妊娠中および小児期の受動喫煙の関節リウマチ発症への影響【Journal club 2024/7/10】

Passive Smoking Throughout the Life Course and the Risk of Incident Rheumatoid Arthritis in Adulthood Among Women

妊娠中および小児期の受動喫煙の関節リウマチ発症への影響

Yoshida K, Wang J, Malspeis S, Marchand N, Lu B, Prisco LC, Martin LW, Ford JA, Costenbader KH, Karlson EW, Sparks JA.
Brigham and Women’s Hospital and Harvard Medical School, Boston, Massachusetts.
Arthritis Rheumatol. 2021 Dec;73(12):2219-2228.

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<サマリー>
27.7年追跡した9万人のNHSⅡのデータを使用したコホート研究。幼少期の親の喫煙(受動喫煙)と、その後の能動喫煙の両方が成人期の血清陽性RA発症リスクを高める。特に、幼少期の受動喫煙は、成人期の能動喫煙の影響をさらに増幅する可能性がある。
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<背景>
・RAの発症には遺伝的因子と環境因子が相互作用し、肺の炎症は免疫調節異常とRA関連自己抗体産生の初期部位として強く関与している。
・特に遺伝的素因を持つ個人において能動的喫煙と受動的喫煙は、RFやACPAなど自己抗体を特徴とする血清反応陽性RAの修正可能な環境因子として注目されている。
・能動的喫煙は最も確立された環境因子であるが受動喫煙について大規模縦断的データーベースに乏しく確立していない。
・なかでも生涯にわたる受動喫煙(子宮内の妊娠中の母親の喫煙、小児の受動喫煙、成人の受動喫煙)と成人期のRA発症との関連について包括的な見解を示した研究はない。
・生涯にわたる受動喫煙とRA発症のリスクを、個人の能動喫煙行動を考慮しながら生涯のいくつかの段階での受動喫煙による影響を調査した。幼少期の受動喫煙曝露が血清反応陽性RAリスクを増大させるという仮説を立てた。

<研究デザインの型>
・前向き観察研究

<セッティング>
・看護師健康調査Ⅱ(NHSⅡ)
・1989年から開始(当時25~42歳の女性看護師116,429人を登録)され、前向きな追跡調査は郵送による質問票を通じて 2年ごとに継続され、追跡率は90%を超えている。

<対象>
 ・NHSⅡの90923人の女性
・1999年(女性の年齢が35~52歳)に喫煙行動質問票項目で収集された情報を使用。

<主な暴露>
・喫煙(受動喫煙、能動喫煙)
・(1)妊娠中の母親の喫煙は胎内曝露、(2)小児期の親の喫煙は小児期曝露、(3)成人の受動喫煙は成人曝露である。
・これらの受動喫煙変数はすべて、女性の年齢が35~52歳であった1999年に、喫煙行動質問票の追加項目として収集
・妊娠中の母親の喫煙は、「はい」、「いいえ」、「不明/わからない」の3つに分類
・小児期の親の喫煙については、小児期の親の喫煙の有無(両親のどちらか一方または両方)
・成人の受動喫煙は、18歳からの喫煙者の同居と定義
・受動喫煙アンケートが実施された1999年には、参加者の年齢は35-52歳であった。
・成人受動喫煙曝露レベルをゼロ、1-19年、20年以上に分類

<主なアウトカム>
・RA発症

<解析方法>
・2017年の質問票までにRAと診断された女性について自己抗体の有無を電子カルテよって確認した。
・受動喫煙曝露の影響を評価するにあたり、幼少期および青年期の個人喫煙、およびパック年での成人の個人喫煙を含む個人喫煙変数を考慮した。下記の共変量をタイムラインに組み込んで評価した。
 1:妊娠中の母親の喫煙(子宮内暴露)
   交絡因子:人種/民族、母親と父親の教育水準、母親と父親の職業、
   住宅所有、出生時の米国州、および RAの家族歴
 2:幼少期の親の喫煙
   交絡因子:早産状態、出生体重、授乳状態、および妊娠中の母親の喫煙
 3:成人の受動喫煙(18歳以降の喫煙者と同居した年数)
   交絡因子:初潮年齢、18 歳時の BMI (ボディマス指数)、小児期の親の喫煙、
   19歳までの個人の能動喫煙、および 1999年までの時間変動共変量 (成人の受動喫煙の確認)
・周辺構造モデルを使用し、幼少期の要因と喫煙を含む成人期の経時的要因をコントロールし、血清学的表現型別に各受動喫煙暴露が成人期のRA発症に及ぼす直接的な影響を推定した。
 ・Base model(基本モデル)
  年齢とアンケートサイクル (暦時間) のみを考慮した Cox 比例ハザード モデルを
・Confounders(交絡因子): 人種と民族、母親と父親の教育、母親と父親の職業、住宅所有、米国の出生州、RAの家族歴、出生体重、早産、授乳、妊娠中の母親の喫煙(幼少期の親の喫煙暴露に対する時間的に先行する交絡因子)に合わせて調整。
・成人の能動喫煙に関わらず受動喫煙の総合的な影響を調べるたいくつかの回帰アプローチを採用した。
・さらに、Cox 比例ハザード モデルを使用して時間的に先行すると見なされた前述の受動喫煙曝露固有の共変量セットを使用して、交絡因子調整モデルを適合させた。
・個人の能動喫煙変数を2つの方法で考慮した。
 ・Adulthood personal smoking and covariates (conventional model)
  成人期の能動喫煙と共変量 (従来の時間変動回帰モデル) 
  成人期の個人喫煙パック年数と成人期の受動喫煙(18歳以降に喫煙者と同居した年数)および時間的に先行する共変量(出生体重、早産、授乳、初潮年齢、18歳時のBMI(ボディマス指数)、閉経状態およびホルモン使用、出産/授乳、BMI、身体活動(代謝当量≥3)、代替健康食指数、居住地、国勢調査所得について調整。
 ・Controlled direct effect model 対照直接効果解析
  逆確率加重制御直接効果モデル(周辺構造モデルの一種)
  成人期の個人能動喫煙パック年数と成人期の受動喫煙(18歳以降に喫煙者と同居した年数)を、時間的に先行する共変量(出生体重、早産、授乳、初潮年齢、18歳時のBMI、閉経状態およびホルモン使用、出産/授乳、BMI、身体活動[≥3代謝当量]、代替健康食指数、居住地、国勢調査所得)を使用した条件付けおよび逆確率重み付けによって制御。

<結果>
ベースラインデータ(Table1)
・90,923人の女性のうち、中央値27.7年の追跡期間中に532件のRA発症し, 352件(66%)が血清反応陽性だった。
・平均年齢は 34.5歳。特徴は、ほとんど同じだったが、ベースラインでの個人の能動喫煙は、幼少期の親の喫煙があったと回答した人の方が高かった。
・妊娠中の母親の喫煙は幼少期の親の喫煙があったと回答した人の38%で、幼少期の親の喫煙がなかったと回答した人はわずか 1.4% だった。

妊娠中の母親の喫煙(子宮内暴露)(Table2)
・時間的に先行する交絡変数を調整後、RAと関連(HR=1.25  [95% CI 1.03-1.52])
・その後の喫煙曝露を考慮すると関連していなかった
・血清陽性RA発症のHRはわずかに高かった (HR 1.34 [95% CI 1.06, 1.70])。
・しかしながら、対照直接効果分析(成人期の能動喫煙を対照)では血清反応陽性ならびに陰性新規 RA と血清陽性RA の点推定値はさらに減少し、血清陰性新規 RA の解析でも同様に、推定値は有意な差は検出できず。

幼少期の親の喫煙(Table3)
・時間的に先行する交絡変数を調整後、血清陽性RAと関連していたHR 1.41 [95% CI 1.08-1.83]。すべてのRAでは関連はなかった(1.18 [95% CI 0.96–1.46])。
・後年の個人の能動喫煙を考慮した従来のアプローチでは血清陽性RA発症のHRは1.30(95% CI 0.99–1.70)となった。対照直接効果分析(成人期の能動喫煙を対照)では幼少期の親の喫煙は血清陽性RAと関連しており潜在的な直接影響が示された(HR 1.75 [95% CI 1.03-2.98])。
・この関連は成人期に能動喫煙をしていた女性でより強い関連がみられた(HR 2.18 [95% CI 1.23-3.88])。

成人期の個人の能動喫煙状況により層別化した解析(Table4)
・生涯非喫煙者(n = 58,707)と、いかなる時点でも喫煙したことがある者(n = 32,216)、これら2つの層で、従来の解析と対照直接効果解析の両方を実施した。
・生涯非喫煙者では、RA発症リスクの上昇は認められなかった。
・対照直接効果解析では、喫煙パック年数も対照とした成人期の能動喫煙者において、幼少期の親の喫煙は血清陽性RA発症リスクの有意な上昇が示された(2.18 [95% CI 1.23–3.88])
・対応する従来の解析の結果は有意ではなかった。

成人期の受動喫煙(Table5)
・18歳から1999年(35~52 歳)までの家庭内喫煙者と同居した年数と定義
・1~19 年の曝露レベルでは、時間的に先行する交絡因子を調整した後、すべてのRAまたは血清陽性 RAとの関連はなし
・20年以上のレベルでは、点推定値は増加したが、有意な差は認めなかった。喫煙者と20年以上一緒に暮らした場合 vs.喫煙者と暮らしていない場合 HR1.30 [95% CI 0.97-1.74])

<メカニズム>
・RAの病因の粘膜パラダイムを補強するもので、肺粘膜の吸入物質が、臨床的なRA 症状が現れる何年も前に、RA関連の自己抗体の産生に寄与する生物学的プロセスを引き起こす可能性を示唆

<Limitation>
・成人期の受動喫煙は RA と関連していなかったが、本研究では、曝露評価時の年齢が若かったため (35~52 歳)、喫煙者と同居していた年数の可能性がある期間が短い
・血清陽性RA患者のうち、RF陽性RA患者とACPA陽性RA患者を区別する分析は未実施である。2000年代以前にRAと診断された患者は、臨床目的でACPA検査を受けていなかった

<研究の強み>
・長期間に渡る前向きコホートを使用した研究

文責:若林邦伸

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