
Efficacy and Safety of Admilparant, an LPA1 Antagonist, in Pulmonary Fibrosis A Phase 2 Randomized Clinical Trial
〜LPA1拮抗薬(アドミルパラント)の肺線維症に対する有効性安全性
Tamera J Corte, Juergen Behr, Vincent Cottin, Marilyn K Glassberg, Michael Kreuter, Fernando J Martinez, Takashi Ogura, Takafumi Suda, Marlies Wijsenbeek, Elchonon Berkowitz, Brandon Elpers, Sinae Kim, Hideaki Watanabe, Aryeh Fischer, Toby M Maher
Am J Respir Crit Care Med . 2025 Feb;211(2):230-238.
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<サマリー>
肺線維症において、リゾホスファチジン酸受容体1(LPA1-R)の活性は、線維芽細胞の動員,活性化,増殖,生存および肺上皮細胞のアポトーシスに関連し、肺線維病態の進行を促進することが知られる。本研究では、iPF/PPF患者に対する第二世代LPA1-R拮抗薬であるアドミルパラントの有効性・安全性を検討した第2相試験。60mgにて%VC低下の可能性が示された。
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P:iPFまたはPPF患者
E:アドミルパラント内服(30mg×2群、60mg×2群)
C:プラセボ
O:26週の%FVCの変化率
<わかっていること>
・IPF/PPFは進行性で予後不良であり、新規治療が必要
・抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)はIPFのFVC低下を抑制するが、進行を止めることはできず、有害事象により治療継続が制限
・PPFでも、ニンテダニブ(およびエビデンスはより限定的だがピルフェニドン)で同様の安全性・有効性が観察
・肺線維症では LPA1活性化が線維芽細胞動員・活性化/増殖・生存、上皮細胞アポトーシスに関与し、線維化進行に寄与
・IPFで第1世代LPA1拮抗薬(BMS-986020)が26週のFVC低下を抑制した一方、LPA1作用とは無関係な肝胆道系オフターゲット有害事象で開発中止
<わかっていないこと>
・第2世代LPA1拮抗薬(アドミルパラント)が、IPF/PPFで有効かつ安全か(=FVC低下抑制の再現性と忍容性)は未確立
・背景治療(抗線維化薬)併用下でも治療効果が得られるか、またPPFでは免疫抑制薬併用下での位置づけがどうなるかは不明だった(本試験では併用を許容して検証する設計)
・用量差(30mgと60mg)による効果の違い、特に「PPFでは30mgで効果が見えるのにIPFでは見えにくい」理由は未解明で、追加検討が必要
・早期試験で血圧低下が示唆されており、臨床試験での安全性運用(モニタリング・減量)を要するが、その影響の整理は課題
・26週という短期間の効果が、QOLや入院など長期アウトカムに結びつくかは不明で、より長期・大規模試験が必要
・抗線維化薬なし患者が少数で、サブグループの結論には限界
・PPFではRA-ILD以外のCTD-ILDが除外されており、他の免疫介在性疾患への一般化は未検証。
<今回の研究目的>
・IPFおよびPPF患者において、アドミルパラント(BMS-986278)の有効性と安全性を評価
<セッティング>
・2020年7月〜2023年2月、日本を含む17カ国79施設
<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
・第2相試験、二重盲検(検者および被検者)、国際共同無作為化プラセボ対照比較試験
<Population、およびその定義>
・iPF(他に原因のない、年齢40歳以上、診断から7年以内、HRCTでUIP or Probable/肺生検で証明) 、もしくはPPF(年齢21歳以上、2年の観察期間でPPF要素を満足する、HRCTで病変が10%以上)
・ランダム化の3ヶ月前まで病状安定使用された抗線維化薬(ニンテタニブ,ピルフェニドン)、試験開始6ヶ月以前から安定使用された免疫抑制剤(MMF,AZP,Tac,HCQ,cs,TNF,IL-6,ABT,Jak)は許容
・PPFコホート内の内訳としては、52%はUIP patternであり、背景疾患として、分類不能が27%・CHPが17%・関節リウマチ関連ILDが16%・iPAFが10%等であり、何らかの免疫抑制剤の使用は全体の13%(Table1,E1)
・除外基準:薬剤不耐が予測される低血圧(sBP≦100/dBP≦60mmHg)、広範の肺病変(HRCT≧50%の病変)、6週間以内の急性増悪歴、%FVC<40%・FEV1/FVC<0.7・%DLCO<25%、一定のISが使用された患者(試験前2週間以内のPSL15mg以上の使用,試験前4週間以内のCY/CyA/MTX/LEFの使用,試験前6ヶ月以内のRTX使用)、サルコイドーシス・RA-ILD以外の結合組織病が原因とされた肺線維症、3ヶ月以内の喫煙歴、検査に影響がであるその他の呼吸器疾患の併存(喘息など)、左心機能低下・不整脈・管理治療必要なPAHの併存、活動性感染症、5年以内の悪性腫瘍歴、6ヶ月以内の卒中歴、肝細胞障害、腎機能低下(eGFR<30ml/分)、妊娠、違法薬物
<主な介入、および、その定義>
・アドミルパラント 60mgを1日2回内服群 (60mg群)
・アドミルパラント 30mgを1日2回内服群 (30mg群)
<Control、および、その定義>
・プラセボ 1日2回の内服 錠剤の色・サイズ・形状を同一化
<主なアウトカム、および、その定義>
・primary outcome:ベースラインから26週までの%FVCの変化率
・secondary outcome:ベースラインから26週までの%FVCの変化量、FVC、急性増悪(PubID 27299520)、安全性としてのTEAE(Treatment-Emergent Adverse Event)
※呼吸機能検査の精度は一定に担保
<交絡因子、および、その定義>
・年齢、性別、喫煙状況、人種、治療された地域、PPF内での間質性肺炎pattern、背景治療(抗線維化薬.免疫抑制剤)、
<解析方法>
・サンプルサイズの推定:過去のiPFの試験(PubID 24836312, 30201408, 21571362)が参考にされ、投与およびプラセボ群の予測FVCの%変化率の真の差の95%CIの下限が、2.5%の差が観測された場合十分な精度を確保するのに、各群80名のサンプルサイズが選択された。
・第1相試験で判明しているTEAEの血圧低下に関して、血圧・症状をモニタ(PubID 28280232)し、基準に該当する場合、プラセボへ変更を行なった。
・treatment policy strategy:ITT解析に似ており、途中の容量調整の有無に関わらず全ての観察データを評価し、治療効果の推定値を算出する解析
・primary outcomeの解析:線形混合効果モデル
・secondary outcomeの解析:反復測定の混合モデル(欠測値:完全ケース分析)
・統計解析手法の妥当性検討:感度解析(FDAの臨床試験の統計原則のガイダンス)
<結果>
・iPFコホート278名、PPFコホート125名の403名が無作為割付
・ベースラインの%FVCの平均は、iPF群で76.5%、PPF群で66.8%
・抗線維化薬使用が、iPF群で67%、PPF群で37%
・PPF群での免疫抑制剤の割合は、プラセボ15%、30mg群13%、60mg群12%
・iPF患者における26週までの%FVCの変化率
・減量データを加味した解析では、プラセボ群で-2.7%・30mg群で-2.8%・60mg群で-1.2%
・60mg群とプラセボ群の治療差は1.4%(95%CIは-0.1~3)で相対的に54%減少
・減量前データを含む解析では、プラセボ群で-2.8%・30mg群で-3.2%・60mg群で-1.1%
・60mg群とプラセボ群の治療差は1.8%(95%CIは0.2~3.4)で相対的に62%減少
・ベイズ解析では60mg群とプラセボを比較した治療差の事後確率は95%超(Figure1 A,B)
・PPF患者における26週までの%FVCの変化率
・減量データを加味した解析では、プラセボ群で-4.3%・30mg群で-2.9%・60mg群で-1.1%
・60mg群とプラセボ群の治療差は3.2%(95%CIは-0.7~5.7)で相対的に74%減少
・減量前データを含む解析では、プラセボ群で-4.2%・30mg群で-2.7%・60mg群で-1.3%
・60mg群とプラセボ群の治療差は3.0%(95%CIは0.4~5.6)で相対的に70%減少(Figure1 C,D)
・26週時点での60mgアドミルパラント群とプラセボ群のFVCの絶対変化の平均治療差は、iPFコホートで45.5ml・PPFコホートで87.4ml(Figure2)
・背景の抗線維化薬の治療の有無による解析でも傾向は一致Figure3 A~D)
・安全性評価
・iPFコホートで80%/76%/74%(プラセボ/30mg/60mg)、PPFコホートで78%/83%/67%(プラセボ/30mg/60mg)
・種別は全群で7~15%程度に下痢が最も多く見られたが、中でも抗線維化薬を服用しているサブグループで多く観察
・死亡は全9例で、プラセボ・介入群の各群で確認
・懸念されていた一過性血圧低下の割合は、iPF/PPFコホートともにアドミルパラント群に多く確認
<結果の解釈・メカニズム>PubID 18066075
・リゾホスファチジン酸受容体1の阻害は、肺線維芽細胞の動員を抑制し抗線維化作用を示し、肺機能低下の抑制に寄与した可能性
・また血管内皮細胞の炎症も抑制することにより抗炎症作用を示す、30mg群ではPPFコホート優位にアドミルパラントの治療効果が示されたことはこの抗炎症効果が関与していると論文内で考察
・一方リゾホスファチジン酸受容体刺激は血管収縮・抵抗性(特に受容体3が作用が強い)に寄与している可能性があり、その抑制が、TEAEとしての血圧低下に関連
<Limitation>
・26週と期間が限定されており、長期効果(生活の質や入院回数など)を評価するには不十分、有効性安全性の知見はより治療期間の長い大規模な試験での追試が必要
・抗線維化薬のない患者でのNが不十分でサブグループ解析から群により評価が困難
・関節リウマチ以外のCTD-ILDが含まれておらず、今後他のCTD-ILDでの評価が必要
<結果と結論が乖離していないか?>
乖離なし
アドミルパラント群で容量依存性に肺機能低下の抑制が確認された。
<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・ネランドミラスト同様に、抗炎症作用を有する抗線維化薬の新たな選択肢となりうる
・潜在的な本薬剤の抗炎症作用は、CTD-ILDと相性が良いと考えられ、今後の追試が望まれる
<この論文の好ましい点>
・iPFのみでなくPPF患者も組み入れて評価していること
担当:清水国香





