Atypical Femur Fracture Risk versus Fragility Fracture Prevention with Bisphosphonates
ビスホスホネート(BP)製剤による非定型大腿骨骨折リスクと脆弱性骨折予防との比較
Dennis M. Black, Ph.D., Erik J. Geiger, M.D., Richard Eastell, M.D., Eric Vittinghoff, Ph.D., Bonnie H. Li, M.S., Denison S. Ryan,
M.P.H., Richard M. Dell, M.D., and Annette L. Adams, Ph.D.
N Engl J Med 2020; 383:743-53.
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<サマリー>
196,129を対象とした米国のコホート研究。BP製剤製剤の非定型大腿骨骨折と骨粗鬆症性骨折の発生を10年間追跡し比較した。非定型大腿骨骨折のリスクはBP製剤の使用期間とともに上昇し,BP製剤の中止後速やかに低下した.
アジア人は白人よりもリスクが高かった.非定型大腿骨骨折の絶対リスクは,BP製剤投与に伴う大腿骨近位部骨折およびその他の骨折リスクの減少と比較して,非常に小さい状態が持続した.
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P:BP製剤の投与を受けている 50 歳以上の女性
E/C:なし
O:非定型大腿骨骨折(primary)
<セッティング>
人種的、民族的、社会経済的に多様な460万人以上の統合医療システム「カイザー・パーマネンテ南カリフォルニア」(米国三大健康保険システムの一つ)で実施。
<研究デザインの型>
過去起点前向きコホート
<Population、およびその定義>
骨粗鬆症に対する経口または静脈内BPの処方を少なくとも1回受けている50歳以上の女性
2007 年 1 月 1 日から 2017 年 11 月 30 日まで追跡。
<主な要因、Control、および、その定義>
なし
<主なアウトカム、および、その定義>
主要転帰:非定型大腿骨骨折。大腿骨軸骨折の国際疾病分類(ICD)診断コード(表S1)を用いて選択し、骨折日の前後3日以内の高エネルギー外傷に対するICD Eコード(傷害の原因を記述する)を有する症例を除外。2人のレビュアー(BP治療の種類や期間、臨床的危険因子を知らない)が独立して、非定型大腿骨骨折の定義を用いて、放射線画像を判定。ICDコードで同定された股関節骨折は副次的転帰(表S1)。
<交絡因子、および、その定義>
電子カルテから潜在的骨折危険因子を抽出:年齢、患者が申告した人種または民族、グルココルチコイドの使用、身長、体重、および喫煙状況、以前の骨折(ICDおよびCurrent Procedural Terminologyコードを用いて同定)。すべての共変量は、コホート参加時に、参加時から累積的に遡って計算。人種または民族グループと身長を除くすべての因子は、参加後毎年更新。BP治療の累積期間と最後の治療からの時間は薬局の記録から決定し、累積曝露量は計算され、毎年更新。
<解析方法>
① 骨折の発生を記述:フォローアップ期間は1年間隔。骨折発生率を10,000人年あたりで計算し、年齢、人種、民族、BP薬の使用期間、BP薬の中止後の時間別に集計し記述→table1、table S3、table2、figure1
② 各潜在的危険因子と非定型大腿骨骨折との関連
一変量ハザード比および95%信頼区間を推定するためにCox比例ハザードモデルを使用→table3
③ BP薬の使用期間(基準、3ヵ月未満)のカテゴリーを比較
未調整モデルのP値が0.2未満のすべての危険因子を含む多変量Coxモデルを使用→table3
④ BPを使用したことのある196,129人の女性に限定せず、コホート全体(1,097,530人の女性)で感度分析→tableS5
⑤ 骨折リスクに対するBP薬のリスクとベネフィットを比較するため、10,000人の女性の仮想コホートにて、BP薬の治療年数の違いによって予防された他の骨折と比較し、関連する非定型骨折の数をモデル化。人種または民族(白人、アジア人、ヒスパニック)に関して3つのグループに分けて計算→figure2
<結果>
• 骨折のリスクはビスホスホネート製剤の使用期間に伴って上昇し,3 ヵ月未満の場合と比較したハザード比は,3 年以上 5 年未満で 8.86(95%信頼区間 [CI] 2.79~28.20)であり,8 年以上で 43.51(95% CI 13.70~138.15)まで上昇、人種(アジア人の白人に対するハザード比 4.84,95% CI 3.57~6.56),身長,体重,グルココルチコイドの使用、ビスホスホネート製剤の中止は,非定型骨折リスクの急速な低下と関連→table3
• ビスホスホネート製剤の 1~10 年間の使用中の骨粗鬆症性骨折・大腿骨近位部骨折リスクの低下は,白人では非定型骨折リスクの上昇をはるかに上回ったが,アジア人では白人ほど大きくは上回らなかった.白人では,使用開始後 3 年の時点で大腿骨近位部骨折は 149 件予防され,ビスホスホネート製剤に関連する非定型骨折は 2 件発生したのに対し,アジア人ではそれぞれ 91 件と 8 件→figure2
<結果の解釈・メカニズム>
• 非定型大腿骨骨折のリスクはBP製剤の使用期間とともに上昇,BP製剤の中止後速やかに低下、アジア人は白人よりもリスクが高かった.
• 非定型大腿骨骨折の絶対リスクは,ビスホスホネート製剤投与に伴う大腿骨近位部骨折およびその他の骨折リスクの減少と比較して,非常に小さい状態が持続された.
<Limitation>
• アレンドロネートが治療暴露の大部分を占めていたため、結論を他のビスフォスフォネートやデノスマブを含む他の薬剤や製剤にまで拡張することはできない
• ビスフォスフォネート被曝を含む共変量の評価はカイザー・パーマネンテの会員期間に限定されているため、コホート登録前の会員期間が短い人の累積ビスフォスフォネート被曝を過小評価している可能性
• リスクとベネフィットの比較は骨折の数だけに基づいている。より完全な比較は、コストに加えて関連する罹患率と死亡率を考慮したものである。
• 1年から5年間の治療による骨折の減少に関する我々のモデルは、ランダム化臨床試験からの強力なエビデンスベースを持っているが、5年を超えると、エビデンスベースはより限定的
• ICDで同定された大腿骨軸骨折の約16%では、X線写真が得られなかったか、または判定に不十分であったため、非定型骨折の真の発生率が過小評価された可能性
• 黒人の非定型大腿骨骨折は2例のみであり、この集団では結論できない。
• 選択バイアス:保険に加入していない集団がいる
• 情報バイアス:ICDによる骨折の妥当性記載なし
• 欠測補完記載なし
• アジア人の中の中国人、日本人などの割合の記載なし、おそらく多くが中国系
<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
• アジア人では他人種よりも非定型大腿骨骨折のリスクは高いものの、骨粗鬆症による大腿骨のリスクを上回ることはないため、積極的導入が望ましい。ただし、肥満やステロイド使用は非定型大腿骨骨折のリスクを増加させるため注意。
• BP使用期間が長いほど非定型大腿骨骨折のリスクは増加する
• BP中止により非定型大腿骨骨折のリスクのリスクが低下することも患者説明に使用できる。
<この論文の好ましい点>
• 人種的、民族的、社会経済的に多様な460万人以上の統合医療システム「カイザー・パーマネンテ南カリフォルニア」(米国三大健康保険システムの一つ)で実施。
• 骨折のアウトカムは背景をマスクされた32名で画像を確認
• 要因、アウトカムを毎年取得
• アジア人に多い考察:大腿骨の湾曲の程度(大腿骨弓曲りに対する横方向の引張力の増加)、薬物のアドヒアランスが高いこと、薬物代謝と骨のターンオーバーにおける遺伝的な違いなどが含まれている。
担当:柳井亮