Risk of flare and damage accrual after tapering glucocorticoids in modified serologically active clinically quiescent patients with systemic lupus erythematosus: a multinational observational cohort study.
安定しているPSL7.5mg以下のSLE患者さんのPSL1mg減量は、再燃、臓器障害に影響する?
Katsumata Y, Inoue E, Harigai M, Cho J, Louthrenoo W, Hoi A, Golder V, Lau CS, Lateef A, Chen YH, Luo SF, Wu YJ, Hamijoyo L, Li Z, Sockalingam S, Navarra S, Zamora L, Hao Y, Zhang Z, Chan M, Oon S, Ng K, Kikuchi J, Takeuchi T, Goldblatt F, O’Neill S, Tugnet N, Law AHN, Bae SC, Tanaka Y, Ohkubo N, Kumar S, Kandane-Rathnayake R, Nikpour M, Morand EF; Asia-Pacific Lupus Collaboration.
Ann Rheum Dis. 2024 Jul 15;83(8):998-1005
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<サマリー>
修正SACQ(mSACQ;本来のSACQの定義から罹病期間を除外)GCの1日投与量が少ない(プレドニゾロン換算で7.5mg/日以下)SLE患者において、プレドニゾロン換算のGC投与量が1mg減少するごとにハザード比(HR)を評価したところ、GCの漸減はその後の再燃リスクの増加とは関連していなかった。抗マラリア薬の使用は、mSACQのSLE患者における再燃リスクの低下と関連していた。最初のプレドニゾロン投与量が5mg/日以上であったmSACQ患者において、2年間の観察期間内にGCを1mg/日ずつ漸減すると、障害発生のリスクが4%減少した(調整HR 0.96、95%CI、0.93~0.99)。
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<セッティング>
アジア太平洋ループス共同研究(Asia Pacific Lupus Collaboration:APLC)
<研究デザインの型>
前向きコホート
<Population、およびその定義>
・12カ国の24施設から募集され、2013~2020年の間に追跡
・1997年ACR修正SLE分類基準または2012年SLICC分類基準のいずれかを満たす同意の得られた成人
・観察期間(2013~2020年)に少なくとも1回、mSACQ定義を満たし、最初のmSACQ受診から2年間の追跡データを有する
<mSACQの定義>
・血清学的活性(抗dsDNA抗体陽性および/または低補体血症によるSLEDAI-2Kスコア2または4)はあるが、臨床的活性(臨床的SLEDAI-2K=0)がない状態。
・SACQの本来の定義では、2年間の持続性と、治療を受けていないこと(GCや免疫抑制剤を含むが、抗マラリア薬は含まない)が必要だが、本研究では、持続期間はmSACQの基準として考慮しなかった。
・患者がmSACQの状態であったのと同じ診察日に、0~7.5mg/日のプレドニゾロンまたは同等のGCによる治療を受けていた患者は、本研究に含まれた(GCを服用していない患者も含まれた)。
・抗マラリア薬および/または免疫抑制薬(生物学的製剤を含む)も、DORIS6およびLLDAS7で認められているため、許容した。
・観察期間中に患者がmSACQ基準を満たした最初の来院のみを、本試験のベースライン来院とみなした。
<データ収集>
・データ収集は、標準化された紙または電子フォームを用いて、定期的な患者フォローアップ中に前向きに実施。
・年齢、性別、民族、SLE発症日などのベースライン人口統計学的データは、APLC患者コホートへの登録時に収集
・受診頻度は最低6ヵ月で、大半の患者は臨床的必要性に基づいた頻度で受診
・SLEDAI-2K、SELENA-SLEDAIフレア指数、Physician Global Assessment、すべての薬剤と投与量に関するデータが、各診察時に収集
・臓器障害は、ベースライン時と毎年、SDIを用いて測定。
<主なアウトカム、および、その定義>
・主要アウトカム:再燃(SELENA-SLEDAIのフレア指標定義に従って、重症再燃と、軽度~中等度再燃と重症再燃を含む全ての再燃に分類。重症再燃の構成要素であり、腎炎の新規発症/悪化と定義される腎再燃も、探索的転帰として独自に解析。
・副次的アウトカム:SDIスコアの上昇(GCの使用と関連することが知られている個々のSDI項目に基づく糖尿病、骨粗鬆症、および血管壊死も調査)
<交絡因子、および、その定義>
初回プレドニゾロン投与量、抗マラリア薬使用量、免疫抑制薬使用量、罹病期間、SLEDAI-2K、来院時年齢、性別、民族
<解析方法>
・Cox比例ハザードモデルを用いて、GC投与量の減少(プレドニゾロン1mg減少あたり)と、その後の各来院における初回フレアまでの時間、またはその後の初回障害発生(SDIが1ポイント以上上昇)までの時間との関連を評価。プレドニゾロン換算GCの初回投与量ごとに分けて解析。0≦および≦5(寛解に関連)、0≦および≦7.5(LLDASに関連)、5<および≦7.5(LLDASに関連するが寛解ではない)。
・抗マラリア薬使用の有無による無再発生存期間のKaplan-Meierプロットも分析。
・生存解析の観察期間は、各患者が観察期間中にmSACQの定義を満たした最初の診察から開始し、2年間継続するか、各イベント(再燃またはSDIスコアの上昇)が2年以内に初めて発生した時点で打ち切りとした。患者がSQCQに移行した時点では、観察は打ち切られなかった。
・異なる施設の臨床医による異なる治療の潜在的影響に対処するため、登録施設をランダム効果として用いたCox frailty生存モデルを用いて追加解析。
・欠測データは、available case analysisを用いた。
<結果>
・1850例が選択基準を満たした
・観察期間中にGC投与量が減少した患者は411人であったが、増加した患者は164人
・登録時に、629人(37.5%)の患者がSDI1以上
・1410人(76.2%)の患者がGC治療を受けており、平均PSL量は3.7mg
・登録時に、1361人(73.6%)の患者が抗マラリア薬(ヒドロキシクロロキンまたはクロロキン)を使用し、831人(55.1%)の患者が免疫抑制薬を使用
[再燃]
・1,850例のmSACQを満たした患者のうち、742例で再燃このうち551例がGCを減量せず再燃、271例で重症再燃し、このうち176例がGC減量せず再燃
・Cox比例ハザードモデルによる解析では、初期GC用量に関わらず再燃または重症再燃発生と関連せず
・PSL1mg/日の減少ごとに、再燃および重症再燃のAHRはそれぞれ1.02(95% CI、0.99〜1.05; p=0.27)および0.98(95% CI、0.96〜1.004; p=0.11)
・抗マラリア薬の使用は、初期PSL量が0〜7.5mg/日および0〜5mg/日のグループにおいて、再燃および重症再燃の発生低下と関連
・免疫抑制薬の使用は、重症再燃の発生低下と関連
・初期GC量が多いことやSLEDAI-2Kが高いことも、再燃および重症再燃と関連
・初期PSL量が0〜7.5mg/日は、GC減量は腎再発と関連せず(HR、1.04; 95% CI、0.99〜1.10; p=0.098)
・施設をランダム効果として含む Cox frailty survival modelでは、GC減量は再燃および重症再燃と関連せず。
・抗マラリア薬および免疫抑制薬の使用は、Coxモデルおよび Cox frailty survival modelの両方で、再燃リスクの低下とは関連せず
・抗マラリア薬使用による再燃リスク増加のHRは、標準Coxモデルおよび脆弱性モデルでそれぞれ0.777および0.882
[SDI]
・1677人のmSACQ患者のうち、180人が新たな損傷の発生を経験。
・初期PSL量0〜7.5mg/日のグループ(AHR(95% CI)、0.97(0.96〜0.99))および<5〜7.5mg/日のグループ(AHR(95% CI)、0.96(0.94〜0.99))で、PSL量を1mg/日減らすことがSDI上昇リスクを低下
・初期PSL量0〜5mg/日のグループ(AHR(95% CI)、0.98(0.95〜1.01))では関連が見られず
・GC減量が新たな糖尿病の発生リスクの低下と関連、疾患期間が長いほど損傷蓄積リスクが上昇、抗マラリア薬の使用は損傷蓄積とは関連せず
・施設をランダム効果として含む Cox frailty survival modelでは、5mg/日を超えるPSLで治療された患者においてGCの漸減がSDI上昇に対する保護的な効果効果
<結果の解釈・メカニズム>
・mSACQ-SLEではGCの漸減はその後の再燃リスクの上昇とは関連しない
・抗マラリア薬の使用と免疫抑制剤の使用はmSACQ患者における再燃リスクの低下と関連した
・GCを漸減することで、プレドニゾロン換算で5mg/日を超えるGCを投与されたmSACQ患者がダメージの蓄積が減った。
<Limitation>
・参加施設の多くは生物学的製剤の使用が制限されている医療システムにあり、その使用率は顕著に低かった。
・追跡調査期間が短く、そのためか、mSACQの服用量が5mg/日未満の患者では、損害発生の点で有意な有益性は示されなかった(主要アウトカムであるフレアリスクを検討するには2年間の観察期間で十分であると考え、観察期間を延長するよりも患者数を十分に確保することを優先した。)
・服薬アドヒアランスや血中薬物濃度に関するデータが収集されていないため、臨床的に休止している患者の服薬アドヒアランスが結果に影響を与えた可能性は排除できなかった。
・本研究はアジア太平洋地域のアジア系住民が大多数を占めるコホートを用いて行われたため、他のコホートでの一般性を確認する必要がある。(Cox比例ハザードモデルでは、民族性(非アジア系とアジア系)はどのような転帰においてもリスクの増減と関連していないことが示された。)
・本研究で用いられたmSACQの定義は、SACQ初回受診前の期間を考慮しないものであり、通常「臨床的活動性はないが血清学的活動性が持続している少なくとも2年間の期間」と定義されてきた本来のSACQとは異なっている。
<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・SACQ患者のPSLを1mgでも減量することへのモチベーションになる。
<この論文の好ましい点>
・mSACQ-SLE患者の数が多い
・Cox比例ハザードモデルを用いてプレドニゾロン投与量1mg減少あたりのHRを算出したこと
・施設差を考慮したこと
文責:柳井亮