関節液中のFLS【Journal Club 2024/10/2】

The SF fibroblast-like synoviocyte: A long-neglected piece in the puzzle of RA pathogenesis.
関節液中のFLS:関節リウマチ発症機序の謎を解く長い間無視されてきたピース
著者名 Mahmoud DE, et al. mmuno-Rheumatology Research Laboratory, Rheumatology Department, La Rabta Hospital, University of Tunis-El Manar, Tunis, Tunisia.
Front Immunol. 2022. PMID: 35990693 Free PMC article. Review

SF-FLSの起源
正確には特定されていないが、RA患者の末梢血中に線維芽細胞の特徴をもつ循環線維細胞が特定されて以降、最も有力な候補は、炎症性関節で産生されたサイトカンに反応し滑膜に誘導された間葉系循環前駆細胞=C34+循環線維細胞(末梢血白血球の約0.5%、Ⅰ型コラーゲンやフィブロネクチンなどの結合組織マトリックス成分を産生、損傷や組織侵入に対する自然免疫において最も早く反応する細胞の1つ)から発生する仮説である。
 Fibroblast-like synovial cells derived from SF. J Rheumatol (2005) 32(2):301–6.
 Fibrocyte activation in RA. Rheumatology (2010) 49(4):640–51.
RA患者の血液と関節液の両方で線維細胞が高率に検出され、SF線維細胞はCD34の発現が低いことが報告されており最終的な細胞分化形態であることを反映している。
  Fibrocyte and T cell interactions promote disease pathogenesis in RA. J Autoimmun (2016) 69:38–50.

 SF-FLSの培養
通常はRAの再燃時に膝、手関節、肘関節から採取され、60~80%でSF-FLSを培養することができる。
SFを遠心分離すると細胞ペレットが得られ、一部の細胞は組織培養皿に接着する。非接着細胞は除去され、2つの主要な細胞集団であるSF-FLSとSF- MΦの混合物が残る。
SF- MΦは、in vitroでの寿命が限られた終末分化細胞であり、培養では数週間以上生存することはめったにない。SF-FLSはPassage1~4で急速に増殖し、通常10~20日以内にconfluenceになるが、後の継代では成長が遅くなる。培養は1年以上維持され、継代9または10に達することもある。 滑膜由来FLSに比較して培養期間は長くなる傾向がある。
  Functional characterization of adherent SF cells in RA. Arthritis Rheum (2003) 48(7):1873–80.
  Fibroblast-like synovial cells derived from SF. J Rheumatol (2005) 32(2):301–6.
   Immunol Invest (2017) 46(3):314–28.
   Phenotypic and functional characterization of SF-derived FLS in RA. Sci Rep (2021) 11(1):1–11.

培養されたSF-FLSの形態
RA患者由来のSF-FLSは、培養中に細胞形態のさまざまな変化を示す。光学顕微鏡下では培養の最初の数日間はSF-FLSは不規則な星状細胞の形状で細長く見える。初代培養では、SF-FLS はマクロファージ形態の細胞の近くで頻繁に観察される。ほとんどの培養では、紡錘形の細胞が密な細胞クラスターから発生するように見えるが、孤立した細胞も観察される。滑膜由来FLSと同様に接着非依存性増殖もできる。
SF-FLSは培養すると組織のような構造を形成する能力をもち、その境界は縦方向に並んだ複数のSF-FLS層で構成され、RA由来のSF-FLSの特徴とされる
  Fibroblast-like synovial cells derived from SF. J Rheumatol (2005) 32(2):301–6.

 SF-FLSと他の線維芽細胞/間葉系幹細胞
滑膜には間葉系幹細胞 (MSC) も存在する。SF-FLS と MSC はどちらも滑膜の一部だが、その関係は不明です。SF-FLSとその他の線維細胞/MSC/PR\ME細胞の表面マーカーの関係について表1に記す。

SF-FLSliningsub-lining FLS
StephensonらはscRNA seqを使用して、RA滑膜に2つの異なるFLSサブセットがあることを報告。
・滑膜表層に局在し、補体崩壊促進因子または CD55分子を発現 (CD55+ lining FLS)
・滑膜下層に存在し、THY1または CD90マーカーを発現 (THY1+ sub-lining FLS)
Single-cell RNA-seq of RA synovial tissue using low-cost microfluidic instrumentation. Nat Commun (2018) 1:791.
Zhangらはsub-lining FLSの不均一性につい追加のサブセットマーカーを使用して3つのTHY1+グループを定義した報告。① CD34 ②ヒト白血球抗原 (HLA)-DRA-high ③Dickkopf 3 (DKK3)
Defining inflammatory cell states in RA joint synovial tissues by integrating single-cell transcriptomics and mass cytometry. Nat Immunol (2019) 20(7):928–42.
RA患者のSF-FLS を表現型的に特徴付けるために、Kosterらはポドプラニン (PDPN)、THY1、およびCD34を使用し、数回の継代培養後、SF-FLS培養は主にPDPN+ CD34−THY1+細胞から構成されること、免疫細胞またはINFγとの共培養後、SF-FLSはHLA-DR を発現することを報告。SF-FLSが、滑膜のsub-lining FLSの病原性サブセットと表現型特性を共有していることを示している。
Phenotypic and functional characterization of SF-derived FLS in RA. Sci Rep (2021) 11(1):1–11.

 SF-FLSSF-間葉系幹細胞(MSC)?
MSCは当初、骨髄から分離され、プラスチック培養皿に付着し、成熟間葉系細胞、特に骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞に分化する。MSCは表面マーカーCD73、THY1、CD105を発現(CD45、CD34、CD14、CD11b、CD79α、CD19、HLA-DR 表面分子は陰性)。SF-FLSはICAM1などのいくつかの接着分子や、コラーゲンやビメンチンなどの線維芽細胞マーカーを発現するが、SF-MSCはこれらのマーカーの大部分を発現することが報告されている。
SF and synovial membrane mesenchymal stem cells. Stem Cell Res Ther (2014) 5:112. 
RA患者の関節液からMSUが分離でき、SF-FLS培養に使用されたのと同じプロトコールでin vitroで得られる。SF培養後、SF-MSCはプラスチック接着単核細胞分画とともに培養され、線維芽細胞様細胞として培養することができる。
Yields of mesenchymal stromal cells from SF reflect those from synovium in patients with RA. Tissue Cell (2022) 75:101727.
Interaction of mesenchymal stem cells with FLS via cadherin-11 promotes angiogenesis by enhanced secretion of placental growth factor. J Immunol (2014) 7:3003–10.
RAにおけるMSUの正確な役割は不明だが、実験的関節炎では、関節炎の前にMSCの浸潤が起こり、これが滑膜過形成の一因となる可能性が示唆されている。
Inflammation is preceded by tumor necrosis factor-dependent infiltration of mesenchymal cells in experimental arthritis. Arthritis Rheum (2002) 2:507–13.

 SF-FLS≒炎症前間葉系細胞(PRIME細胞:CD45-CD31-PDPN+)?
Orangeらは、RA患者の血液中に、再燃数週間前に循環線維芽細胞様細胞が存在することを報告。これらの細胞は、PRe-inflammatory MEsenchymal (PRIME) 細胞と命名された。PRIME細胞は、カドヘリン11 (CDH11) やHLA-DRなど、SF-FLSといくつかのマーカーを共有している。さらに、これらの細胞は、特定のsub-lining FLSサブセットの細胞特性を示している。
Rna identification of prime cells predicting RA flares. N Engl J Med (2020) 383(3):218–28.

 SF-FLS =循環線維細胞?
Galliganらは、RA発症において循環線維細胞が炎症プロセス中に関節内に移動することを示し、循環線維細胞がFLSの前駆細胞である可能性があるという仮説を立てた。
The role of circulating fibrocytes in inflammation and autoimmunity. J Leukoc Biol (2013) 93(1):45–50. 
Elhaj Mahmoudらは、RA患者のSF-FLSと線維細胞が、同程度のIL1RIを発現していることが示し、IL8受容体 (CXCR1とCXCR2:ligandはCXCL9, 10, 11) の発現は線維細胞に限定されてるいるが、CXCR3の発現は両方の細胞タイプ認めることを報告。
Expression of extracellular matrix components and cytokine receptors in human fibrocytes during RA. Connect Tissue Res (2021) 62(6):1–12.
RA患者のSF-FLSと線維細胞は、Wingless(Wnt)受容体であるFrizzled(Fzd)4、Fzd5、Ror2、Ryk、および低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質5(LRP5)を発現し,これらの受容体は、FLSを介した炎症反応と細胞移動において重要な役割を果たしている。
Sfrp5 enhances Wnt5a induced-inflammation in RA FLS. Front Immunol (2021) 12:2356.

 SF-FLSと炎症
RA SF-FLSは、外因性刺激なしにCCL2とIL6を主体とする複数の炎症性サイトカインを放出する。
Phenotypic and functional characterization of SF-derived FLS in RA. Sci Rep (2021) 11(1):1–11.
RA SF-FLSは、IL6、IL8、IL1β、CCL2を分泌する。
Fibroblast-like synovial cells derived from SF. J Rheumatol (2005) 32(2):301–6.
Sfrp5 enhances Wnt5a induced-inflammation in RA-FLS. Front Immunol (2021) 12:2356. 
in situ ハイブリダイゼーションおよび免疫組織化学研究によって内膜ライニングからのRA-FLSはIL6の主な発生源であると考えられている。最近のデータでは、SF-FLSはRA患者の組織FLSおよび線維細胞よりも高いレベルのIL6を発現することが示されている。
Sfrp5 enhances Wnt5a induced-inflammation in RA-FLS. Front Immunol (2021) 12:2356. 
RA SF-FLSによる炎症はWnt経路を含む多数のシグナル伝達系の活性化を反映し、Wnt5aは特にRA SF-FLSで過剰発現している。このWntリガンドは多数の炎症性サイトカインの産生を誘導し滑膜炎に関与する。
Non-canonical Wnt5a signaling through ryk contributes to aggressive phenotype of the rheumatoid FLS. Front Immunol (2020) 11:555245 .

SF-FLSと軟骨への浸潤/破壊に関与する
RA SF-FLS の最初に記述され、最も特徴的な特徴の1つは、軟骨に侵入して破壊する能力であり、過形成滑膜組織とは独立して軟骨の分解を媒介することが実証されている。これは接着促進因子とMMP などのプロテアーゼの生成の組み合わせに起因している。
Functional characterization of adherent SF cells in RA: Destructive potential in vitro and in vivo. Arthritis Rheum (2003) 48(7):1873–80.
Phenotypic and functional characterization of SF-derived FLS in RA. Sci Rep (2021) 11(1):1–11. 

MMPはコラーゲン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸など、細胞外マトリックス (ECM) の複数の成分を分解して再構築するプロテアーゼファミリーであり、その酵素活性は、増殖、接着、移動などの重要な細胞機能を制御する。MMP3は軟骨の破壊において極めて重要な役割を果たし、SF-FLSが高レベルのMMP3を産生する。
Phenotypic and functional characterization of SF-derived FLS in RA. Sci Rep (2021) 11(1):1–11. 
Expression of extracellular matrix components and cytokine receptors in human fibrocytes during RA. Connect Tissue Res (2021) 62(6):1–12.
MMP3のベースラインレベルが進行性軟骨損傷のバイオマーカーとして機能する。MMP3自体は、軟骨の ECMタンパク質の分解につながる他のMMPの活性化に関与している可能性がある。
Matrix metalloproteinases and cartilage matrix degradation in RA. Clin calcium (2007) 17(4):500–8.
RA SF-FLSはMMP1とMMP9 を分泌しますが、これらも軟骨破壊に関与している。
Functional characterization of adherent SF cells in RA: Destructive potential in vitro and in vivo. Arthritis Rheum (2003) 48(7):1873–80
Phenotypic characterization and invasive properties of SF-derived adherent cells in RA. Inflammation (2008) 31(6):365–71. 

Expression of extracellular matrix components and cytokine receptors in human fibrocytes during RA. Connect Tissue Res (2021) 62(6):1–12.
RA患者の培養SF-FLSでICAM1が高度に発現していることが示されている。
Phenotypic and functional characterization of SF-derived FLS in RA. Sci Rep (2021) 11(1):1–11.
RA SF-FLS によって発現されるCDH11は軟骨破壊に関連している。
FLS: Key effector cells in RA. Immunol Rev (2010) 233(1):233–55.

RA SF-FLSは潜在的な遊走細胞である
関節炎の再発前に患者の血液中に検出可能なPRIME細胞が発見された。
Fibroblast pathology in inflammatory joint disease. Immunol Rev (2021) 302(1):163–83. 
Fibrocytes and fibroblasts-where are we now. Int J Biochem Cell Biol (2019) 116:105595.

SF-FLSが1つの関節から別の関節に移動して「転移」し、病気を広めるという仮説があるが、この考えは未だ証明されていない。
Functional characterization of adherent SF cells in RA: Destructive potential in vitro and in vivo. Arthritis Rheum (2003) 48(7):1873–80
Phenotypic and functional characterization of SF-derived FLS in RA. Sci Rep (2021) 11(1):1–11. 
SF-FLSとsub-lining FLSのサブセットは、PRIME細胞と特性を共有しており、PRIME細胞は、滑膜下層の表現型を持つ。
Phenotypic and functional characterization of SF-derived FLS in RA. Sci Rep (2021) 11(1):1–11.
Rna identification of prime cells predicting RA flares. N Engl J Med (2020) 383(3):218–28.

著者らは末梢血B細胞が循環中PRIME細胞の活性化と、これらの細胞の滑膜への移動につながると提唱。
Rna identification of prime cells predicting RA flares. N Engl J Med (2020) 383(3):218–28.
SF-FLS、sub-lining FLSおよびPRIME細胞は同じ細胞タイプであると推測したくなり、SF-FLSは滑膜下層から派生し、SFに落ち込むと推測される。これらの細胞は循環中を移動し、再燃前に血液中で増加し、症状発現直後に減少する可能性がある。

RAにおけるSF-FLSを標的とした治療
FLSを標的とする治療法は、宿主防御に対する副作用が問題となる免疫抑制剤と組み合わせて使用​​できる可能性があるため、大きな利点がある。
選択的抗FLS療法の潜在的な標的として浮上しているのはCDH11だけであるが、CDH11に対するモノクローナル抗体 (RG6125) の第 II 相試験は、有効性の欠如により 2019 年に中止されている。
Expression of extracellular matrix components and cytokine receptors in human fibrocytes during RA. Connect Tissue Res (2021) 62(6):1–12.
op0224 results of a phase 2 study of rg6125, an anti-cadherin-11 monoclonal antibody, in RA patients with an inadequate response to anti-tnfalpha therapy. BMJ (2019) 78(2):189. 
TNFファミリーのメンバーであるTNF関連アポトーシス誘導リガンド (TRAIL) またはそのデスレセプターTRAIL-R1 (DR4) および TRAIL-R2 (DR5) を標的となりうる。Miranda‐Carúsらによる研究では、RA患者の SF-FLSがDR5を発現し、アゴニスト抗DR5抗体にさらされるとアポトーシスを起こす。
RA SF fibroblasts express trail-R2 (Dr5) that is functionally active. Arthritis Rheum (2004) 50(9):2786–93. 
Notchファミリーの膜貫通受容体であるNotch3が、THY1+ FLS によって発現しており、新しいFLS標的治療となる可能性がある。Weiらは、Notch3中和モノクローナル抗体の注射により、マウスモデルにおける関節炎の重症度が軽減されることを示しているが、SF-FLSにおけるNotch3発現を報告した研究はまだない。
Notch signaling drives synovial fibroblast identity and arthritis pathology. Nature (2020) 582:259–64

文責:若林邦伸

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