
ACNES syndrome, exploring the abdominal wall as source of abdominal pain
前皮神経絞扼症候群
García R C, Botija A G, Recio L A, Nieto I C, Barrio M A.
Andes Pediatr. 2022 ;93(1):86-92.
<わかっていること>
・慢性腹痛(CAP)は小児および成人においても高頻度に見られる(有病率 10~19%)
・腹痛は「内臓性」「腹壁性(体性)」「機能性」に分類されるが、腹壁性の痛みは診断から見落とされがちである。
・ACNES の概要
・腹直筋の外側 1/3~中間 1/3 に位置する前皮神経が線維性管で圧迫されることで発症
・一般的に右下腹部(Th10-11)の単側に生じ、小範囲に鋭い痛み
・動作や姿勢変化で増悪し、内臓性腹痛と異なり、腹筋収縮で痛みが増強(Carnett 徴候)
・他にピンチテスト(Pinch test)や異常知覚(dysesthesia)も診断補助所見。
・嘔吐、食欲低下、腹部膨満などの「偽内臓症状」がしばしば見られる
<研究目的>
・腹壁性腹痛の一種である ACNES(Anterior/Abdomen Cutaneous Nerve Entrapment Syndrome:前皮神経絞扼症候群)に注目し、その臨床的特徴と診療経過を記述し、医療者の認識を高めること。
<セッティング>
・スペイン・マドリード自治州のHospital Universitario Fundación Alcorcón
・公的医療制度の二次医療病院。推定対象人口約171,098人、うち17歳未満は約29,000人
期間は2016年10月〜2021年7月の入院および小児消化器科受診
<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
・過去起点コホート研究
<Population、およびその定義>
・対象:17歳未満のACNES患者
・電子診療録より、「ACNES」を含む診断名が付与された17歳未満の全例を検索。診断は病院小児消化器科医が実施
・診断基準:ACNESに合致する病歴・身体所見を有し、以下4項目中少なくとも2項目を満たす症例を選択:①カーネット徴候、②Pinchテスト、③最大疼痛部の異常感覚(ジスエステジア)、④局所麻酔薬浸潤による症状改善
・除外基準:問診、反復身体診察、補助検査により症状の最終原因が内臓疾患または機能性腹痛と確定した症例
<収集項目>
・治療、身体計測、診察所見(疼痛部位、カーネット徴候、Pinchテスト、異常感覚)、随伴症状
・血液検査(CBC、生化学、腎・肝・甲状腺機能、CRP)、腹部超音波、上部消化管内視鏡、便培養を実施。
・体格評価:スペイン2010横断的成長研究に基づき、過体重はBMI 85〜97パーセンタイル、肥満は97パーセンタイル超で定義。
<解析方法>
・質的変数は度数・割合、量的変数は中央値・四分位範囲で提示
・疫学的、身体計測、診察所見(疼痛部位、カーネット徴候、Pinchテスト、異常感覚)、随伴症状を評価
・記述項目:施行した補助検査と実施治療内容を記載
・IBM SPSS Statistics(ver.17)を使用
<結果>
• 患者背景
・対象:20 名(女性 15 名・男性 5 名)、中央値年齢 12.85 歳
・75%がスペイン出身、30%が精神疾患(うつ病、ADHD など)既往あり
・肥満:5名が過体重、2名が肥満
• 診療経過:
・60%が初診前に救急受診、25%が入院歴あり
・専門診療までの中央値期間:2 ヶ月
• 身体所見・症状:
・Carnett 徴候:95%、ピンチテスト:65%、異常知覚:90%
・偽内臓症状:65%(下痢 40%、嘔吐 20%など)
・疼痛部位:右腸骨窩(50%)、左腸骨窩(40%)、両側(10%)
• 検査:
・血液検査:80%、腹部超音波:70%、胃カメラや便培養:各 20%。
• 治療と転帰:
・初期治療:全例に経口鎮痛薬。7 例(35%)で改善
・局所麻酔薬(ブピバカイン+トリアムシノロン)による神経ブロック:5 例が施行され、3 例では 1 回目で痛み消失、1 例は 2 回目で改善、1 例は他院
で超音波ガイド下ブロック後に改善
<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・腹壁性腹痛(特に ACNES)は慢性腹痛の鑑別診断に必須で、診断が遅れがちだが、特徴的な身体所見で臨床的に診断可能
・不要な検査を避け、段階的な治療(経口薬→局所注射→手術)を行うべき
・偽内臓症状は交感神経系との関係や、精神疾患既往との関連や、肥満の影響も示唆→背景情報からも鑑別として疾患想起を行う
文責:柳澤薫





