滑膜線維芽細胞におけるADAM15のアポトーシス抑制作用【Journal Club 20201209】

ADAM15 in Apoptosis Resistance of Synovial Fibroblasts: Converting Fas/CD95 Death Signals Into the Activation of Prosurvival Pathways by Calmodulin Recruitment
Tomasz Janczi.et.al
Arthritis Rheumatol. 2019 Jan;71(1):63-72
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【用語】
・ADAM15
ADAMとはメタロプロテアーゼ構造とディスインテグリン構造の2つの異なる機能領域を持つ蛋白であり、細胞膜表面に発現する蛋白のshedding (切断)に関与し、細胞表面における分子制御に重要な役割がある。また、ADAM15は乳癌や前立腺癌、RAなどの自己免疫性疾患で発現が確認されている。
・Fasリガンド(FasL)
サイトカイン。受容体Fasに結合すると細胞にアポトーシスを誘導する。
・Fas=CD95
TNF受容体ファミリーに属するI型(アミノ末端が細胞外に配向する)膜貫通蛋白でFasLの受容体。
T細胞、B細胞等多くの細胞に発現し、アポトーシスを媒介する。
・カルモジュリン
カルシウム結合蛋白質。炎症、代謝、アポトーシス、免疫などに関与している。
・Caspase
細胞にアポトーシスを起こさせるシグナル伝達を構成するシステインプロテアーゼの総称。
Caspase3,7はエフェクターとして働きアポトーシスで特に重要。
・接着斑キナーゼFAK
非受容体チロシンキナーゼ。多数のシグナル伝達パートナーと相互作用し、様々なアポトーシス促進シグナルに対して、細胞の生存を助ける働きがある。
・Src
非受容体チロシンキナーゼ。c-Srcは、細胞増殖、細胞同士の接着性の喪失、細胞の移動、浸潤、アポトーシスに対する抵抗性の獲得、血管新生を含む腫瘍増殖の亢進など、癌の悪性化に関与する複数の段階に重要な働きをしている。

【目的】
滑膜線維芽細胞(RASFs)におけるADAM15のアポトーシス抑制作用を調べること

【結果】
・Figure 1
Caspase3/7、SrcとADAM15との関係を調べた。
A:ADAM15 or cytoplasmic tail deletion mutant or controlをtransfectした軟骨細胞をFasLで12-30h刺激し、Caspase3/7の活性を見た。
→ADAM15でtransfectされている方がコントロールに比べカスパーゼ3/7の活性が低下した。
B:ADAM15 or cytoplasmic tail deletion mutant or controlでtransfectされた軟骨細胞をFasLで15-30min刺激し、anti–phospho‐FAK antibodyとanti–phospho‐Src antibodiesを用いてウエスタンブロット法で分析した。
→ADAM-15でtransfectされたものがFAK、Srcともにリン酸化された。
→ADAM15がFAK、Srcのリン酸化に必要。
C:過去の実験からFasの経路にはカルモジュリンを介したCaイオンの関与が分かっているため、カルモジュリン阻害薬を用いて、カルモジュリンがFAKおよびSrcのリン酸化に関与するかを調べた。
→カルモジュリン阻害薬(TFP)+FasLで刺激するとFAKおよびSrcの活性は低下した。
⇒・ADAM15はカスパーゼ3/7活性を低下させる。
 ・FAKおよびSrcのリン酸化にはADAM15とカルモジュリンが関与する。

・Figure 2
カルモジュリンと、CD95、Src、FAK、ADAM15の相互作用を調べた。
A:軟骨細胞から免疫沈降法を用いて、カルモジュリンを回収し、それらをADAM15 or cytoplasmic tail deletion mutant or controlでtransfectし、Caイオンを加え、anti–phospho‐FAK antibodyとanti–phospho‐Src antibodies、anti-CD95 antibodyを用いてウエスタンブロット法で分析した。
→ADAM15でtransfectされたもので、Srcで活性が認められた。
=カルモジュリンがSrcを刺激し、それによりADAM15が反応する。
B:Srcとカルモジュリンと相互作用を調べるために、軟骨細胞またはRASFsをそれぞれ免疫沈降法を用いて、カルモジュリンを回収し、それらをADAM15 or cytoplasmic tail deletion mutant or controlでtransfectし、Caイオン or controlを加え、anti ADAM15 antibodyを用いてウエスタンブロット法で分析した。
→Caイオンを加えたもののみで活性が認められた。
C:cytoADAM15とカルモジュリンを加えた軟骨細胞に、CaイオンまたはEDTAを添加し、ADAM15とカルモジュリンのbindingをみた。
→Caイオンを加えた方が結合率は上昇し(左)、カルモジュリン阻害薬を加えると低下した(右)。

・Figure 3
A:(上段)軟骨細胞から免疫沈降法を用いて、CD95を回収し、それらをFasL or FasL+TFPで刺激し、カルモジュリン、Src、Y416 Srcの抗体を用いてウエスタンブロット法で分析した。
→SrcおよびY416 SrcはFasLで刺激した方で活性が認められた。
(下段)上段と同様に、軟骨細胞から免疫沈降法を用いて、ADAM15を回収し、それらをFasL or FasL+TFPで刺激し、カルモジュリン、Src、Y416 Srcの抗体を用いてウエスタンブロット法で分析した。
→SrcおよびY416 SrcはFasLで刺激した方で活性が認められた。
B:軟骨細胞におけるCD95、ADAM15、カルモジュリンの発現を免疫染色法を用いて確認した。
→CD95、ADAM15、カルモジュリンは細胞表面の同じ部位に存在した。
C:RAFSsを用いてAと同様の実験を施行し、FasLで刺激したときにカルモジュリンの活性を確認した。

・Figure 4
Fas/CD95の刺激でSrcとカルモジュリンの相互作用が増強されるかを調べた。
A:軟骨細胞から免疫沈降法を用いて、カルモジュリン or Srcを回収し、それらをFasL or FasL+TFPで刺激し、カルモジュリン、Src、Y416 Srcの抗体を用いてウエスタンブロット法で分析した。
→SrcおよびY416 SrcはFasLで刺激した方で活性が認められた。
B:軟骨細胞から免疫沈降法を用いて、ADAM15 or CD95を回収し、それらをFasL or FasL+TFPで刺激し、ADAM15、CD95の抗体を用いてウエスタンブロット法で分析した。
→FasL、FasL+TFPで刺激したものの間で相違は認めなかった。

・Figure 5
RASFsにおけるCRAC(Calcium Release Activate Channel)/Oraiとカルモジュリン阻害によるアポトーシスとの関係を調べた。
A:RASFsにFasL or FasL+BTP-2(CRAC/Orai阻害薬)で刺激し、活性化Srcと活性化FAKの阻害度を調べた。
→BTP-2で刺激すると活性が低下した。
B:10検体のRASFsにFasL or TFP or BTP-2を図のような組み合わせで刺激、Caspase 3/7の活性を調べた。
→FasL + TFPとFasL+BTP-2で刺激したもので活性を認めた。
C:RASFsにTFP単独 or FasL単独 or FasL+TFP or BTP-2単独 or FasL+BTP-2で刺激し、アポトーシス率を調べた。
→FasL+TFP とFasL+BTP-2で刺激したものでアポトーシス率が高かった。
⇒アポトーシスにはFasLの刺激とTFP、BTP-2が必要。

・Figure 6
RASFsにおけるFasLとカルモジュリンまたはCRAC阻害薬によるカスパーゼ誘導に対するADAM15の保護(抑制)効果を確認した。
A:RASFsをsiRNA法を用いてADAM15をノックダウンし(他に、control siRNAとcontrolもあり)、FasL or TFP or FasL+TFP、BTP-2、FasL+BTP-2で刺激しCaspase 3/7の活性を調べた。
→ADAM15 siRNAでADAM15をノックダウンかつFasLを用いて刺激した群で活性を認めた。
B:まとめ
→アポトーシスの抑制には、SrcとFAKのリン酸化が必要であり、そのためにはカルモジュリン、ADAM15が関与する可能性が示唆された。

・重要なポイントはどこか?
・ユニークなポイントはどこか?
・今後の研究展開や論文に対する検討課題
⇒滑膜線維芽細胞において細胞の生存とアポトーシスのバランスが崩れることは過去の研究からRAの発症に関与することが報告されている(川上純 et.al. 炎症・再生. 2002:22(3). 179-185)。今回の研究ではアポトーシスの抑制にADAM15が関与することが示唆された。今後、ADAM15をターゲットにした治療を行うことにより、RAの進行を抑制することができる可能性がある。

担当:西見慎一郎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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