血清学的活動性があり臨床的には安定しているSLE患者さんでのPSL減量は再発しやすくなる?【Journal club 2024/4/25】

Risk of flare and damage accrual after tapering glucocorticoids in modified serologically active clinically quiescent patients with systemic lupus erythematosus: a multinational observational cohort study
血清学的活動性があり臨床的には安定しているSLE患者さんでのPSL減量は再発や臓器障害のリスクとなるか?多施設コホート観察研究
Yasuhiro Katsumata, Eisuke Inoue, Masayoshi Harigai, Jiacai Cho, Worawit Louthrenoo, Alberta Hoi, Vera Golder, Chak Sing Lau, Aisha Lateef, Yi-Hsing Chen, Shue-Fen Luo, Yeong-Jian Jan Wu, XLaniyati Hamijoyo, Zhanguo Li, Sargunan Sockalingam, Sandra Navarra, Leonid Zamora, XYanjie Hao, huoli Zhang, Madelynn Chan, Shereen Oon, Kristine Ng, Jun Kikuchi, Tsutomu Takeuchi, Fiona Goldblatt, Sean O’Neill, Nicola Tugnet, Annie Hui Nee Law, Sang-Cheol Bae, Yoshiya Tanaka, Naoaki Ohkubo, Sunil Kumar, Rangi Kandane-Rathnayake, Mandana Nikpou, Eric F Morand For the Asia-Pacific Lupus Collaboration RheumatologyDivision of Rheumatology, Department of Internal Medicine, Tokyo Women’s Medical University School of Medicine, Tokyo, Japan
Ann Rheum Dis 2024;0:1–8. doi:10.1136/ard-2023-225369

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<サマリー>
血清学的活動性(抗dsDNA高値または低補体)があるが臨床的には症状がないSLE患者さんにて、
PSL減量は再燃リスクとは関連せず、SDI発生は低下させた。
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<背景>
・SLE患者において、血清学的に活動的で臨床的には安定している群(SACQ)は、低用量GC中止後の再燃リスクは上昇し、ヒドロキシクロロキンの併用は再燃リスクを低下させる傾向があることがメタ解析で報告
・130人の臨床医を対象とした国際的な調査では、血清学的異常が持続している場合、薬剤の減量や中止には消極的

<研究デザインの型>
・後ろ向き観察研究

<セッティング>
・多国籍SLEレジストリ(Asia Pacific Lupus Collaboration (APLC) patient cohort)
・2013年から2020年にかけて追跡調査
・データ収集は、登録時にベースライン情報として年齢、性別、人種、SLE発症日、受診ごとにSLEDAI- 2K、SELENA-SLEDAI flare index、Physician Global Assessment、薬剤について収集し、年1回のSDI

<Population、およびその定義>
・1997年ACRのSLE分類基準、または2012年SLICC分類基準のいずれかを満たしたSLE患者
・mSACQの定義を1回以上満たし、mSACQ初回受診から2年間の追跡データを有する患者
・0-7.5mg/日のプレドニゾロンまたは同等のGCによる治療を受けていた患者

※mSACQ(modified serologically active clinically quiescent)
mSACQは、血清学的活性(抗DNA抗体陽性もしくは低補体によるSLEDAI2Kスコア2または4)はあるが、臨床的活動性(臨床的SLEDAI2K)がない状態と定義。SACQの当初の定義では、2年間継続と、治療受けていない(GCや免疫抑制剤は含み、抗マラリア薬は含まない)が必要だが、今回の研究では期間は考慮せず、0-7.5mg/日のプレドニゾロンまたは同等のGCによる治療を受けていた患者、抗マラリア薬、生物学的製剤を含む免疫抑制剤の投与も許容

<主な暴露、および、その定義>       
・PSL減少量

<主なアウトカム、および、その定義> 
・プライマリ:再燃
 ※定義:SELENA-SLEDAI flare indexで定義され、重症再燃と、全再燃に分類
・セカンダリ:不可逆的な臓器障害の発生
    ※定義:SDIスコアの増加

<解析方法>
・COX比例ハザードモデルを用いて、GC量の減少(PSL1mg減量あたり)と、その後の初回再燃時期、初回臓器障害発生時期(SDIが1ポイント以上上昇)との関連を評価(発生イベントはカウントせず)
・初回プレドニゾロン投与量、抗マラリア薬使用量、免疫抑制薬使用量、罹病期間、SLEDAI2K、来院時年齢、性別、民族を、Cox比例ハザードモデルの共変量に含めた。
・Cox比例ハザードモデルを用いた解析では、プレドニゾロン換算GCの初回投与量ごとに以下のように分けて解析を行った:  0-5mg(寛解に関連)、0-7.5mg(LLDASに関連)、5-7.5mg(LLDASに関連するが寛解ではない)。
・抗マラリア薬使用の有無による無再発生存期間のKaplan-Meier曲線も分析
・生存解析の観察期間は、各患者が観察期間中にmSACQの定義を満たした最初の来院から開始し、2年間継続するか、2年以内に各イベント(再燃またはSDIスコアの上昇)が初めて発生した時点まで
・探索的分析では、糖尿病、骨粗鬆症、大腿骨頭壊死はSDI項目として独立に分析し、プレドニゾロン量減量と初期プレドニゾロン投与量のみは、各イベントの数が少ないためリスク因子として分析
・腎フレアも探索的アウトカムとして分析
・異なる施設の臨床医による異なる治療戦略の潜在的影響に対処するため、登録施設をランダム効果として用いたCox frailty生存モデルを用いて追加解析を実施。
・欠測データは、available case analysisを用いて処理した。すなわち、各分析は、含まれる変数について利用可能なデータがある被験者のみの解析。
・両側p値<0.05を統計的に有意とした

<結果>
「背景」
・APLC患者コホート4106例のうち、2268例(55.2%)が選択基準を満たし、これらの患者のうち、最初のmSACQ受診から2年間の追跡データを有する1850例(合計8905例の受診が構築)。
・研究コホートにおいて、観察期間中にGC投与量が減少した患者は411人であったが、増加した患者は164人であった。
・平均年齢は40.0歳、1678例(91.6%)が女性、1645例(89.1%)がアジア系民族
・登録時、629例(37.5%)が臓器障害(SDI≧1)を有し、1410例(76.2%)
・GCによる治療を受けており、プレドニゾロンの1日平均投与量は3.7mgであった
・登録時、1361例(73.6%)が抗マラリア薬(ヒドロキシクロロキンまたはクロロキン)
・831例(55.1%)が免疫抑制薬(メトトレキサート、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、ミコフェノール酸、レフルノミド、シクロスポリン、シクロホスファミド、タクロリムス、リツキシマブまたはベリムマブ)

「再燃」
・1850例のmSACQ対象患者のうち、全再燃742例、重症再燃271例
・GCを減量せず、全再燃551例/742例(74.3%)、重症再燃は176例/271例(64.9%)
・Cox比例ハザードモデルでは、GC投与量が1mg/日減少するごとに、全再燃調整HRは1.02(95%CI、0.99-1.05、p=0.27)、重症再燃HRは0.98(95%CI、0.96-1.004、p=0.11)(表2)
・抗マラリア薬の使用は、初期GC用量が0-7.5mg/日および0-5mg/日の群において、全再燃および重症再燃のリスク低下と関連し(図1A,B、表3およびonline supplement table1)。
・免疫抑制剤の使用は、これらの群では重度再燃のリスク低下と関連していたが、全再燃とは関連せず(表3およびonline supplement table1)。
・初回GC投与量およびSLEDAI2K高値は、全再燃および重症再燃のリスク上昇とも関連(表3およびオンライン補足表1)。
・探索的解析によると、GC漸減は、初期GC投与量が0-7.5mg/日の群では腎フレアと関連なし
・登録の中心地をランダム効果として用いたCox frailty生存モデルを実施したところ、GCの漸減は、その後の全再燃または重度再燃のリスク増加とは関連せず
・抗マラリア薬の使用と免疫抑制剤の使用は、両モデルでHRは同程度であったが、再燃リスク低下と関連せず

「臓器障害」
・SDIデータが入手可能であった1677例のmSACQ患者のうち、180例に新たな障害が発生
・GC投与量を1mg/日漸減することは、初期GC投与量が0-7. 5mg(調整HR 0.97(95%CI: 0.96-0.99))、5-7.5mg(調整HR 0.96(95%CI:0.94-0.99))であったが、0-5mg(調整HR 0.98(95%CI:0.95-1.01))
・探索的解析の結果、GC漸減は糖尿病の新規発症リスクの低下と関連
・罹病期間の延長は、障害発生のリスクの増加と関連
・抗マラリア薬の使用は障害発生とは関連せず
・登録施設をランダム効果として用いたCox frailty生存モデルでは、5mg以上のGC投与患者では、GC漸減による障害発生を防御

<Limitation>
・第1に、前向きにデータを収集したにもかかわらず、データを後方視的に分析
・第2に、薬剤の使用パターンは他のコホートで報告されたものとほぼ同様であったが、参加施設の多くは生物学的製剤の使用が制限されていため、その使用率は顕著に低い
・第3に、追跡調査期間が比較的短いため5mg未満の患者では、SDI発生予防の効果は示されなかった。しかし、主要アウトカムの再燃を検討するには2年間の観察期間で十分であると考え、観察期間を延長するよりも患者数を十分に確保することを優先した。
・第4に、服薬アドヒアランスや血中薬物濃度に関するデータはないため、アドヒアランスがアウトカムに影響を与えた可能性
・第5に、本研究はアジア太平洋地域のアジア系住民が大多数を占めるコホートであり、他のコホートでの一般化可能性は不明。しかし、Cox比例ハザードモデルでは、民族性(非アジア系vsアジア系)はどの転帰においてもリスクの増加/減少とは関連していなかった
・第6に、HRはCox比例ハザードモデルを用いてプレドニゾロン投与量が1mg減少するごとに計算された。多くの患者で1mg/日以上の減量が行われた。
・第7に、初期GC用量が0-5mg群、5-7.5mg群でサブグループ解析が行われたにもかかわらず、7.5mg/日、5mg/日、2.5mg/日といった異なるプレドニゾロン用量からの減量の効果は直接分析されなかった
・最後に、本研究で用いたmSACQの定義は、本来のSACQと異なること。

<研究の強み>
・この研究の長所は、mSACQのSLE患者の数が多いことと、Cox比例ハザードモデルを用いてプレドニゾロン投与量1mg減少あたりのHRを算出したこと。
・本研究ではGCの漸減に関する比較群が存在しないが、漸減群と非漸減群を比較するタイプの統計解析では、mSACQ患者におけるGC漸減後のフレアリスクの増加が示される可能性がある。
・しかし、連続共変量と二値共変量は意味が異なるため、プレドニゾロン換算GC1mg減少あたりのリスクを評価する方が、より実用的であり、mSACQSLEの実世界での管理に関連すると考えた。

<メカニズム>
・mSACQの再燃リスクは、GCの漸減によって増加することはなかった。これは、SLEにおけるGC中止による再燃リスクに関するメタアナリシスの結果(GC中止はGC継続と比較して再燃リスクを増加させた)と一致しない
    →①統計手法の違いに起因している可能性:他の研究の多くはGC中止/休薬とGC継続を二値変数で比較していたが、筆者はGC1mg減少するごとに再燃リスクを評価
②メタアナリシスでは203例の再燃患者がいたが対象はSACQ達成に限定していない。この研究では742例のmSACQ患者の再燃を評価

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・血清学的活動性があっても臨床的な症状が安定していればHCQや免疫抑制剤を併用しつつ減量
・SLEDAI-2000の項目以外の臨床個目では反映されておらず

文責:矢嶋宣幸

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