
Anti-acid therapy in SSc-associated interstitial lung disease: long-term outcomes from the German Network for Systemic Sclerosis
SSc関連間質性肺炎に対する胃酸抑制療法の効果は?
Michael Kreuter, Francesco Bonella, Norbert Blank, Gabriela Riemekasten, Ulf Müller-Ladner, Jörg Henes, Elise Siegert, Claudia Günther, Ina Kötter, Christiane Pfeiffer, Marc Schmalzing, Gabriele Zeidler, Peter Korsten, Laura Susok, Aaron Juche, Margitta Worm, Ilona Jandova, Jan Ehrchen, Cord Sunderkötter, Gernot Keyßer, Andreas Ramming, Tim Schmeiser, Alexander Kreuter, Kathrin Kuhr, Hanns-Martin Lorenz, Pia Moinzadeh, Nicolas Hunzelmann
Center for Interstitial and Rare Lung Diseases, Department of Pneumology, Thoraxklinik, University of Heidelberg, German Center for Lung
Research, Heidelberg, Germany
Rheumatology (Oxford) 2023:62; 3067-3074.
——————————————————-
<サマリー>
SSc/SSc-ILDはGERD合併により予後に差はあるか、またSSc-ILD患者におけるPPI使用群と非使用群で長期予後に差はあるか比較した. GERD自体はSSc/SSc-ILDの予後に影響がなかったが、SSc-ILDにおけるPPI使用群で生存率・無進行生存率の改善がみられた.
PECO1:
P:SSc/SSc-ILD患者
E:GERD合併群
C:GERD非合併群
O:20年全生存率と5年無進行生存率
PECO2:
P:SSc-ILD患者
I:PPI使用群
C:非使用群
O:1,5年全生存率と1,5年無増悪生存率
——————————————————-
<わかっていること>
・SScの40-80%でILDを合併し予後に大きく影響する
・SScの30-96%でGERDを合併する(食道平滑筋の線維化や蠕動低下による)
・またGERDは微小誤嚥による肺胞レベルの炎症、慢性的な刺激による線維化促進がILD進行に関与している可能性が報告されている
<わかっていないこと>
・GERDがSSc or SSc-ILDの疾患進行・死亡リスク増加に寄与するかは結論が一致していない
・PPIが微小誤嚥を軽減しILD改善に寄与する報告がある一方で、PPIにより感染リスク上昇や予後に影響しないという報告もある
<今回の研究目的>
・SSc/SSc-ILDの進行・長期予後がGERD合併有無と関連しているかどうか
・SSc-ILDの進行・長期予後がPPI使用に関連しているかどうか
<セッティング>
・ドイツ全土(German Network for Systemic Sclerosis:ドイツ強皮症ネットワークに登録されている患者)
・2003-2021年までに登録された患者
<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
他施設共同の後ろ向きコホート研究
<Population、およびその定義>
・18歳以上、2003–2021年にDNSSに登録された SSc患者 4,306例、そのうち SSc-ILD 1,931例
・定義
SSc:ACR/EULAR 2013に基づく診断、限局型・びまん型の両方を含む
SSc-ILD:HRCT or 胸部Xpで線維化所見がみられた症例
GERD:典型症状(呑酸感、嚥下困難、胃酸逆流)がみられた症例(自己申告 or 医師診断)
PPI:カルテ上にPPI使用の記載あり、投与期間や量、種類は問わず
<主要・副次的アウトカム、およびその定義>
・主要アウトカム:全生存率、無進行生存率(%FVC 10%以上低下 or %DLCO 15%以上低下)
<交絡因子、および、その定義>
・Coxハザードで調整→年齢、性別、SScの病型(びまん型のほうがILD進行リスクが高い)、FVC・DLco(疾患重症度)、免疫抑制薬使用の有無
・調整しきれない→GERDの重症度(自己申告やpH・内視鏡なし)、PPI投与量・期間・意図・アドヒアランス(不明)、医療施設要因(PPI導入施設ほど手厚い医療をしている可能性あり)、栄養状態・BMI(不明)、抗線維化薬の使用(一部おいきれず)、喫煙・PH(未調整)、フォローアップ頻度(より手厚い医療を受けた群がPPI投与されている可能性あり)
<解析方法>
・群間比較:Studentのt検定またはMann–Whitney U検定(連続変数)、χ²検定(カテゴリ変数)
・生存解析:Kaplan–Meier法で生存曲線を作成し、log-rank検定で比較
・多変量解析:Cox比例ハザードモデルを用い、年齢・性別・皮膚型・免疫抑制薬使用・肺機能(FVC, DLco)などで調整
・有意水準は両側P < 0.05
<結果>
■患者背景
・SSc患者は4306人、SSc-ILD患者はそのうち1931人(44.8%)
・GERD合併はSSc全体で3024人(71.8%)、SSc-ILDの中で1204人(62.3%)
・SSc-ILDのうち1117人(58%)がPPI使用、814人は非使用
・追跡期間:SSc全体 中央値38か月(IQR 18–86)、SSc-ILD 中央値39か月(IQR 19–89)
・ベースラインの肺機能:FVC%予測値:PPI群 77.8% vs 非PPI群 84.9%(p=0.003), DLCO%予測値:PPI群 57.8% vs 非PPI群 63.3%(p<0.001)いずれも有意差あり→PPI群の方が重症例が多い
・免疫抑制薬使用:PPI群 49.6%(550/1109)、非PPI群 43.0%(321/746)(p=0.005)有意差あり→PPIの方が重症例が多い
・差がなかった因子:SScの病型(限局型、びまん型、オーバーラップ)、年齢、性別、自己抗体、BMI、mRSS、GERDの有無、ステロイド使用
■SSc/SSc-ILDにおけるGERDの影響
・SSc全体でGERD群と非GERD群で20年全生存率と5年無進行生存率に有意差はなし(OS 86.2% vs 87.4%, p=0.82, PFS 66.0% vs 68.0%, p=0.77)
・SSc-ILDでGERD群と非GERD群で20年全生存率と5年無進行生存率に有意差はなし(OS 83.4% vs 79.4%, p=0.36, PFS 62.2% vs 67.9%, p=0.57)
■SSc-ILDにおけるPPI投与の影響
・PPI投与群で1-5年の全生存率が有意に高かった:1年:98.4% vs 90.8%、5年:91.4% vs 70.9%, いずれもp<0.0001)
・PPI投与群で1-5年の無進行生存率が有意に高かった:1年:95.9% vs 86.4%、 5年:66.8% vs 45.9%、いずれもp<0.0001)
<結果の解釈・メカニズム>
・PPI投与群に有意に重症例が多かった(FVC・DLco・免疫抑制薬使用率から)
・GERDの有無によってSSc-ILDの生存率・ILD進行は関連しなかったが、PPI投与で有意に改善
→GERDの有無にかかわらずPPI投与がSSc-ILD予後改善・増悪抑制に有効な可能性
治療開始早期から一貫して予後に差があり拡大していることから早期介入と治療継続が重要になってくる可能性
<Limitation>
・施設間の医療の質→PPI群で生存率が高い理由としてPPIを処方する施設が手厚い医療であった可能性
・PPI投与量や期間が不明→高用量では感染の副作用が出ている可能性もあり
・患者背景→PPI投与群のほうが重症例が多くFVC低下とDLco低下が達成しづらく、増悪リスクが低く見積もられた可能性あり、ただ生存率も有意に高くこちらに関しては説明できない
・SSc-ILDの中でGERD合併の有無は区別されておらず、GERD合併のSSc-ILDのPPI有効性独立効果は示せていない
・データ収集時点(2019)で抗線維化薬は導入されておらず評価不能
<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
【臨床】
・PPIの副作用が許容できるのであれば、SSc-ILDにおいては積極的なPPI投与が検討される
【研究】
・PPIの種類や投与量・期間を設定した介入で、RCT比較したい
・GERDに対してのPPI以外の治療法(生活習慣指導、H2B、外科的治療など)での比較もできるといいだろう
<この論文の好ましい点>
・nが大きく、他施設レジストリを用いており外的妥当性が高い
・全生存率に加えてILDの増悪リスクの評価まで行っている
・交絡因子が調整されている
・PPI投与での改善を断言しておらず、RCTの必要性を主張している
文責:新田雅斗





