関節リウマチはパーキンソン病発症リスクとなるか?【Jounal club 2023/11/1】

Rheumatoid Arthritis and Risk of Parkinson Disease in Korea
関節リウマチとパーキンソン病発症リスクの検討

Jihun Kang,MD, PhD; Yeonghee Eun, MD, PhD;Wooyoung Jang, MD, PhD; Mi Hee Cho, MD; Kyungdo Han, PhD; Jinhyoung Jung, PhD; Yunkyung Kim, MD, PhD; Gun-tae Kim, MD, PhD;DongWook Shin, MD, PhD, DrPH; Hyungjin Kim, MD, PhD
JAMA Neurol. 2023 Jun 1;80(6):634-641.

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<サマリー>
関節リウマチ患者におけるパーキンソン病の発症は一般集団と比較して高率であり、特に血清反応陽性患者において顕著であった。関節リウマチ患者の運動障害についてパーキンソン病の可能性も視野に入れ早めに神経内科専門医へ紹介することを考慮する。
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P:韓国国民
E:関節リウマチ(RA)患者
C:関節リウマチでない患者
O:パーキンソン病(PD)発症  

<セッティング>
2010年から2017年に登録され、2019年まで追跡された韓国の国民健康保険サービスのデータベースを使用した。

<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
後ろ向きコホート研究

<population>
・韓国国民
 ・除外 ①40歳未満②他のリウマチ性疾患でRIDに参加している③パーキンソン病既往あり④指標日から1年以内にパーキンソン病診断されている⑤欠損データがある⑥対照群と年齢、性別がマッチできなかった)

<主な曝露とコントロール、およびその定義>
関節リウマチについては
  ①ICD-10の診断コード(SNRA or SPRA)が登録されている
  ②何らかのcsDMARD bDMARD tsDMARDが180日以上処方されている 
  ③RAを含む様々な希少難治性疾患に対して最大10%の自己負担軽減を提供するRIDプログラムにおいてリウマチ科医が診断書を記載して登録されている
  
 対照群については、RA診断を受けなかった患者で年齢、性別、指標年(1:10マッチング)で一致した。同一の除外基準を適用した後、年齢と性別の1:5マッチングを行った。

<主なアウトカム、および、その定義>
・パーキンソン病の定義はICD-10コードを用いておりRIDプログラムに登録された患者としている。また、診断において、英国基準を使用している。(正診率86.4%)
・RA診断後1年以降、もしくは2019年の調査終了までフォローをされている。

<解析方法>
・RAの血清学的状態の有無による試験参加者のベースライン特性を、連続変数ではt検定、カテゴリー変数についてはχ2検定を用いて比較した。
・RAとPDリスクとの関連を検定するためにCox比例ハザード回帰分析を行った。
・3つのモデルを以下の共変量を利用して構築
(モデル1では、年齢、性別、喫煙、飲酒、身体活動、低所得、BMIを考慮した。モデル2にはモデル1に糖尿病、高血圧、高脂血症、慢性腎臓病を加えた。モデル3は、モデル2に心筋梗塞、脳卒中、うつ病を加えたものである。)
・感度解析として
 ①より長いラグ(2年、3年、5年)による感度分析 ②層別解析:女性では、閉経状態、閉経年齢、ホルモン補充療法(HRT)も評価した。③使用DMARDsとパーキンソン病の関連をみた。

<結果>
・韓国人のうち97%が登録されている健康保険データベースにおいて、2010年から2017年に新たに診断された関節リウマチにおいて基準を満たした64457名のうち、8984名が除外され、55473名となった(うち39598名がSPRA、15670名がSNRA)、1:5で年齢と性別をマッチさせ、対照群は273400名となる。
・関節リウマチ群は290名が、対照群は803名がパーキンソン病を発症した。
・RA群、対照群とも 平均58.6歳 男性25.3%
・RA患者は対照群と比較して、よりCurrent smokerが多く、肥満が多く、飲酒量は少なく、運動習慣はなかった
・SPRA患者はSNRA患者と比較してより高齢、女性が多く、肥満や飲酒量、運動習慣は少なかった。
・RA患者では対照群に比べPDリスクが1.84倍高かった。この関連はモデル1から3まで一貫していた
・SNRA群と比較して、SPRA群はPDのリスクが高かった(モデル3:aHR1.61;95%CI 1.20-2.16)
・感度分析で長いラグを適用しても観察された関連は変わらなかった
・層別解析について
  PDのリスクに関するRAと社会経済的特徴、健康行動、併存疾患との間に有意な交互作用はみられなかった
  RAの血清学的状態との間に有意な交互作用はみられなかった
  RAとPDの関連は閉経前女性(aHR、4.43;95%CI、2.05-9.59)において閉経後女性(aHR、1.75;95%CI、1.46-2.10)よりも強く見られた。
・DMARDsに関する探索的解析
 bDMARDsを使用しなかったRA患者ではPDのリスクは対照群より高かった(aHR、1.78;95%CI、1.54-2.04)が、bDMARDsを使用したRA患者では対照群に比べてPDのリスクは高くなかった(aHR、1.16; 95%CI, 0.65-1.05)

<結果の解釈・メカニズム>
・SPRA>SNRA>非RAでよりPD発症のリスクが高まった。
・RAにおけるTNF-αやIL-6などの全身性炎症性サイトカインの大幅な増加が、ミクログリアを活性化させ、α-シヌクレインやメタロプロテアーゼ-3を含む神経毒性分子がドパミン神経細胞から放出されることによる黒質ドーパミン作動性ニューロンの機能障害や変性を起こし、PDの発症に関与している可能性がある
・SPRAにおいて滑膜線維芽細胞におけるオートファジー関連蛋白質軽鎖3-IIの発現が増加するが、PD患者において黒質にいて同じくオートファジー関連タンパク質軽鎖3-IIの発現の増加がみられる。
・bDMARD使用者にはPDのリスク上昇はみられなかった。これは、bDMARDsがPDのリスク上昇を相殺する可能性を示唆しているのかもしれない。(炎症性腸疾患においても健常者と比較してPD発症率が高いとされているが、抗TNF療法を行っている患者では発症率が低下するという先行研究がある)

<Limitation>
・RAの疾患活動性との対比ができていない
・RA患者のほうがより医療機関受診率が高くサーベイランスバイアスが発生している可能性がある
・潜在的交絡の存在(遺伝子、家族歴、環境曝露)
・アウトカムの発症がいつからかは定義は難しい。そのためRA発症前からアウトカムが発症している可能性もある

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・今回PDにおける検討であったが、そのほか神経変性疾患において、炎症がどのような役割を果たすのか検討していきたい
・また、炎症性疾患の疾患活動性と神経変性疾患発症の関連もみてみたい
・RA患者における運動障害について敏感になり、適切なタイミングで神経専門医へのコンサルトを行う。

<この論文の好ましい点>
・国家単位のRIDプログラム登録患者を用いた誤診などが極力少ないと考えられる集団で行われた研究である。
・既報が2000年代のものであったことと比して、2010年代の研究でありRAの診断、治療精度の向上した中で行われている研究である

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