昭和大学リウマチ膠原病内科母性外来では、このような文書を用いて関節リウマチの患者さんへ説明をしています。少し詳しく解説をしていきますので、診療の参考になれば幸いです。(注:2024年11月の時点での報告をもとに記載しております。)
・妊娠のタイミングについて
関節リウマチの治療のメインになるメトトレキサートは妊娠前に1月経周期以上の休薬が必要な薬です。1) 他にも、JAK阻害薬やレフルノミド、ミゾリビンは休薬が必要なので、薬剤調整が終わるまでは避妊をしていただくようにお願いしています。NSAIDsの使用またはプレドニゾロン1日7.5mg以上の使用が妊活開始から妊娠成立までの期間を延ばすというデータがあり2)3)、ステロイドやNSAIDsでの対症療法ではなく抗リウマチ薬で低疾患活動性を得ることが大切です。なお、妊娠中に使用可能な薬剤に関しては、『妊娠と授乳(南山堂)』や『Drugs in Pregnancy and Lactation』『Mother to baby』を、授乳中の薬に関しては『Lact Med』や『Hale’s Medications and Mother’s Milk』といった書籍やホームページが参考になります。
薬剤調整が終わるまでは妊活をしてはいけないというわけではありません。妊娠は避けていただきたいですが、妊娠前にしておいたほうが良いことがあります。レントゲンでの関節評価やステロイド使用歴のある方であれば骨密度測定、抗SS-A抗体の保有の有無や潜在性甲状腺機能低下症がないかの確認。一般的なプレコンセプションケアとして禁煙や運動習慣をつくること、適正体重を維持することなどです。
・避妊について
経口避妊薬や子宮内避妊器具は、可逆的な避妊方法の中で比較的効果が高く、安全性にも優れています。コンドームは避妊効果が高くなく、1年での失敗率が12%と程度との報告があります4)。抗リン脂質抗体症候群の合併などエストロゲン製剤による血栓症のリスクを考慮した上で経口避妊薬を検討します。性感染症の予防の観点からはコンドームとの併用が良いでしょう。
・妊娠中について
妊娠判明後、赤ちゃんへ影響を及ぼさない薬剤は継続をします。妊娠中は疾患活動性が低くなることも多いので、その際は減量・休薬を行います。ですが、関節リウマチの疾患活動性が高いと早産、低出生体重児、妊娠高血圧腎症が増えるという報告があり5)、無理に休薬をするのは避けたほうが良いでしょう。ステロイドの使用もやはり早産のリスクを2〜5倍に増やすといわれています6)。
一般的には改善傾向にあるとされる妊娠中のRAですが、妊娠中の疾患再燃が患者の29%に認められます。妊娠第1期における生物学的製剤の中止が再燃の危険因子として同定されており、妊娠判明時に中止するかは慎重に判断すべきです。1,7)
これまで生物学的製剤を妊娠22週まで使用していた方は、産後の児への生ワクチン投与を半年間は避けるように指導していました。しかし、エタネルセプト(エンブレルR)やセルトリズマブぺゴル(シムジアR)は胎盤以降性が非常に低いことがわかっており、2022年のACR recommendationでは胎盤以降性の低い物を使用していた際ではロタの使用は可能と記載されています8)。実際にはロタワクチンが定期接種となって、ロタの流行がほぼなくなっていることもあり、患者さんの意見を聞いて相談の上で決めています。BCGに関しては生後半年を過ぎてから投与が可能なので、半年過ぎてから受けるようにとお伝えしています。
・産後について
産後も基本的には妊娠時の治療を継続することが基本ですが、免疫学的変化が妊娠前に戻ることや、育児による関節負荷がかかることから再燃し、治療強化が必要になる場合もあります。治療強化が必要になった場合は、まずは患者の母乳継続の希望を確認することが重要です。母乳育児の継続を希望した際には、生物学的製剤が選択肢の1つになります。いずれの生物学的製剤も児の消化管で失活し、児へ影響を及ぼすことは限りなく低いと考えられます。母乳育児の継続を希望されない場合や、母乳育児を希望していてもRAのコントロールにMTXが必要な場合は断乳が必要となります。JAK阻害薬についてはデータ不十分のため結論が出ていませんが、低分子であり母乳への移行が推測されるため、現時点では避けるほうが良いと考えられています。
また育児を行う際に薬物療法と並行して関節保護を意識した育児指導も有効です。沐浴や授乳の際に極力関節に負荷がかからないように道具や腕で児の頭を支える工夫などを指導していくこと、他の家族やサポートシステムと共に育児ができる体制を整えておくことが大切です。
参考文献
1) Weber-Schoendorfer C, Chambers C, Wacker E, et al: ArthritisRheumatol.2014;66:1101-1110
2)Brouwer J, Hazes JM, Laven JS, Dolhain RJ.Ann Rheum Dis. 2015;74(10):1836–41.
3)Romanowska-Próchnicka,K.Felis-Giemza, A.Olesi ́nska, M.Wojdasiewicz, P.Paradowska- Gorycka, A. Szukiewicz, D. Int. J. Mol. Sci. 2021, 22, 2922.
4) Sammaritano LR, Bermas BL, Chakravarty EE.et al. Arthritis Care Res (Hoboken). 2020 Apr;72(4):461-488
5) De Man YA, Hazes JMW, Van Der Heide H, et al. Arthritis Rheum. 2009;60:3196–206.
6)Nicole Hunt. et al . Curr Rheumatol Rep. 2019 Mar 6;21(5):16.
7)van den Brandt S, van den Brandt S, Baeten D.et al. Arthritis Res Ther. 2017 Mar 20;19(1):64.
8) 2022 American College of Rheumatology Guideline for Vaccinations in Patients With Rheumatic and Musculoskeletal Diseases. Arthritis Care & Research Vol. 75, No. 3, March 2023, pp 449–464
リウマチ膠原病内科 母性外来 三浦瑶子