
関節リウマチ患者における生物学的製剤自己注射と健康経済的コスト:ウェブ調査によるリアルワールドの横断研究
Health economic evaluation of self-injection of biologics in patients with rheumatoid arthritis using a Japanese real-world web-based survey.
Takahata K, Maeda Y, Tanaka E, Sakai R, Akazawa M.
Department of Public Health and Epidemiology, Meiji Pharmaceutical University
BMC Health Serv Res. 2025 May 21;25(1):730.
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<サマリー>
関節リウマチ(RA)患者を対象に、生物学的抗リウマチ薬(bDMARDs)の自己注射(SI)と非自己注射群の間で健康経済的なコストの違いを比較した横断研究。SI群は通院頻度が少なく、年間自己負担医療費が低かったが、1回あたりの医療費と年間社会的直接コストは高かった。患者満足度はSI群で高かった一方、非SI群では自己注射に対し否定的な印象が多かった。
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P:関節リウマチと診断され、bDMARDs治療を受けている成人患者
E:bDMARDsの自己注射(Self-Injection, SI)を選択
C:医療機関での注射(非自己注射)を選択
O:健康経済的コスト(医療費、通院回数、社会的コスト)、患者満足度、診療科別分布
<わかっていること>
・SIは通院頻度を減らすことで直接医療費や間接コストの削減が期待されている
・(避妊目的のDMPAやIBDに対するベドリズマブでは年間コスト削減)
<わかっていないこと>
・日本国内における関節リウマチ患者のbDMARDsについてはSI対非SIでの経済的評価はわかっていない
<今回の研究目的>
・bDMARDs治療中のRA患者においてSIと非SIを比較し、健康経済的観点からその利点や課題を明らかにする
<セッティング>
・2024年1月15-31日にかけて、国内ウェブ調査プラットフォームMedilead, Inc.
<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
・横断的観察研究:リアルワールドでの現状把握は可能
<Population、およびその定義>
・RA患者
・定義:医師によりRAと診断され、bDMARDs治療中(調査はウェブ上の自己報告アンケート形式)
<主な要因、および、その定義>
・bDMARDsの自己注射(ウェブ上での自己申告に基づく)
<Control、および、その定義>
・bDMARDsの非自己注射(ウェブ上での自己申告に基づく)
<主なアウトカム、および、その定義>
・通院頻度、外来費・交通費
・継続意志・満足度・使いやすさ・選択しなかった理由など
・経済評価として、各患者の「1回あたりの自己負担医療費」「年間通院回数」「年間自己負担医療費」「年間社会的直接コスト(医療費+交通費)」を算出し、自己注射群(SI)と非自己注射群(非SI)で比較
・医療費の算定時には自己負担率を考慮し、訪問ごとの公的医療保険支払額も推定
<その他の変数、および、その定義>
・年齢、性別、RA罹患期間、併存疾患、就労状況、年収、bDMARDs治療内容、通院科(リウマチ科・整形外科など)、通院頻度、通院時間、外来費・交通費、自己注射の有無・実施者・継続意志・満足度・使いやすさ・選択しなかった理由など多岐にわたる項目を収集した。
<解析方法>
・連続変数は中央値(四分位範囲)、質的変数は割合でまとめ、群間比較にはt検定やカイ二乗検定
<結果>
・326名のRA患者が参加、うち79名(24.2%)がbDMARDsによる治療
・SI群が65名(82.3%)、非SI群は14名(17.7%)
・SI群の平均年齢は59.3歳、非SI群は67.0歳
・SI群の就労率は52.3%、非SI群は28.5%
・通院頻度の中央値はSI群で年6回、非SI群で年12回
・1回あたりの自己負担医療費の中央値はSI群が155.17米ドル、非SI群が86.21米ドル
・年間の自己負担医療費はSI群が948.42米ドル、非SI群が1,071.72米ドルで、SI群が低
・年間の社会的直接コスト(医療費+交通費等)はSI群が4,672.14米ドル、非SI群が3,489.72米ドルで、SI群で高
・患者満足度はSI群で高く、76.9%が「満足」または「大変満足」と回答し、80%が今後も自己注射を継続希望
・自己注射の「使いやすさ」は、86.1%が「非常に使いやすい」「使いやすい」と評価
・非SI群の71.4%は自己注射に否定的な印象を持ち、主な理由として「自己注射が怖い」「手指変形で自己注射が困難」など
<結果の解釈・メカニズム>
・SI群は非SI群に比べて年間の自己負担医療費は低いが、社会的直接コストでは逆転して高かった
→自己注射に必要な器具や指導料、あるいは交通費の削減効果が医療費全体には十分反映されていない可能性
<Limitation>
・ウェブ調査による自己申告データのため、記憶バイアスや社会的望ましさバイアスの可能性
・参加者がインターネット利用可能な層に限定されており、サンプルの一般化可能性に限界
・横断研究であるため、因果関係の推定は困難
・経済的アウトカム評価において、詳細な医療費項目の把握に限界
<結果と結論が乖離していないか?>
No:本研究から因果を議論することは難しく、記述的言及にとどめている。
<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・経済的アウトカム評価について、各方法の利点や欠点、潜在的なバイアスの原因となりうるような構造的問題を把握し、今後の研究に反映
<この論文の好ましい点>
・RA患者を対象としたbDMARDs自己注射と非自己注射の健康経済的比較は国内外で新規性
・患者中心のアウトカム(満足度、生活への影響)を多面的に評価
・社会的視点(間接費用、休業損失)を含めた包括的な経済分析を実施
<この論文にて理解できなかった点>
・医療費としてはSI群で低くなり、通院回数も少なく済むにもかかわらず、交通費など周辺の費用を含むと逆転するという結果になった原因
担当:井上良





