抗MDA5抗体陽性間質性肺炎合併皮膚筋炎に対する血漿交換療法の効果【Journal Club 20201216】

Efficacy of plasma exchange in anti-MDA5-positive dermatomyositis with interstitial lung disease under combined immunosuppressive treatment
多剤併用免疫抑制療法を施行した抗MDA5抗体陽性間質性肺炎合併皮膚筋炎に対する血漿交換療法の効果について
著者   Mirei Shirakashi , et al.
掲載雑誌/号/ページ Rheumatology (Oxford) 2020 Nov 1;59(11):3284-3292

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<サマリー>
多剤併用免疫抑制療法(ステロイド大量療法、カルシニューリン阻害薬、シクロスフォスファミド)に血漿交換療法を併用することで、治療抵抗性・進行性の抗MDA5抗体陽性間質性肺炎合併皮膚筋炎(MDA5(+)DM-ILD)の救命率を改善できる

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<背景>
MDA5(+)DM-ILDは予後不良な疾患である。ステロイド、シクロホスファミド、カルシニューリン阻害薬(シクロスポリンやタクロリムス)による多剤併用免疫抑制療法が従来治療と比べ、死亡率を改善させたと報告されており、(6ヶ月死亡率 従来群 28.6 %  多剤併用群 75.0%)(R.Nakashima. et.al. Lupus 2016 Jul;25(8):925-33)日本では同治療が広く使用されている。しかし、それでも難治性の症例が数多く存在し、追加治療の必要性が指摘されている。
血漿交換療法は抗体、免疫複合体、炎症性サイトカインの除去により、治療抵抗性のMDA5(+)DM-ILDに対する効果が期待されており、これまでもいくつかの症例報告が為されている。本研究では、MDA5(+)DM-ILDの重症化する因子について検討するとともに、治療抵抗性のMDA5(+)DM-ILDにおける血漿交換の有用性について、レトロスペクティブに検討した。

P:多剤併用免疫抑制療法に対して治療抵抗性のMDA5(+)DM-ILDの患者
E:血漿交換を施行した群
C:血漿交換を施行しなかった群
O:生存率

 <セッティング>
2008年から2016年の間に京都大学で3剤併用免疫抑制療法を施行されたMDA5抗体陽性間質性肺炎合併皮膚筋炎(DM+CADM)の患者

<population およびその定義 >
DMは Bohan および Peterの診断基準、CADMはSontheimerの診断基準を満たす。MDA5抗体はELISA (MESACUP™ anti-MDA5 test, MBL Co. Ltd, Nagoya, Japan、cut off ≤32 U/ml)で測定。間質性肺炎は胸部X線検査および胸部CTによって評価。

<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
単施設、後ろ向きコホート研究および症例対照研究

<除外基準>
初期から3剤併用療法を施行していない患者(他院で初期治療が開始されている)

<主な要因、および、その定義>
血漿交換療法の併用

<Control、および、その定義>
血漿交換療法の併用なし

<主なアウトカム、および、その定義>
生存率

<解析方法>
フィッシャーの正確検定、マンホイットニーU検定、カプラン・マイヤー生存曲線

<治療のレジュメ>
※多剤併用免疫抑制療法
高用量ステロイド(GC)、カルシニューリン阻害薬(シクロスポリンまたはタクロリムス)およびエンドキサンパルス(IVCY)を使用。
GCは最初に1mg / kg /日で4週間投与。その後 既存の用量は2週間ごとに10%減量。タクロリムスは12時間の血中トラフレベルを10~12 ng / mlに維持。]
IVCYは500mg / m2、2週間隔で開始し、WBC 2000-3000 /ul またはベースラインから50%の削減を目標に徐々に増量。最大で1000mg / m2。
IVCYの6回目の投与以降、間隔は 4〜8週間に延長。IVCYの投与回数は10〜15回。
※血漿交換(PE)
週に1〜3回、計3〜15回施行。予想循環血漿量の1.0〜1.3倍量の血漿を除去し、同量の新鮮凍結血漿または5%アルブミンで置換。

<評価した臨床データ、検査値>
免疫抑制療法前の臨床データ、検査値を評価。(Table1)
免疫抑制療法前、PEの直前、およびPE後の血清CK、フェリチン値、KL-6を評価。(Table2, Table3)

<測定したサイトカイン>免疫抑制療法の前に下記のサイトカインを測定(Table 4)
IL-1a、IL-1b、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12p40、IL-12p70、IL-13、 IL-15、IL-17A、IL-18、IL-21、IL-22、IL-23、IL-27、IL-33、 TNF-α、IFN-a、IFN-c、胸腺間質リンホポイエチン (TSLP)、GM-CSF、血清可溶性 CD163(sCD163)

<HRCTの評価>
2名の呼吸器専門医によって盲検的、独立的に評価。間質性肺炎のパターン、HRCTスコア(肺を両側の上、中、下部の6領域に分けてスコア化)を評価した

<結果>
・Figure 1  解析の流れ
52例のMDA5(+)DM-ILD
    ↓
14例は他院で初期治療され、除外
    ↓
残った38例を
GroupA  治療後に呼吸状態が改善した群   
GroupB  治療後に呼吸状態が悪化した群 の2群へ
GroupAは全員生存
Group Bは➀8例にPEを施行し、5例が生存、3例が死亡。
②5例はPE施行せず、全例死亡。

・Table 1 (患者背景)
グループB(治療後悪化群)ではグループA(治療後改善群)に比して、白血球数、単球数、好中球数、好中球数/リンパ球数比率(NLR)が高かった。またリンパ球数が低い、血清フェリチン値が高い、高齢、低酸素血症の頻度が高いなどの特徴を認めた。グループB(治療後悪化群)では治療前のSpO2、PaO2が有意に低く、AaDO2が有意に嵩かった。抗MDA5抗体力価に有意差はなかった。症状出現から治療までに有した時間には、両群に有意な差はなかった。

・Figure 2 抗MDA5陽性DMに対する血漿交換の効果
Figure 2A
GroupAとGroupBの生存期間(カプラン・マイヤー生存曲線)
フォローアップ期間は4.7±3年。
3年後の生存率はGroup Aで100%とGroup Bで38.5%と有意な差があった。(P <0.0001)

Fugure 2B
治療後に呼吸状態が悪化したGroup Bについては主治医の裁量でPEやその他の免疫抑制療法による追加治療が為された。(PE以外の免疫抑制薬の内訳は以下)
PEは8人の患者で施行され、その内5人(62.5%)が生存した。
しかしPEを施行しなかった5人の患者は全例死亡した。
尚、PEは計11.4±3.4回、60.9±26日間施行した。

Figure 2C
GroupB PEあり/なしによる生存期間(カプラン・マイヤー生存曲線)
★PE以外の追加治療の内訳
PEを施行しなかったグループBの患者は追加治療として、生物学的製剤、抗TNFa、抗IL-6、PMX-DHP、毎週の IVCY、シベレスタット水酸化ナトリウム、ピルフェニドンなどが使用されたが、いずれも奏功せず、平均生存時間はわずか0.20±0.16年であった。

・Table2 治療後4週間でのフェリチンとKL-6の値の変化量についての検討
治療前と治療開始4週間後のKL-6の増加量はGroup Bで有意に大きかった。しかし、血清フェリチン値の変化量は有意な差を示さなかった。
(検査値がアフェレーシスによって大きく変化するため、4週間以内にPEを投与されたグループBの3人は除外した。)

・Table3  治療前、PE直前、PE6カ月後の検査値の変化(PE施行例 計8例のみ)
血清KL-6およびフェリチン値は治療からPEの直前まで増加したが、PEの6か月後では徐々に減少した。抗MDA5力価についてもはPE直前まで高い値であったが、PEの6か月後では減少した。

・Table 4 各グループの治療前の血清サイトカイン値の比較
マクロファージから放出されるIL-1α、IL-1β、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12p70、IL-15、IL-18、IL-23、IL-27、IFN-αなどのサイトカイン、気道上皮細胞から放出されるsCD163、TSLPおよびIL-33などのサイトカイン、その他、IL-21およびGM-CSFなどのサイトカインが有意に上昇した。
IL-2、IL-4、IL-5、IL-9、IL-13、IL-17A、IL-22、IFN-γおよびTNF-αは有意な差を示さなかった 。

<結果の解釈・メカニズム>
MDA5(+)DM-ILDは高サイトカイン血症/マクロファージ活性化症候群が主病態にあり、治療難治例では血漿交換療法が有用である。

<Limitation>
後ろ向きコホートである点。ランダム化されていない。非盲検。単施設。単変量解析

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
➀臨床
治療反応が悪いことが予想されるMDA5(+)DM-ILDでは血漿交換療法の導入を検討すべきである。
②今後の検討・研究課題
どの症例が血漿交換療法を必要とするのかを早期に見極める必要があり、今後の検討課題と思われる。(悪化してからでは8例中3例が死亡している)血漿交換のプロトコールにもバラツキがあり、今後の報告が待たれる

<この論文の好ましい点>
免疫抑制療法が均一に使用されている点(全員多剤併用免疫抑制療法を行っている)
希少疾患であるMDA5(+)DM-ILDを52例も集めている
これまでMDA5(+)DM-ILDの血漿交換療法の効果をこの症例数で条件を揃えて比較している論文は初。(これまではケースシリーズしかない)
生存率・結果が良い。

<この論文にて理解できなかった点> 
シクロスポリンの目標トラフの記載がない点
ステロイドパルスの使用については基本的に言及がない点。(supplymentには少し記載があるのみ)

担当:石井翔

 

 

 

 

 

 

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