクとなることも示され、IIMの遺伝的要因の存在が示唆された。

【本研究の強み】
IIMサブグループ間や、抗体間での補体ステータスの違いが見出され、今後の病態解明の糸口となる可能性がある。

【Limitation】
白人患者を対象とした研究であり、特に遺伝的要素も絡む内容であるため、本邦でアジア人に対してそのまま適用することはできない。
検体採取時にnaiveであったかについての厳密な記載がされていない。
治療介入後にエピジェネティックな変異が生じることがあるのかは不明。

【わからなかったこと】
SLEでは補体を疾患活動性マーカーとして扱うことがあるが、IIMで補体を疾患活動性マーカーとすることは少なく、治療介入による変動も少ないという印象を受ける。そのような背景ではありながら本論文では健常人と比較しての補体ステータスの差異が示されており、IIMにおける補体の位置づけについてはまだ不明な点が多いと感じた。

担当:井上良

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