全身性強皮症における消化器症状は免疫抑制療法によって改善?【Journal Club 2024/8/14】

Does therapy with immunosuppressive drugs improve gastrointestinal symptoms in patients with systemic sclerosis?
全身性強皮症における消化器症状は免疫抑制療法によって改善するか
Stamm L, Garaiman A, Becker MO, Bruni C, Dobrota R, Elhai M, Ismail S, Jordan S, Zampatti N, Tatu AM, Distler O, Mihai C.
Department of Rheumatology, University Hospital Zurich, University of Zurich, Zurich, Switzerland
RMD Open. 2024 Jul 24;10(3):e004333. doi: 10.1136/rmdopen-2024-004333.

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<サマリー>
EUSTARデータベースに登録された18歳以上の全身性強皮症患者209人において、GIT total score(消化器症状に関する問診表)を評価し、観察期間経過後のスコアを免疫抑制の有無で主に評価した。観察期間中の免疫抑制の有無はGIT total scoreと負の相関が認められた。
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P:EUSTARデータベースに登録された18歳以上の全身性強皮症患者でGIT質問票に回答した患者209人
E:免疫抑制療法を受けた
C:免疫抑制療法を受けなかった
O:消化器症状(GIT total score(消化器症状の質問票))

<セッティング>
・European Scleroderma Trials and Research Group (EUSTAR) のデータベース
(計174施設、コーカサス人が約90%を占める)
(Multicenter Study Ann Rheum Dis. 2012 Aug;71(8):1355-60.

<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
・前向きに集計されたコホートの事後解析

<Population、およびその定義>Table.1
・EUSTER組み入れ時18歳以上の患者
・2013ACR/EULAR 分類基準を満たすSScの患者
・最低2回の受診をした患者
・消化器症状に関する質問票に1回目、2回目受診時に記載した患者
(GIT: the University of California at Los Angeles/Scleroderma Clinical Trial Consortium Gastro-Intestinal Tract instru- ment 2.0)

<主な要因とコントロール、その定義>
・6ヶ月の観察期間中の免疫抑制療法の暴露
   vs免疫抑制療法を受けていないもの

・免疫抑制療法への暴露の定義
  RTX,TCZ,ABT,TNFαi, MTX, AZA, CYC, MMF, CNI, PSL≧ 10mg/日相応のGC
 「観察期間の間の暴露」
  ⇨観察期間の間に少なくとも6ヶ月間上記投薬を受けた
「観察期間より前の暴露」
  ⇨RTX以外:組み入れ前6ヶ月間の間に3ヶ月以上薬物治療を受けた
  ⇨RTX:12ヶ月の間に薬物治療を受けた

<主なアウトカム、および、その定義>
・GITスコア
 ※GITについて※
  34項目、7つのサブカテゴリに分類
   ①逆流:reflux
   ②拡張・膨満:distention/bloating
   ③下痢:diarrhoea
   ④便失禁:faecal soilage
   ⑤便秘:constipation
   ⑥気分良好:emotional well-being
   ⑦社会的機能:social functioning
  健康関連のQOLの評価に有用
  平均を取ることで0-2.83点と計算される
  SScの消化器症状への治療における指標とされる
  合計点での計算をされた

<交絡因子、および、その定義>

<解析方法>
・p<0.05を統計学的に有意
・数値変数は中央値とIQR(Q1、Q3)、カテゴリー変数は、nおよびパーセント
・primary analysis
  ISへの暴露とGI症状の関連を重回帰分析を用いた予測モデル
  観察期間中のISの介入の有無を2値変数
  GIT total scoreのフォローアップ時の評価を従属変数
  G I症状に影響しうる年齢、性別、ベースのG I T score、ベースのISの内容、レイノー出現からの罹病期間、BMI、mRSS、FVC, ESRを交絡変数
  PPIの観察期間中も従属変数として考慮した。

・secondary analysis
  同じアウトカム(追跡調査時のGITスコア)
  ベースラインの時間変動変数(年齢、罹病期間、BMI、MRSS、FVC、ESR)を追跡調査時のそれぞれの値に置き換えて、有効性試験のデザインを適用
  1:1の比率で最近傍マッチング法に従って患者マッチング
   性別、年齢、罹病期間、BMI、mRSS、FVC、ESRに基づいてマッチング
  GITスコアの改善、横ばい、悪化の評価は既報の”MCID”に準じた

<結果>
・494人のEUSTARのデータベースに登録された患者のうち、209人が組み入れられた。
・71人(34%)が観察期間中に免疫抑制を受けており、54人(25.8%)はすでに事前に免疫抑制療法を受けていた。
・209人のうち82.3%が女性で92.8%はコーカサス人で、年齢中央値は59歳であった。
・40人 (19.1%)はびまん型で、54.6%は組み入れ時にPPIの投薬を受けていた。
・静脈栄養を受けていたものはいなかった。
・ベースラインで118人(56.5%)はGITスコアで1点以上のGI症状を訴えていた。
・観察期間中の免疫抑制を受けていた患者は12人(17%)でmoderate, 5人(7%)でsevere to very severeの症状を訴えていたが、そうではない患者は18人(13%)でmoderate, 7(5%)でsevere to very severeの症状を訴えていた。
・免疫抑制療法を受けた患者では観察期間後のフォローアップ時の症状の程度変化はなかったが、免疫抑制の暴露のなかった患者ではsevere to very severeの患者の割合が増加した。
・MTXはもっとも処方された免疫抑制剤で、TCZ, MMF, RTXが次いだ。
・免疫抑制の有無はGIT total scoreと負の相関が認められた。推定値 −0.115, 95% CI −0.225 to −0.005 (table 4).

<結果の解釈・メカニズム>
・免疫抑制介入が消化管の線維化の進行に対しても抑制しうることが考えられる
(詳細に記載はない)

<Limitation>
・組み入れ時に免疫抑制患者が多く、免疫抑制介入とG I 症状改善の関連の解析ではデータの一部を排除した状態での解析となった。
・コホートサイズから、より厳格な除外基準を設けることや、免疫抑制療法の各薬剤における分析ができなかった。
・抗菌薬やプロバイオティクスなどの介入の因子は考慮に入れていない。
・長期罹患の患者には適応されない議論であろう
・S Sc患者の消化管病態そのものの機序が明確でないために、未測定のバイアスがあるかもしれない。

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・経験的に進行性の予後悪化と評価されてきた強皮症の消化管病変が、仮に他臓器病変への介入が目的でも障害の進行抑制につながることで予後予測の形がまた変革され、患者さんとの病状共有の方針が変わリウる。
・比較的一般的に行われるようになった強皮症への生物学的製剤の差異における消化器病変の進行抑制への差異という観点から研究が組めるかもしれない。

<この論文の好ましい点>
・初のlarge cohortでの免疫抑制が消化器症状軽減との関連を示せた
・免疫抑制薬の選択が現在の実臨床の感覚とおおきく相違がなく、生物学的製剤の強皮症への適応を含めた介入も評価できている点

 

文責:鷲澤恭平

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