Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors and Nephritis Among Patients With Systemic Lupus Erythematosus
SLEかつ2型糖尿病患者でのSGLT2阻害薬使用は腎炎発症は減る?
Fu-Shun Yen, MD; Shiow-Ing Wang, PhD; Chih-Cheng Hsu, MD; Chii-Min Hwu, MD; James Cheng-Chung Wei, PhD
Dr Yen’s Clinic, Taoyuan, Taiwan.
JAMA Netw Open. 2024 Jun 3;7(6):e2416578. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2024.16578.
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<サマリー>
大規模EHRを利用しPSマッチングを用いた観察研究。SGLT2阻害薬使用にて、SLE合併DMでのループス腎炎、透析導入、腎移植の発症が低下(それぞれHR0.55、HR0.59、HR0.14)。
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<背景>
・ループス腎炎は、患者の40〜60%で発症し、ほとんどのケースはSLE診断後5年以内に発生します
・患者の約5〜30%が10年以内に腎不全に進行
・メトホルミンがループスの再燃を減少させる可能性
・SGLT2阻害剤は腎保護作用、心保護作用
<研究デザインの型>
・後ろ向き観察研究
<セッティング>
・TriNetX:2.5億人以上の電子健康記録を含む世界最大の臨床データ
<Population、およびその定義>
・SLE患者:ICD-10-CMのM32にて定義
・2型糖尿病患者:ICD10-CMでE08-E13(E10以外)にて定義(E10を除く)
・除外・20歳未満、ICD10のE10で定義される1型糖尿病
・インデックス日以前または当日にアウトカム(ループス腎炎、透析、腎移植、心不全、死亡)の発症
<主な暴露、および、その定義>
・SGLT2阻害薬
・研究期間中に少なくとも一度SGLT2阻害薬が処方された人
・インデックス日は最初の処方日と設定
・SGLT2阻害薬非使用者のインデックス日は、SLEおよび2型糖尿病の診断日
<主なアウトカム、および、その定義>
・ループス腎炎(M32.14-M32.15で定義)
・透析(Z49.31、Z49.32、またはZ99.2またはCurrent Procedural Terminology [CPT]コード1012740)
・腎移植(Z94.0またはCPTコード1008098、0TY0、0TY1)
・心不全(I50)
・全原因死亡
<解析方法>
・傾向スコアを生成しマッチング(TriNetXの内蔵機能)
・5年間追跡
・カプランマイヤー、ログランク検定、COx比例ハザードモデル
・共変量因子(インデックス日より1年以内に評価):患者背景、生活習慣、医療サービス利用、糖尿病の重症度、合併症、薬剤、検査結果
・サブグループ解析:HbA1c、血清Cr、eGFR、CKDの有無、合併症の有無の各グループで、SGLT2阻害薬とループス腎炎の発症リスクを評価
・感度解析:①競合リスク解析(死亡を競合リスクとして)、②アクティブコンパレーター解析(SGLT2阻害薬 vs SU剤、SGLT2阻害薬 vs DPP4)、③SGLT2阻害薬の定義の変更(最低2回処方があった人を処方とみなす)
・両側P<0.05を有意
<結果>
・31790名の対象者から、マッチングの結果、SGLT2阻害薬群1775名と非使用者1775名
・平均年齢36.8歳、女性84.8%
・メイン解析
ループス腎炎:AHR 0.55(95% CI 0.40-0.77)
透析:AHR 0.29(95% CI 0.17-0.48)
腎移植:AHR 0.14(95% CI 0.03-0.62)
心不全:AHR 0.65(95% CI 0.53-0.78)
全原因死亡:AHR 0.35(95% CI 0.26-0.47)
※競合リスク解析でも同様の結果
・サブグループ解析
・HbA1cレベルが7%未満の患者:SGLT2阻害薬使用者はループス腎炎、心不全、全原因死亡のリスクが低かった
・HbA1cレベルが7%以上の患者:SGLT2阻害薬使用者はループス腎炎、透析、心不全、全原因死亡のリスクが低かった
・クレアチニンレベルが1.5 mg/dL未満または以上の患者:、SGLT2阻害薬使用者はループス腎炎、透析、心不全、全原因死亡のリスクが低いことが分かりました。
・eGFRが60 mL/min/1.73m2未満の患者:SGLT2阻害薬使用者はループス腎炎、透析、心不全、全原因死亡のリスクが低かった
・CKDの有無:両群にてSGLT2阻害薬使用者はループス腎炎、透析、心不全、全原因死亡のリスクが低かった
・感度解析
・SGLT2阻害薬使用はSU使用者と比較し、ループス腎炎、透析、腎移植、心不全、全原因死亡のリスクが低かった
・SGLT2阻害薬使用はDPP-4阻害剤使用者と比較して、SGLT2阻害薬使用者は透析、腎移植、心不全、全原因死亡のリスクが低かった
・少なくとも2回のSGLT2阻害薬処方を受けた患者は、SGLT2阻害薬非使用者に比べ、ループス腎炎、透析、腎移植、心不全、全原因死亡、のリスクが低かった
<Limitation>
・ある変数にてマッチングの際にバランスが取れなかった
・病院で治療された患者のみであり、クリニックで治療された軽度または無症状のSLEやループス腎炎の患者に関するデータがない。しかしながらは両方群に同様に影響を与える可能性があり解析には影響しないと考えられる
・TriNetXには、性別や人種に関する情報が一部欠測、喫煙データも欠測
・ループス腎炎の発症の定義がICD-10を用いており、生検による確認ではない
・傾向スコアマッチング手法では完全に補正できない潜在的な交絡因子が存在する可能性
<研究の強み>
・発症を抑えることをみたをみた初めて研究
・大規模データを用いたこと
・PSマッチングで可能な限り両群の背景を揃えたこと
・丁寧な感度解析を複数行ったこと
・アウトカムの発生数から考えるとRCTの実施は困難であることが想定され、このデザインでの検討は妥当
<メカニズム>
・糸球体過剰濾過を改善することで糖尿病性腎疾患のリスクを減少
・ループス腎炎の発症も糸球体内圧の増加と関連しているため、SGLT2阻害薬はSLE患者におけるループス腎炎のリスクを減少
・エンパグリフロジンがSLE患者およびモデルマウスにおいて、抗dsDNA抗体、血清クレアチニン、および尿タンパクを低下させる研究がある→糸球体および尿細管障害を軽減し、SGLT2の過剰発現によるポドサイト損傷を軽減させ、炎症を抑制させることからポドサイトのアポトーシスを緩和し、mTORC1活性を低減することでオートファジーを増強
<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・DM合併のSLEにて、治療薬選定の上位にSGLT2阻害薬を使用することが検討される
文責:矢嶋宣幸