早期びまん性皮膚硬化型全身性強皮症へのベリムマブ治療【Journal Club 20180214】

Belimumab for the Treatment of Early Diffuse Systemic Sclerosis

著者名 Jessica K. Gordon, Hospital for Special Surgery, New York

2018 Feb;70(2):308-316.

Background
・強皮症の病態にB細胞、抗体産生が関与している
・BAFFはSSc患者血清で高値であり皮膚の線維化の範囲に関与
・BAFFのホモログであるAPRIIはSSc患者で高値であり肺線維症の発生率の上昇に関与
・B細胞に作用するリツキシマブはSSc患者の皮膚硬化(MRSS)を改善し肺活量(FVC)の軽度の改善することが示した研究もある

P: 最近、MMF加療を開始されたびまん皮膚硬化型全身性強皮症患者(dcSSc
E: BLM w/MMF
C: プラセボ w/MMFMMF単独)
O: ベリムマブの安全性(AEsの数)と効果

1.セッティング:単一施設(Hospital for Special Surgery)

2.研究デザインの型:Investigator initiated, industry-supported, single-center, randomized, double-blind, placebo-controlled trial
医師主導 単一センター 無作為化二重盲検プラセボ対照研究

3.Population、およびその定義:最近、MMFで開始されたdcSSc患者20人を無作為に1:1にBLM群とプラセボ群に割り付け。以前のACR分類基準とACR/EULAR2013分類基準を満たし、Raynaud現象以外のSSc症状出現から3年未満でBaseline modified Rodnan skin thickness score (MRSS) ≧16

【除外基準】18歳以下、DLco<30%、EF<50%、MMF3ヵ月以上投与、以前のRTX、BLMの投与、PSL>10mg/day、
14 patients:MMF未投与         6 patients: MMF<2000mg/day for <3 months
3ヵ月MMF使用(1000mg 2x/日まで増量)MMF副作用ないことを確認し、BLMもしくはプラセボ開始

4.主な要因、および、その定義:ベリムマブ10mg / kg 静脈内投与2週毎に3回静注しその後は4週毎に静注

5.Control、および、その定義:プラセボ(生理食塩水)

6.主なアウトカム、および、その定義: 患者は1か月に1回受診しAEsを評価
Primary efficacy
52WにおけるMRSSの中央値の変化(3ヵ月毎に同一医師により評価)

Secondary efficacy
・6ヵ月、52WにおけるFVC, DLco(呼吸機能検査は開始時、6ヵ月、12カ月に施行)
・SF-36(Mental CS, Physical CA)
・Scleroderma Health Assessment Questionnaire disability index (SHAQ DI) score
・the ACR composite response index in dcSSc (CRISS) score
・治療前、52Wで皮膚生検施行し組織学的評価、免疫染色、遺伝子発現が評価された。Gene expression analyses by DNA microarray. Differentially expressed genes (DEGs) were identified via Significance Analysis of Microarrays.
・治療前の血清BLys値を測定

7.交絡因子、および、その定義:パイロット試験のため多変量解析はしていない

8.解析
パイロット試験なためサンプルサイズを決める統計学的検討はしていない
有効性の解析はmodified intent-to-treat population(ITT解析)を使用
サブ解析はMRSSが20%低下した患者で行った
統計的比較はMann-Whitney U tests and Wilcoxon signed rank tests,
統計ソフト:SAS software version 9.3 for Windows

9.結果(箇条書きで、大事なところのみ)
Table1: 2012年8月17日―2014年9月12日までに22人が登録され2人(腎クリーゼ、進行性筋炎)で脱落。20人が治療に参加。治療中、プラセボ群で1人(心筋症の進行)、BLM群で1人(ILDの進行)が脱落(どちらも試験開始12W未満)。開始時のSHAQ DIスコアとVAS RPスコアはBLM群で有意に悪かった。

Fig 1A: 開始時と52WのMRSS
BLM群中央値は27(四分位範囲[IQR] 26.5, 31)から18(IQR 11,23)に減少(P=0.039)
プラセボ群中央値は28(IQR 22, 28)から21(IQR 14,25)に減少した(P=0.023)。

Fig 1B: MRSS中央値の変化
MRSS中央値の変化の中央値はBLM群で-10(IQR-13、-9)、プラセボ群で-3.0(IQR-15(IQR 14, 25)であり、統計学的有意差はなかった(P = 0.411)

Fig 1C: 20% MRSS改善した患者の数はBLM群で多かった(BLM群:7/9 >プラセボ群:3/9)

Fig 1D: 52WにおけるCRISSスコア事後解析においてCRISSの中央値はBLM群で0.61 (IQR0.34, 0.88)、プラセボ群で0.03 (IQR 0, 0.80)であり統計学的有意差はなかったが(P = 0.345)、BLM群でより高い傾向を認めた。

Table 2. FVC, DLcoは治療中変化がなかった。SHAQ DIスコアとVAS RPスコアはBLM群で有意に減少した(但し開始時にBLM群で有意に高値であった項目)。

Table 3. 有害事象数(AE)の総数、感染症の数において両群に有意差は認められなかった。
重篤なAEは3例に認めたが全てプラセボ群であった。
病理的な評価に両群で著変は認めなかった。
開始時の患者血清BLyS値は健常コントロールより高値であったが、改善した患者としなかった患者に差は認めなかった。

Fig 2 A:BLM治療群で治療後に43のDifferential gene expressions (DGEs)を認め、防御応答や炎症反応、補体活性化にかかわる免疫システムのシグナルに多く認めた。

Fig 2B:BLM治療群ではB細胞受容体活性とTLRシグナル、インテグリンシグナルのdown regulationが起きておきていた。プラセボ群では有意なDGEsは認めなかった。

Fig 2C:BLM治療反応した患者を対象とすると治療により減少したをDEGsを76個認め、fibrotic signaling (exracellular matrix organization, vasculature development, collagen metabolic process)が含まれていた。

Fig 2D:Fibrotic signaling (TGFβ, TGFβreceptor, ECM regurators)およびB細胞シグナル(B cell antigen receptor, B cell receptor signaling)の発現抑制を認めた。

Baseline differences between BLM improver and nonimprovers:19遺伝子がimproverで高発現し、collagen metabolic processとECM organizationが多く含まれた。(ECM–receptor interaction and other ECM-related gene sets, TGFbR signaling)

Fig 3A, 3B:開始時の遺伝子発現を頻度で患者を炎症型、増殖型、正常型に分類したところ、炎症もしく増殖型に分類された15患者のうち9人(60%)は治療後に正常型になり、その9人すべてがMRSSスコアが低下していた。改善患者10人のうち8人は治療後は正常型に分類されていた。

Fig 3C:開始時と12カ月後のMRSSとinflammatory subset scoreの変化を定量化したところinflammatory subset scoreとMRSSに正の相関関係を認めた(r=0.51, p=0.03)。炎症型に分類された患者は特に強い相関関係を認めた(r=0.81, p=0.008).

炎症に関与する遺伝子発現が治療により低下するとMRSSは改善することを示唆している。

10.どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?(箇条書きにて記載。論文中の記載から抜粋、および、自分考えたものを記載)
・MMFにBLMを加えても有害事象や増えなさそう。
・BLM/MMF治療およびMMF治療ともにMRSSスコアの低下させたが、その変化量および20%改善した患者数はBLM+MMF群のほうが大きい傾向があり、dSScの初期の皮膚硬化にはBLM/MMF治療がより有用である可能性がある。
・呼吸機能の改善乏しく、肺病変には効かなそう。
・治療前の血清BLyS値は効果予測には使えなそう
・SScの初期の皮膚硬化は炎症が関与し、その炎症にBLMの効果があるのかもしれない。

11.Limitation(箇条書きで)あくまでパイロット試験

12.この論文の弱点(自分で考えたものを記載)
あくまでパイロット試験
・MMFにBLMを併用することによる臨床的は効果の証明には至らず、遺伝子発現の変化に評価かつ分類し、Inflammatory subset scoreを評価することにより臨床的効果(MRSS)と結び付けている
・治療的効果のあるMMFをコントロールに選んでいることでBLMの効果を十分に評価できていない
・MMFと併用治療であるためBLM単独の効果を評価できていない可能性がある

13.好ましい点
治療前後で皮膚生検をすることにより、病理的な評価、遺伝子的評価をすることを可能にしていた。BLMの作用機序に矛盾しない遺伝子発現(B細胞シグナルのdown regulation)の変化を示している。

担当:若林邦伸

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