
A natural experiment on the effect of herpes zoster vaccination on dementia
帯状疱疹ワクチンが認知症に与える影響の自然実験
Markus Eyting , Pascal Geldsetzer, Felix Michalik, Simon Heß, Seunghun Chung, Pascal Geldsetzer
Division of Primary Care and Population Health, Department of Medicine, Stanford University, Stanford, CA, USA.
Nature. 2025 Apr 2
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<サマリー>
回帰不連続分析により、弱毒化生帯状疱疹ワクチン(Zostavax)接種が7年間の追跡期間中の新規認知症発症リスクを相対的に20.0%低下。この効果は女性でより顕著であり、男女差はVZV非依存性免疫調節効果の存在を示唆。ワクチンによる認知症予防メカニズムとしてVZV再活性化抑制と病原体非依存性免疫調節の両方が考えられる。本研究は神経親和性ウイルスの制御が認知症予防に寄与する可能性を示した。
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P:高齢者
E:弱毒化生帯状疱疹ワクチン(Zostavax)接種あり
C:弱毒化生帯状疱疹ワクチン(Zostavax)接種なし
O:7年間の追跡期間中の新規認知症の発症率
<背景>
・神経親和性の高いヘルペスウイルスは認知症の発症に関与する報告が増えている。さらに、ワクチンは本来の標的とは異なる免疫学的効果(オフターゲット効果)を有することが認識されるようになってきた。
・これまの特定のワクチン接種を受けた人と受けなかった人の認知症の発症率を比較するコホート研究や電子健康記録データを用いた研究では、ワクチン接種を受けた人と受けていない人の間で異なる(そして認知症にも関連する)すべての特性は、分析において測定・モデル化し、ワクチン接種と認知症の関係を阻害する要因がないことを前提としている。
・交絡バイアスがないというこの仮定は、研究が個人のモチベーションや健康リテラシー(ワクチン接種を自ら選ぶ人は、より多く医療を受け、健康意識も高い傾向にあり、認知症の発症リスクの低下につながる要素)といった測定困難な要因に関する詳細なデータを有していると仮定しなければならない限界があった。本研究では、英国ウェールズでの帯状疱疹ワクチンの接種資格の生年月日よる規制を利用し、前後を比較することで帯状疱疹ワクチン(弱毒生)が認知症の発生に及ぼす影響を検証した。
<研究デザイン>
・回帰不連続分析
・生年月日に基づく接種対象基準を利用
・2013年9月1日から2021年8月31日まで個人を追跡調査し、最大8年間の追跡調査期間
・主な仕様では、生年月日の適格性カットオフの両側の個人の追跡期間を一定に保ちながら、最大12か月の猶予期間とし、7年間の追跡調査期間
<Population、およびその定義>
・1925年9月1日から1942年9月1日までの間に生まれ、電子健康記録データに登録されている成人全員で帯状疱疹ワクチン接種プログラム開始時(2013年9月1日)に認知症の診断を受けていなかった者(282,541名)
・帯状疱疹ワクチンプログラム開始後に80歳になった接種対象者(1933年9月2日から1934年9月1日に生まれ)の高齢者(16,595名)
・個人の出生週の月曜日の日付しか入手できなかったため、1933年8月28日から始まるカットオフ週に生まれた人が、ワクチンプログラム開始初年度に帯状疱疹ワクチンの接種資格があったかどうかを判断できなかっため、この特定の週に生まれた279人を除外
・残りの個人のうち、13,783人は2013年9月1日より前に認知症の診断を受けていたため、認知症の新規診断を結果として分析から除外
<主な暴露およびコントロール、および、その定義>
・帯状疱疹ワクチン接種の有無
<アウトカム、および、その定義>
・あらゆる種類または原因の認知症
・電子カルテデータに認知症の新規診断が記載されている場合、または死亡診断書に認知症が主死因または寄与死因として記載されている場合、当該個人は認知症を発症したとみなした。
<結果>
・接種資格よりわずか1週間だけ早く生まれた患者におけるワクチン接種割合が0.01%であったのに対し、1週間だけ遅く生まれた患者における割合は47.2%に増加
・帯状疱疹ワクチン接種率のこの急激な変化を除けば、他の予防医療サービス、過去の一般的な疾患の診断、および教育水準は、1933年9月2日を接種資格の期限とする基準値全体で均衡
・7年間の追跡期間中、サンプルに含まれる成人296,324人(認知症含む)のうち、14,465人が少なくとも1回帯状疱疹が診断
・同じ追跡期間にわたって、ワクチン接種資格があると、帯状疱疹と診断される確率が 1.0 (95% CI = 0.2–1.7; P = 0.010) %ポイント減少、相対的に 18.8% (95% CI = 8.8–28.9) の減少
・帯状疱疹ワクチンを実際に接種した場合の効果を計算すると、7年間の追跡期間中に少なくとも 1回の帯状疱疹と診断される確率が 2.3 (95% CI = 0.5–3.9; P = 0.011) %ポイント減少、相対的に 37.2% (95% CI = 19.7–54.7) 減少し、生弱毒化帯状疱疹ワクチン (Zostavax)の臨床試験で観察された効果と同程度。この保護効果は男性よりも女性の方が強い。
・7年間の追跡期間中、サンプルに含まれる成人282,541人のうち35,307人が新たに認知症と診断
・回帰不連続法を用いて、帯状疱疹ワクチン接種の適格性の効果は、7年間で新規認知症診断の確率が絶対値で1.3(95%CI = 0.2〜2.7、P = 0.022)%ポイント、相対値で8.5%(95%CI = 1.9〜15.1)減少
・適格者全員がワクチン接種を受けたわけではないという事実を考慮して尺度化すると、帯状疱疹ワクチンを実際に接種することで、新規認知症診断の確率が3.5(95%CI = 0.6〜7.1、P = 0.019)%ポイント減少し、相対値で20.0%(95%CI = 6.5〜33.4)減少
・アルツハイマー病の進行を遅らせるために処方されることの多い薬剤(塩酸ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、または塩酸メマンチン)の新規処方のみを診断と定義した場合、帯状疱疹ワクチンが認知症診断の減少に有意な効果
・同様に、認知症リスクスコア(2013年9月1日より前に記録)へのすべての入力変数を調整した場合でも、効果は同様
・教育レベルや糖尿病、心臓病、がんなどの慢性疾患など、認知症リスクに影響を与え得る因子を考慮した解析でも結果は変わらず
VZV非依存性免疫調節効果
・このメカニズムを検証するために、文献におけるワクチン接種による病原体非依存性免疫調節効果に関する2つの観察結果を活用する。これらの効果は(1)性別によって大きく異なり、弱毒生ワクチン接種による有益な効果は女性にのみ認められ、男性には認められないことが多い。これらの観察と一致して、帯状疱疹ワクチン接種による認知症の新規診断への影響は、男性よりも女性の方が顕著に大きかったことがわかった。帯状疱疹ワクチンが帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛の診断に与える影響については、女性と男性の間に有意差なし
自己免疫疾患またはアレルギー疾患の有無による差異
・自己免疫疾患またはアレルギー疾患のない患者では、帯状疱疹ワクチンの認知症に対する有効性が、これらの疾患のある患者よりも高いことを示唆された。観察されたパターンは、帯状疱疹ワクチン接種プログラム開始前の1年間に患者が免疫抑制薬を服用していたかどうかによって、ほとんど影響を受けない。
・VZVの臨床的および非臨床的再活性化の減少を介した作用機序と、VZV非依存性の免疫調節効果の両方が妥当であることを示唆しています。
<メカニズム>
ワクチンが免疫反応を引き起こし認知症発症予防のメカニズム
・Nature Medicine 2024での報告では生ワクチンより組換え不活化ワクチンにて認知症と診断されずに生存する期間が17%長かったことより、帯状疱疹ワクチン自体が認知症のリスクを減らすことを示唆
・VZVの再活性化は、血管症、アミロイド沈着およびタウタンパク質の凝集、神経炎症、ならびにアルツハイマー病に見られる小血管から大血管までの脳血管疾患、虚血、梗塞、出血を通じて、長期的な認知障害に関連
・VZVの潜在性および臨床的再活性化を抑制することで、神経炎症経路を介して脳内での単純ヘルペスウイルス1型の再活性化も抑制される可能性があり、これは、VZVを認知症の病因における単純ヘルペスウイルス1型の関連している可能性
・VZVの臨床的および潜在性再活性化を抑制するメカニズムと、病原体非依存性免疫メカニズムの両方存在るする可能性
<Limitation>
・認知症が診断されるかどうか、また診断される時期がどの程度早かったかという点において、検出不足が影響している可能性
・回帰不連続分析で最も重み付けされた年齢層(主に79歳から80歳)以外の年齢層では、帯状疱疹ワクチンが認知症の発生を減らすのに有効であるかは不明
・COVID-19パンデミックが、認知症の診断時期に影響を与えた可能性
・追跡期間は最大8年までであり、この期間以上での有効は不明
・英国では、より新しい組換えサブユニット帯状疱疹ワクチン(Shingrix)が生弱毒化帯状疱疹ワクチン(Zostavax)に取って代わったのは、追跡期間終了後の2023年9月25であったため、本研究の効果推定は弱毒化生帯状疱疹ワクチンのみに適用