膠原病性間質性肺炎治療中における縦隔気腫発症のリスク因子予測        【Journal Club 20230726】

Predictive Factors for Pneumomediastinum During Management of Connective Tissue Disease-related Interstitial Lung Disease: A Retrospective Study
膠原病性間質性肺炎治療中における縦隔気腫発症のリスク因子予測

Intern Med 60: 2887-2897, 2021

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<サマリー>
膠原病に伴う間質性肺炎(以下CTD-ILD)はしばしばステロイドを用いて治療を行われる。まれではあるが、ステロイド治療が縦隔気腫や気胸の発症の一員となっている可能性が否定できない。今回縦隔気腫・気胸等の発症のリスクについて検討を行った。

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P:CTD-ILD
E:縦隔気腫がステロイド導入後にみられた
C:縦隔気腫がみられなかった
O:治療前の患者状態や治療法に差はみられるか

 <セッティング>
2014年12月1日から2019年11月31日の間に筑波大学附属病院リウマチ科に入院しILDに対してコルチコステロイド療法を開始した患者を対象とした。(除外として、薬剤性ILD、RA-OP)

<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
後ろ向き研究

<Population、およびその定義>
関節リウマチについては2010年のACR分類基準を満たす、またPM/DM、CADM、Ssc、Sjogren症候群、SLE、MCTD、MPAを対象疾患とした。
間質性肺炎の有無については主治医判断で胸部CT、KL-6値の上昇を持って判断としている。

<主なアウトカム、および、その定義>
エアリーク症候群の定義は、間質性肺気腫、気胸、縦隔気腫、気腹、腸管気腫、全身性空気塞栓症と定義づけており、HR-CTを撮像して確認をしている。
アウトカムとしては、初診時の患者情報(年齢、性別、原因疾患名、喫煙歴)や初診時の症状、ラボデータ(KL-6,LDH,Alb,IgG,CRP,PaO2),呼吸機能検査結果、初診時のCT画像(GGO、コンソリデーション、牽引性気管支拡張、網状影、蜂巣肺)、治療(ステロイド、ステロイドパルス療法、IVCY、CyA、TAC、MMF、AZP)の情報を収集した。

<解析方法>
・ロジスティック回帰分析によりエアリーク症候群発症の予測因子を推測した
    モデル1:BMI, CADM, LDH, PaO2 and mPSL pulse 療法
    モデル2:BMI, LDH, %DLCO, mPSL pulse 療法 and CyA
・ROC曲線を用いて、適切なカットオフ値を導き出した
・カットオフ値に応じてそれぞれを2群に分類し、縦隔気腫のない生存期間をカプランマイヤー曲線を用いて導き出している。

<結果>
Fig1:患者フローチャート
ステロイド治療を行ったCTD-ILD患者は78名、うち、15名がエアリークを伴う病態を起こした。気胸も縦隔気腫も起こしていない1例を除外し、気胸と皮下気腫の患者1例を除外した(なぜかは不明?)エアリークの病態を起こさなかった63名の中で、120日以内の死亡例7例、120日間のフォローアップのできなかった7名は除外された

Table1:ベースライン
縦隔気腫群 平均63.3歳 非縦隔気腫 平均59.8歳
縦隔気腫を起こした群は有意にBMI低く、CADM多く、LDH高く、拘束性換気障害による肺拡散能悪く、ステロイドパルスが施行される

Fig2:縦隔気腫患者の生存曲線
累積生存率は5年間で68.4%であり、縦隔気腫を起こさなかった患者と比較して、生存率に統計学的有意差はみられなかった(Supplementも参照)

Table4:多変量解析
モデル1では、BMI[オッズ比(OR)(95%CI)0.482(0.272-0.853)]とLDH[OR(95%CI)1.013(1-11.025)]が有意に関連した。
モデル2ではいずれの説明変数も統計的に有意ではなかったが、BMIが低くLDHが高い患者は、肺炎を発症する傾向があった。

Fig3/Table5:多変量解析結果をもとにして、ROC曲線を記載して、カットオフ値を求めた。
BMIとLDH値の至適カットオフ値はそれぞれ20.2kg/m2、378U/Lであり、BMIにLDH値を加えて複合化した場合感度100%、特異度は71.4%となる。

<結果の解釈・メカニズム>
CTD患者におけるエアリーク症候群については頻度は多くなく、既存のメタアナリシスであるとMDA5抗体陽性や、皮膚潰瘍がしられている。
低BMIでのエアリークに関しては肺胞内結合組織の萎縮が考えられる(事実動物実験でもカロリー制限により肺胞内結合組織の萎縮化がみられている)
LDHについてはILDの伝統的なバイオマーカーであるが、細胞障害のマーカーでもあり、肺結合組織の損傷が初期から強いことを意味していると考えられる(ただ、一般的なバイオマーカーであるKL-6では有意差得られていない)

<Limitation>
・決定的な予後因子としてのBMIやLDHについて説明ができていない
・入院患者を対象としており、軽症の外来患者については除外されている可能性がある。
・対照群の脱落が多い印象がある(120日内の死亡、追跡困難が多い、その理由が不明である)

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
CTD-ILD患者において、縦隔気腫などのエアリークの病態の起こりやすいと考えられる患者に対して、いきみなどの予防、早期の鎮咳薬や便秘コントロールなどを積極導入するきっかけになるのではないか、また、安静の保てない患者には指導や経過観察目的の入院なども考慮されると考えた。
呼吸器設定において圧力設定を最低限にするなどということも考慮する

<この論文の好ましい点>
膠原病患者においてステロイド治療導入後に縦隔気腫発症した患者としていない患者とを比較した研究としては初めての研究となる

<この論文にて理解できなかった点>
・CTD-ILDの初発のみを見ている研究か?あるいは既存のCTDがあることはわかっていて、ステロイド以外の免疫抑制薬ですでに治療されている患者も含んでいたのか?
・説明変数の免疫抑制薬としてCyAとしていることについて、ほかの免疫抑制薬ではどうであるか知りたい。

担当:河森一毅

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