特発性肺線維症の咳嗽に対するモルヒネの効果は?【Journal Club 2024/8/7】

Morphine for treatment of cough in idiopathic puimonary fibrosis(PACIFY COUGH):a prospective, multicentere, randomized, double-blind, placebo-controlled, two-way crossover trial
特発性肺線維症の咳嗽に対するモルヒネの効果の検証:PACIFY COUGH
Wu Z, Spencer LG, Banya W, Westoby J, Tudor VA, Rivera-Ortega P, Chaudhuri N, Jakupovic I, Patel B, Thillai M, West A,
Wijsenbeek M, Maher TM, Smith JA, Molyneaux PL
Lancet Respir Med. 2024 Apr;12(4):273-280

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<サマリー>
特発性肺線維症(iPF)の患者は経過中で咳嗽症状を呈する方が多い。抗線維化薬など治療薬は病気の進行を遅らせる可能性があるが症状や生活の質は改善に乏しい。iPF患者の生活の質に咳嗽症状は関与するものの確立された治療法はない(サリドマイドはAEで不耐、ピルフェニドンは大規模2相試験で効果を示ず、ゲーファピキサントは無効、ナルフラフィンはAEで不耐)。今回、iPF患者に対する低容量徐放性モルヒネの鎮咳効果を検証した、第2相クロスオーバー試験である。
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P:iPF患者
E:徐放性モルヒネ5mg1日2回内服
C:プラセボ1日2回内服
O:客観的覚醒時咳嗽頻度

<セッティング>
・2020年12月17日〜2023年3月21日
・英国の3つの間質性肺炎専門施設(Royal Brompton Hospital、Aintree University Hospital Manchester University Hospital)

<研究デザインの型>Figure.1、Supple Figure1
・研究名:PACIFY COUGH研究
・第2相、多施設、ランダム化(Webシステムにて1:1に割り振り)、プラセボ対照2重盲検(参加者/介入実施者)、2方向性クロスオーバー試験
・①14日間の内服後、7日間のwash out期間ののち、②14日間の内服を行う
※①でモルヒネ内服の場合②でプラセボ内服、①がプラセボ内服の場合②でモルヒネ内服となる
※モルヒネのT/2は2.9±1.1時間であり、wash out期間は7日に設定された
※②期間終了後の14〜30日後に試験後のAEの観察を行った

<Population、およびその定義>Table.1
・40~90歳、5年以内にATS/ERS/JRS/ALATガイドラインに沿って診断されたiPF、咳嗽の8週間以上の持続(慢性咳嗽の定義)、咳嗽の自覚VAS≧30mm
・背景は、母集団は44人、平均年齢は71歳(31人が男性(70%)、13人が女性(30%))、平均のVC 2.7L %VC 82% DLCO 48% で比較的呼吸機能は保たれた集団であった(動脈血液ガス分析はされていなかったがナルコーシスリスクが低い集団と想定)
・除外基準:免疫異常が背景にある患者(さ症は含む)、%VC<45%、HRCT上肺気腫よりも線維化が優位なこと、現在も喫煙、6ヶ月以内のiPF-AEの既往、冠動脈疾患、重篤な肝機能障害・腎機能障害、予測余命が6ヶ月以内、安静時酸素を有する、薬物・アルコール中毒、以前のモルヒネ不耐歴
・ピルフェニドンおよびニンテタニブ併用は許容も、積極的な免疫抑制療法中は除外基準に入り、プレドゾロン10mg/日以下の患者は許容された

<主な要因とコントロール、その定義> 
・徐放性モルヒネとプラセボ(微結晶性セルロース含むカプセル)・・・見た目で区別できなく加工
・容量に関しては、難治性慢性咳嗽に対するオピオイドの先行研究(PubID 17122382)から、忍容性のある5mg1日2回が選択

<主なアウトカム、および、その定義>
・主要アウトカム:ベースラインと14日時点及び36日時点の1時間あたりの客観的咳嗽数の%変化
※測定方法[胸骨に装着された接触センサーを備えた携帯型デジタル録音デバイス=VitaloJakモニタ]
・副次アウトカム:咳嗽VAS、レスター咳嗽質問票(∝咳嗽評価に特化咳嗽による心理面変化も)、Dyspnea-12(∝呼吸困難評価)、HAD Scale(∝不安気分障害)、Kingの簡易間質性肺疾患質問票(K-BILD∝間質性肺疾患のQOLに関連)、L-IPF(∝iPFのQOLに関連)など指標のベースラインからの変化
・先行研究で臨床的な咳嗽症状の改善として、咳嗽頻度の20~30%以上の減少、レスター咳質問票における1.3以上の改善は良いoutcome指標とされている(PubID 35614875)。

<交絡因子、および、その定義>
・年齢、性別、喫煙状況、人種、基礎疾患(GERDなど)、内服薬(ACE阻害など)

<解析方法>
・サンプルサイズの設定:40人のサンプルサイズにおける先行研究(PubID 20565979)から、標準偏差と両側P値(0.05と設定)、24時間咳嗽頻度の優位な差(自然対数で-0.1322/+0.132=約35%変化率)、検出力0.9を担保し、かつ10%の脱落率を考慮した場合、研究には44人の参加者が望ましいと判断された。
・intention- to-treat解析
・連続変数の場合には、平均値・中央値、カテゴリ変数の場合には頻度 を使用
・咳嗽の頻度のベースラインからの変化は自然対数変換後に計算
・結果は一般化推定方式モデル(GEE)で解析
・治療間の差の推定値:95%CI、P値
・統計学的有意性は両側P値5%で決定
・持ち越し効果に関し、順序の変化による結果の影響があるか分析されたが特に順序変化による結果の変化は認められなかった(Supplementary table2.3.4)

<結果>Figure.2、Table.2、Table3
・無作為化された44人の患者のうち、43人がモルヒネ治療を完遂し、41人がプラセボ治療を完遂させた
・2名の患者が咳の記録の失敗が起こり2名の患者のコンプライアンスが不良であった
・全体の治療遵守率は、モルヒネ群で98%、プラセボ群で98%であった
・主要評価項目である客観的覚醒時咳嗽頻度はモルヒネ群で39.4%(95% CI -54.4〜-19.4、p=0.0005)減少させた(Figure2A)。
・日中平均咳嗽頻度は、
  プラセボ群で21.5(SE 1.2)回/時間 → 20.6(SE 1.2)回/時間 と変化なく(-4.3% p=0.66)
  モルヒネ群で21.6(SE 1.2)回/時間 → 12.8(SE 1.2)回/時間 と減少(-40.8% p<0.0001)
・副次エンドポイントの詳細はTable2に示すが、簡易にまとめると、レスター咳質問票スコアのベースラインからの1.8の改善初め、咳嗽症状に関するアウトカムは改善を見せた、不安抑うつ、息切れなどその他の項目では悪化はないものの大きな改善はない様に見受けられた。
・有害事象として、モルヒネ群で43人中17例(40%)、プラセボ群で42人中6人(14%)であり、モルヒネ群の主な副作用としては嘔気(6人 14%)と便秘(9人 21%)であった。重大な事象としてプラセボ群で1名の死亡があった(Table.3)。

<結果の解釈・メカニズム>
・iPFで慢性咳嗽をきたす詳細な仕組みは不明であるが、咳嗽反射の過敏性が考慮されている(PubID 12917229)。
・モルヒネは中枢神経系のオピオイドμ(1or2)受容体を活性化し咳嗽反射を抑制することで鎮咳作用を示す(PubID 12917774)。
・本研究において、モルヒネはiPF関連の咳嗽症状に関して、比較的忍容性がありながらも、その頻度の減少し、また咳嗽に関連した生活の質を改善する可能性がある。

<Limitation>
・持ち越し効果の懸念:明らかな離脱症状がないこと、投与順序による結果の変化など統計学的に検討されているが、実際のモルヒネの薬力学的クリアランス試験は実施されていない
・離脱症状は本研究で確認されなかったが、オピオイドの副作用監視が必要な介入方法である
・アジア人は本研究では含まれておらず、本邦での適応には、容量選定など、評価が有する(日本では非がん患者で適応が通っているのモルヒネ塩酸塩の使用となる)
・長期酸素療法を必要とし、余命が6ヶ月未満の患者は除外されている
・おそらくCTD-UIPにも応用が効くと考えられるが、本試験には背景として入っていない
・長期投与の安全性と効果に関して、大規模な試験が求められる

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・咳嗽反射における中枢部位抑制に有益な加療であるが、副作用・薬物依存(ケミカルコーピング)に懸念、今後、日本人やCTD-ILD患者集団含む難治慢性咳嗽に対する臨床研究が望まれる

<この論文の好ましい点>
・低容量モルヒネがiPF-難治慢性咳嗽の治療選択となる可能性

文責:清水国香

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