
Split vs single-dose oral methotrexate in rheumatoid arthritis: a randomized controlled trial (SMART study)
関節リウマチに対するMTXの分割投与vs単回投与:ランダム化比較試験(SMART study)
Prasad CB, Dhir V, Gupta R, Thomas KN, Devarasetti PK, Pai VS, Jain A, Naidu G, Saini P, Leishangthem B, Khullar A, Manthri R, Sharma SK, Sharma A, Aggarwal A, Jain S.
Clin Rheumatol. 2025 Aug 29. https://doi.org/10.1007/s10067-025-07646-y
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<サマリー>
RA患者253名を対象に、経口MTXの分割投与と単回投与の有効性を比較したランダム化比較試験。主要評価項目である24週時点での有効性に有意差はなかったが、16週時点では分割投与群でより迅速な効果が認められた。分割投与は2剤目のcsDMARDsを追加する必要性を減らした一方で、消化器症状や肝機能障害などの有害事象は多い傾向にあった。
P:活動性のある血清反応陽性(RF+ and/or ACPA+)のRA患者
E:MTX 25mg/wの分割投与(朝:15mg, 夕:10mg)
C:MTX 25mg/wの単回投与
O:24週時点でのEULAR good response
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<わかっていること>
・経口MTXは15mg以上の高用量になると、腸管からの吸収が飽和しバイオアベイラビリティが低下
・分割投与は、MTXのバイオアベイラビリティを約28%増加させることが薬物動態学的研究で報告
・生物学的利用能を高める別の方法である皮下注射は、経口投与よりも有効性が高いことが複数のRCTやメタアナリシスで証明
<わかっていないこと>
・分割投与によるバイオアベイラビリティの増加が、臨床的な有効性の改善につながるかどうかは不明
・一部のガイドラインでは分割投与が不耐性の改善に役立つ可能性を示唆していたが、その効果は不明確
<今回の研究目的>
活動性のRA患者を対象に、週1回の経口MTXにおける分割投与と単回投与の臨床的有効性を比較すること
<セッティング>
インド国内の6つの大学病院のリウマチ内科クリニックで実施された多施設共同研究
患者の登録期間:2021年2月24日-2023年2月3日
<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
Open-label(評価者のみ盲検化)RCT
<Population、およびその定義>
適格基準:
年齢18歳以上60歳以下で罹病期間が5年以下の疾患活動性を有するRA患者でDMARDsによる治療を受けていない患者
2010年ACR/EULAR分類基準を満たす血清陽性(RF陽性 and/or ACPA陽性)のRAと臨床的に診断
活動性疾患を有する(28関節圧痛関節数≧4かつ28関節腫脹関節数≧2)
DMARDsによる治療を受けていない。ただし、低用量PSL(10mg/日以下) and/or HCQは許容
除外基準:慢性肝疾患、腎疾患、ウイルス感染症、活動性感染症、妊娠を計画しているなど、MTXの標準的な禁忌に該当する患者
<主な要因、および、その定義>
分割投与(Split-dose)群:最初の4週間でMTXを15mg/wから25mg/wへ漸増→朝:15mg, 夕方:10mgの分割投与
<Control、および、その定義>
単回投与(Single-dose)群:最初の4週間でMTXを15mg/週から25mg/週へ漸増→25mgを週1回単回投与
<主なアウトカム、および、その定義>
主要評価項目: 24週時点でのEULAR good response
主な副次評価項目: 16週時点でのEULAR good response
その他の副次評価項目:16週および24週時点でのEULAR good/moderate response、ACR20, 50, 70改善率、DAS28-ESRの変化量、HAQ(健康評価質問票)の変化量
※EULAR good response:「寛解(DAS28≦2.6)」 or 「低疾患活動性(DAS28≦3.2)かつベースラインからの改善度が1.2を超える」
<解析方法>
・解析対象集団:ITT解析
・欠損値の処理:有効性のカテゴリカルデータについては無反応代入(non-response imputation)連続変数については最終観測値持ち越し法(last-observation-carried forward)を使用
・統計手法: カテゴリカルアウトカムはロジスティック回帰分析を用いてオッズ比を算出 。連続アウトカムは正規分布データにはStudent’s t-test、非正規分布データにはMann-Whitney U検定
<結果>
・253名の患者[女性83%、平均年齢42.2歳、平均罹病期間2.1年]が分割投与群(n=128)または単回投与群(n=125)に割り付け
・主要評価項目:24週時点のEULAR good responseは、分割投与群(28.9%)と単回投与群(22.4%)で有意差を認めず(+6.5%, 95% CI -4.2~17.2%, p=0.263) 。
・副次評価項目:16週時点のEULAR good responseは、分割投与群(21.9%)が単回投与群(9.6%)よりも有意に高(群間差+12.3%, 95% CI 3.5~21.3%, p=0.008) 。
16週時点で2剤目のDMARD(レフルノミドまたはサラゾスルファピリジン)の追加を要した患者の割合は、分割投与群(35.1%)の方が単回投与群(54.5%)よりも有意に少(群間差-19.5%, 95% CI -32.3~-6.7, p=0.003) 。
有害事象(特に消化器症状とトランスアミナーゼ上昇)は、統計的有意差はないものの、数値上は分割投与群で多く発生する傾向があった
<結果の解釈・メカニズム>
・分割投与によるAUC増加が、特に治療初期においてより迅速で強力な効果が発現した可能性
・単回投与群では16週時点で有効性不十分な患者が多く、2剤目のDMARDが多く追加されたため、単回投与群の治療効果が追いつき、24週時点での両群間の差がマスクされた可能性
<Limitation>
・主要評価項目である24週時点での有効性/優位性を示せていないこと
・非盲検デザインであり、患者と治療医は割り付けを知っていたため、バイアス(特に自覚症状の評価が生じた可能性
・16週時点での2剤目DMARDの追加が、24週時点での結果の解釈を複雑にした点
・葉酸の服薬遵守状況が確認できておらず、有効性や有害事象に影響した可能性
<結果と結論が乖離していないか?>
・乖離していない。
主要評価項目が未達であったことを明確にしつつ 、16週時点での迅速な効果や2剤目DMARDの必要性減少といった副次的なポジティブな結果と、有害事象増加の傾向というネガティブな結果を記述
<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・MTX治療の早期に効果を最大化したい場合や、高価な生物学的製剤等へのステップアップを遅らせたい場合に、分割投与は有用な選択肢となり得る
・注射剤への切り替えに抵抗がある患者に対し、経口剤のまま効果増強を狙うための一つの手段として考慮できる。
・本邦で使用できる投与量での検討
<この論文の好ましい点>
・RAに対する経口MTXの投与方法(同日中の比較)を検討した初のRCTであるということ
・事前規定していない項目が表からも明確にわかること
文責:高橋克典