
昭和医科大学リウマチ膠原病内科母性外来では、このような文書を用いてSLEの患者さんへ説明をしています。以下にもう少し詳しく解説をしております。診療の参考になれば幸いです。(注. 2025年4月時点での報告をもとに記載しております)
・妊娠のタイミングについて
妊娠容認の条件として一定の基準はないため、症例毎に十分なリスクアセスメントを行うことが大切です。当院における妊娠の時期の目安とする項目は、患者さん向けの説明文書をご参照ください。
妊娠前の高疾患活動性は、妊娠中のSLE再燃リスクを高め、妊娠中のSLE再燃は、早産や妊娠高血圧腎症などの産科合併症の原因となることが報告されています。1)そのため、妊娠前に疾患活動性が落ち着いていることが非常に重要であり、計画的に妊娠することが望ましいと考えられます。
催奇形性のある薬剤は、妊娠計画の時点で中止し、他剤に切り替えておくことが必要です。特に、SLEまたはループス腎炎のキードラックである、ミコフェノール酸モフェチルは投与中止後6週間の避妊を指導する必要があります。2)
また、併存するリスクによっては新規に予防薬を投じる必要があり、良好な妊娠転帰を迎えることを目的として、妊娠前に病勢評価や臓器合併症・リスク評価を行うことが重要です。SLEの病勢評価を行う他に、抗リン脂質抗体や抗SS-A抗体、甲状腺機能の精査、腎機能や血糖値、血圧等の評価が推奨されます。
・妊娠中について
報告によって差はありますが、SLEは妊娠期間中どのタイミングでも増悪する可能性があります。3) SLE合併妊娠では、早産、妊娠高血圧腎症のリスクがあり、SLEの活動性が高い状態での妊娠や、ループス腎炎の既往または活動性のある腎炎が併存すると更にリスクは高くなります。4)また、児に関しては、流死産、胎児発育不全等のリスクがあります。5)そのため、妊娠前にSLEの疾患活動性が安定していることが大切になります。
妊娠中の治療薬としては、ステロイドの他に、ヒドロキシクロロキン、アザチオプリン、シクロスポリン、タクロリムス等があり、内服を継続する必要があります。
妊娠中にSLEの増悪に対して治療強化を要する場合は、ステロイドの増量やステロイドパルス療法、大量免疫グロブリン療法等を行う場合があります。
・産後について
SLEは産褥期にしばしば再燃を認めるため、慎重に経過観察を行います。妊娠中使用可能な薬剤は、基本的に授乳中も使用できると考えられ、内服の継続をします。
妊娠・授乳期には骨密度低を認めることから骨密度の管理、予防治療も重要となります。
1)Ann Intern Med 2015; 163: 153-63.
2)Ann Rheum Dis 2016;75(5): 795-810.
3)Lupus 2005;14(2): 145-151.
4)Ann Rheum Dis 2017;76(3): 476-485.
5)Expert Rev Clin Immunol 2012;8(5): 439-453
母性外来 羽多野美香