高齢者の肺炎球菌性肺炎入院に対する肺炎球菌ワクチン接種の有効性【Journal club 2024/1/31】

高齢者の肺炎球菌性肺炎入院に対する肺炎球菌ワクチン接種の有効性

Effectiveness of Pneumococcal Vaccination Against Pneumococcal Pneumonia Hospitalization in Older Adults: A Prospective, Test-Negative Study

Heo JY, Seo YB, Choi WS, Kim EJ, Jeong HW, Lee J, Yoon JG, Noh JY, Cheong HJ, Kim WJ, Song JY.
Department of Infectious Diseases, Ajou University School of Medicine, Suwon, Republic of Korea.
J Infect Dis. 2022 Mar 2;225(5):836-845


Background:
13価のpneumococcal conjugate vaccine (PCV13: プレベナー13®)と23価のpneumococcal polysaccharide vaccine (PPSV23: ニューモバックス®)が使用されてきたが肺炎球菌性肺炎は依然として頻度が高い。成人市中肺炎予防接種試験 (CAPiTA) では、PCV13が、PCV13血清型肺炎球菌性肺炎に対して45.6%、肺炎球菌性肺炎に対して30.4% という有意な有効性を有することが示されている。しかし、ほとんどの国は依然として免疫不全状態のない65歳以上の高齢者に対してPCV13/PPSV23の連続ワクチン接種ではなくPPSV23ワクチン接種を推奨している。2014年から韓国感染症学会とその成人予防接種委員会は、慢性疾患を有する65歳以上の高齢者に対してPCV13/PPSV23の連続ワクチン接種を推奨し始めた。高齢者における肺炎球菌性肺炎に対する PCV13、PPSV23、および連続ワクチン接種の有効性を実臨床で評価した。

 

Methods
 ・前向き多施設研究: 韓国の地域に拠点を置く4つの大学病院で実施
 ・2015年9月から2017年8月まで市中肺炎で入院した65歳以上の成人を対象
 ・各病院で訓練を受けたスタッフ2名が、市中肺炎の入院患者を前向きにスクリーニングし毎日登録
 ・BinaxNOWの尿中肺炎球菌抗原とワクチン血清型を同定するために血清型特異的肺炎連鎖球菌尿中抗原検出(ssUAD)アッセイ(24種類の血清型)を実施
 ・ssUADアッセイを実施した患者のみ有効性解析
 ・肺炎球菌性肺炎は、1つ以上の診断方法 (喀痰/血液培養、BinaxNOW、または ssUADアッセイ) によって肺炎球菌感染が確認された場合に診断されました。

Statistical Analysis
 ・ケースコントロール検査陰性デザインを使用してワクチン有効性(VE)を推定。
 ・検査陰性対照は、3つの診断方法のいずれでも検出できなかった非肺炎球菌性肺炎患者として定義 
 ・PCV13またはPPSV23血清型肺炎球菌肺炎に対するワクチン有効性の分析では、PCV13またはPPSV23血清型肺炎球菌感染が微生物培養またはssUADアッセイによって同定されたケースと定義。
 ・ワクチン接種状況は、国の予防接種登録と各病院の医療記録に基づいて確認。
 ・患者が入院前にPCV13 (4週間以上) および PPSV (4週間から5年) のワクチン接種を受けた場合、事前ワクチン接種したとされた。PCV13/PPSV23連続ワクチン接種は、順番に制限はしなかった。
 ・症例と対照間のカテゴリデータは、ピアソンχ2検定とフィッシャーの直接確率検定を使用して比較。
 ・ワクチン有効性(VE)は、(1–オッズ比 [OR])×100%と 95% 信頼区間 (CI) として計算。
 ・ワクチン接種者とワクチン接種を受けていない個人間の症例ステータスの調整されたオッズを推定するために、多変量ロジスティック回帰分析が実施。年齢、性別、インフルエンザワクチン接種状況、基礎疾患に基づくリスクグループ、CURB-65スコアによる疾患重症度(混乱、尿素濃度、呼吸数、血圧、年齢65歳以上)が潜在的な交絡因子で、交絡因子は、モデルに変数を 1 つずつ追加することによって評価され、VE 推定値を 10% 以上変更した変数はすべて、最終モデルで選択された。
 ・統計分析には、SPSS バージョン 20.0 ソフトウェア (SPSS for Windows) を使用。

Results:
 ・1721例の市中肺炎の入院症例のうち、最終的に1,525例が登録。167例 (11.0%) が肺炎球菌性と特定されうち6例が侵襲性肺炎球菌感染症(菌血症)、PPSV23-serotypeが52例(3.4%)、PCV13-serotypeが36例(2.4%)だった。非肺炎球菌性CAP患者1358人(89%)は対照群とした。

Table.1 
 ・平均年齢は76.7±6.9歳で59.3%が75歳以上
 ・80.1%は1 つ以上の基礎疾患を有し、約半数 (45.0%) は 2 つ以上の基礎疾患を有した。
 ・最多併存疾患は慢性肺疾患(39.3%)
 ・前年内のインフルエンザワクチン接種率は55.5%
 ・PPSV23(過去5年以内)の接種率:39.1%、
 ・PCV13のワクチン接種率:12.3%
 ・PCV13とPPSV23 の両方接種:9.3%

統計的有意差はなかったがインフルエンザ ワクチン、PCV13およびPPSV23の摂取率は、肺炎球菌 CAP患者と比較して、非肺炎球菌CAP患者の方が高かった。

Table. 2 
 ・65歳以上の全患者における血清型特異的CAPに対する PCV13の調整後のワクチン有効率は0% (95% CI、-10.8% ~ 67.5%) であり顕著な予防効果はしめさなかった。
 ・年齢層別サブグループ解析では、65~74歳の患者における肺炎球菌CAPに対するPCV13の未調整有効性は65.2%(95%CI、1.9%~87.6%)で高かった。年齢、性別、インフルエンザワクチン接種、PPSV23ワクチン接種、併存疾患、および肺炎の重症度を調整した後、PCV13の調整後VEは66.4%(95%CI、0.8%~88.6%)だった。75 歳以上の患者の場合、未調整および調整後の VE は統計的に有意ではなかった。
 ・非菌血症性肺炎球菌性肺炎に限定した場合、PCV13 の調整後 VE は、65 ~ 74 歳と 75 歳以上の患者でそれぞれ5% と 12.5%だった。
 ・PCV13の血清型特異的有効性を評価するために、PCV13血清型 CAP (n = 36症例) を症例群とみなし、非肺炎球菌 CAP (n=1358) を陰性対照群とした。
 ・65 歳以上の全患者における血清型特異的 CAP に対する PCV13 の未調整および調整後の VE は、38.5% (95% CI、-102.5% ~ 81.4%) および 41.1% (95% CI、-103.7% ~ 83.0%) だった。

Table.3 
 ・65歳以上の全患者における肺炎球菌CAPに対するPPSV23の未調整および調整後のワクチン有効率は、0% (95% CI、-20.1~38.4%) および 11.0% (95% CI、-26.4~37.3%) だった。
 ・年齢層別サブグループ分析でも、有意な予防効果は認めなかった。
 ・非菌血症性肺炎球菌性肺炎に限定した場合も有意な予防効果は認めなかった。
 ・PPSV23 血清型CAPに対しても有意な予防効果は示さなかった。

Table. 4 
 ・PCV13/PPSV23を連続してワクチン接種したグループをワクチン接種していないグループ(PCV13またはPPSV23の単回ワクチン接種を含む)と比較
 ・65歳以上の全患者における肺炎球菌CAPに対する連続ワクチン接種の未調整および調整後のVEは40.8%(95% CI、-14.9% ~ 69.5%) および 38.5% (95% CI、-21.0% ~ 68.7%) で年齢層別サブグループ分析でも、有意な予防効果は認めなかった。
 ・65~74歳のサブグループでは、有意な予防効果を示し、未調整VEは79.1%(95%CI、12.7%~95.0%)、調整VEは80.3%(95%CI、15.9~95.4%)は最も高い調整後ワクチン有効性を示した。
 ・非菌血症性肺炎球菌性肺炎に限定した場合、65~74歳の調整後 VE は0%(95%CI, 14.4~95.3%)だった。
 ・65歳以上の全患者における血清型特異的CAPに対するPCV13/PPSV23の未調整および調整後のVEは、4%(95% CI、-74.0%~83.5%)および44.6%(95% CI、-84.0%~83.3%)だった。
 ・バイアスを避けるために単回投与の PCV13 または PPSV23 ワクチン接種が未接種群から除外された場合、PCV13/PPSV23 血清型 CAP に対する PCV13/PPSV23 の連続ワクチン接種の未調整および調整後の有効性は 9% (95% CI、-103.5% ~ 81.6%) でした。

 

Limitation 
 ・肺炎球菌ワクチン接種率が入院肺炎患者の約 50% ~ 60% であると仮定すると、統計的検出力で VE を評価するために、推定サンプル サイズは 3500 より大きくなるため、十分なサンプルサイズでなかった。菌血症性肺炎球菌性肺炎の割合は以前の研究(最大10%)よりも低く、PPSV23 の予防効果は低く評価された可能性がある。
 ・単回投与 PCV13 または PPSV23 の VE に潜在的なバイアスが存在する可能性がある。単回投与 PCV13 の VE をより適切に評価するには、PPSV23 ワクチン接種を受けた患者を症例群と対照群から除外する必要があったがサンプルサイズが小さくなるためしなかった。
 ・症例対照研究には、PCV13 と PPSV23 のワクチン接種を受けた患者間の医療機関を求める行動の違いなど、固有のバイアスが影響しうる。

Conclusion:
 ・65~74歳の若いサブグループでは、PCV13/PPSV23の連続ワクチン接種が80.3%[95%CI:15.9~95.4%)という最も高い調整後ワクチン有効性を示した。次いでPCV13の単回接種が66.4%[95% CI:0.8~88.6%])と効果があるも 、PPSV23が18.5% [95% CI:-38.6~52.0%])で効果が乏しかった。
 ・VEが年齢層 (65~74歳 vs 75歳以上) に応じて著しく異なっていたことは注目に値し、PCV13が高齢者より若年者で高い抗体反応を示したことを考えられた。肺炎および肺炎関連死亡年齢とともに急激に増加することを考慮すると、高齢者のVEが低いことは対処が難しい問題。
 ・PPSV23 は肺炎球菌CAP に対して統計的に有意な VE を示さなかった。VEは、65 歳以上で11.0%と65 ~74歳で18.5%であった。
 ・日本人におけるPPSV23のVEは、65歳以上の肺炎球菌性肺炎に対して27.4%(95% CI、3.2%~45.6%)、PPSV23血清型CAPに対して33.5%(95% CI、5.6%~53.1%)であったと報告されており差がある。

 

文責:若林邦伸

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