アニフロルマブ+標準治療によりSLE患者の臓器障害蓄積の抑制は可能?:リアルワールド対照との比較【Journal Club 2025/08/20】

Reduced organ damage accumulation in adult patients with SLE on anifrolumab plus standard of care compared to real-world external controls
アニフロルマブ+標準治療によるSLE患者の臓器障害蓄積の抑制:リアルワールド対照との比較
著者:Touma Z, Bruce IN, Furie R, Morand E, Tummala R, Chandran S, Abreu G, Knagenhjelm J, Arnold K, Lee H, Ralphs E, Bedenkov A, Kielar D, Waratani M.
所属:Schroeder Arthritis Institute, Krembil Research Institute, University Health Network, Toronto, ON, Canada; University of Toronto Lupus Clinic, Centre for Prognosis Studies in Rheumatic Diseases, Toronto Western Hospital, Toronto, ON, Canada
Ann Rheum Dis 2025;84:767–776

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<サマリー>
・アニフロルマブ300mg+SOC(標準治療)は、リアルワールドSOCに比べて208週時点での臓器障害蓄積(SDIスコア増加)を有意に抑制
・SDIスコアの増加は0.416ポイント少なく(95%CI: −0.582, −0.249, p<0.001)
・臓器障害進行のハザード比は0.401(95%CI: 0.213–0.753, p=0.005) 

P:中等度〜重度の活動性SLE成人患者(TULIP-1, 2試験参加者およびUTLC外来患者)
E:アニフロルマブ300mg+SOC(標準治療)
C:リアルワールドでSOCのみ(University of Toronto Lupus Clinicコホート)
O:208週時点でのSDIスコアの変化、臓器障害進行までの時間

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<わかっていること>
・SLE患者では病勢制御不良とステロイド長期使用により臓器障害が進行する
・アニフロルマブは疾患活動性とステロイド使用量を低下させる
・臓器障害(SDIスコア)増加は予後不良(死亡、QOL低下)と関連

<わかっていないこと>
・アニフロルマブが長期的に臓器障害の蓄積を抑制できるかのか
・TULIP試験ではプラセボ群の離脱が多く、RCT内では明確な比較が困難

<今回の研究目的>
 アニフロルマブ+SOCが208週時点の臓器障害スコア(SDI)を抑制するかをRW外部対照と比較
 臓器障害進行のリスクを抑制するかどうかを評価

<セッティング>
 TULIP試験(2015–2021年)+Toronto Lupus Clinic(UTLC, 1995–2023年)

<研究デザインの型>
 観察研究(ターゲットトライアルエミュレーション)

<Population、およびその定義>
 TULIP試験:SLEDAI-2K ≥6, ANA/抗dsDNA/抗Sm陽性のSLE患者
 UTLC:TULIPの基準を適用、18–70歳、クレアチニン<2.0、ネフローゼ・透析歴なし等

<主な要因、および、その定義>       
 アニフロルマブ300mgを4週ごと投与+既存のSOC(免疫抑制薬、抗マラリア薬、ステロイド)

<Control、および、その定義>
 UTLCにおけるSOCのみ治療群(制限なしの実臨床データを使用)

<主なアウトカム、および、その定義>
 208週でのSDI変化量、初回SDI増加までの時間

<交絡因子、および、その定義>
 年齢、SLE罹病期間、性別、人種、SLEDAI-2K、蛋白尿、ステロイド使用/用量、抗マラリア薬、免疫抑制剤、高血圧、喫煙歴

<解析方法>
・プロペンシティスコアに基づく標準化死亡比重み付けStandardised mortality ratio weighting (SMRW) を用いて、ベースラインの交絡要因を調整
 →average treatment effect in the treated (ATT)
  average treatment effect in the control (ATC) を推定
・Inverse probability of censoring weighting (IPCW)併用
 脱落(censoring)による欠測のバイアスを補正し、有効な生存時間解析を行う。脱落する確率をモデル化。観察されたデータに「censoringされなかったことの逆確率」で重みをつけることで、脱落の影響を軽減。
・感度解析:Propensity score matching(average treatment effect in the overlap)
・欠測値:multiple imputation
・SDI推移はロジスティック回帰とCoxモデル

<結果>
表1. ベースラインデータ
・対象患者数
  アニフロルマブ群:354例(175例が208週フォローアップ完了)
  SOC群:561例(345例が208週フォローアップ完了)
・ベースライン特性
 発症年齢:SOC群の方が若い(中央値 25歳 vs 31歳)
 登録時年齢:SOC群の方が若い(中央値 31歳 vs 42歳)
 白人の割合:SOC群で低い(48.1% vs 64.7%)
 疾患活動性(SLEDAI-2K):SOC群でやや低い(中央値 8点 vs 10点)
 蛋白尿の既往:SOC群で多い(39.6% vs 4.8%)
・治療内容
 GC(96.4% vs 81.4%)、抗マラリア薬(72.2% vs 67.5%)、免疫抑制薬(61.9% vs 48.0%):SOC群で使用率が高い
 GC初期投与量の中央値:SOC群で高い(12.5mg/日 vs 10.0mg/日)
表2. SMRW前後におけるベースラインの交絡因子(ATC推定量)
 ・2つの治療群は、SLEDAI-2Kスコア(SMD:−0.21)と蛋白尿(SMD:−0.22)を除くすべてのベースライン交絡変数において適切に
  バランスが取れていた
表3. 治療群間のSDIスコアの変化量(基準時と基準時後208週)の推定差(すべての推定量)
 ・アニフロルマブ群は208週でのSDIスコア上昇が有意に抑制(−0.416ポイント、P<0.001)
図2. 治療群ごとの臓器障害進行までの時間に関するKaplan-Meier曲線(ATC推定値に基づく適合Coxモデルから推定されたハザード比)。
 ・臓器障害進行のHR 0.401(95%CI: 0.213–0.753)
 ・組織別では骨壊死・白内障・腎不全の蓄積がRW群で多い

 

<結果の解釈・メカニズム>
・IFN経路遮断によりSLE活動性が低下
・ステロイド使用量の減少が臓器障害抑制に影響
・白内障・骨壊死・腎不全などはステロイド関連と推定

<Limitation>
・ランダム化でなく、外部対照と比較した観察研究
・長期での治療継続や治療変更の影響は不明
・RW群の治療は時代による変化がある可能性:TULIP試験(2015–2021年)+Toronto Lupus Clinic(UTLC, 1995–2023年)
・未測定交絡の可能性(例:治療アドヒアランス)

<結果と結論が乖離していないか?>
・Yes
・解析は多面的でロバスト、複数の感度解析も実施

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・長期的に臓器障害を抑制できる初のRCT+外部比較エビデンス
・SLE治療におけるアニフロルマブ追加の合理性を補強
・今後は実臨床での介入研究や費用対効果評価が必要

<この論文の好ましい点>
・実データを用いたターゲットトライアルエミュレーション
・SDIの構成要素レベルでの評価がある(骨、腎、眼)
・感度解析と補足解析

文責:柳井 亮

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