抗TIF1γ抗体陽性皮膚筋炎患者と新型コロナウイルスとの相動性を認める免疫原性エピトープ【Journal Club 20210120】

Antibodies against immunogenic epitopes with high sequesnce identity to SARS-CoV-2 in patients with autoimmune dermatomyositis

 Spyridon Megremis, et al.

Ann Rheum Dis2020 Oct;79(10):1383-1386

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<サマリー>
抗TIF1γ抗体陽性の皮膚筋炎患者で新型コロナウイルスとの相動性を認めるCD8陽性T細胞の免疫原性エピトープを認めた。

用語説明
次世代シークエンサー:遺伝子を切断し、並列で処理することにより以前より高速で遺伝子配列の特定などを行える処置。応用することにより環境中に存在する微生物叢を網羅的に検索することができる。
バイオパニング:大腸菌(に感染するファージ?)を利用して標的蛋白を調べる方法
エピトープ:抗体が認識する抗原の中でも実際に抗体が認識している一部分のこと

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<背景>
特発性炎症性筋疾患(IIMs)の患者の多くは既知の筋炎に特異的、もしくは関連する抗体が陽性になることが知られ、それぞれに特徴的な臨床経過をたどる。その抗体は重要な細胞内プロセスに関連する蛋白に対しての抗体である。インターフェロン経路はそれぞれの筋炎のサブタイプで活性化される部位が異なり、このインターフェロン反応は、ウイルス感染から宿主を保護し、抗ウイルス免疫応答を調節するために重要である。筆者たちは以前に疾患特異的な免疫蛋白エピトープシグネチャーと全微生物エキスポソーム(ウイルス、細菌、古細菌、真菌を含む)とヒトタンパク質からの抗原同定を組み合わせたハイスループットアプローチを用いて、TIF1γ抗体陽性成人発症皮膚筋炎患者20名を対象に年齢と性別を年齢と性別をマッチングさせた健常者20名を比較して生涯にわたって蓄積された微生物抗体および自己抗原抗体のレパートリーを調査している。今回はコロナウイルスにマッピングするエピトープに着目して解析を行った。

下記に関しては元になった研究(Microbial and autoantibody immunogenic repertoires in TIF1γ autoantibody positive dermatomyositis. BioRXiv 2020.)から引用
P:イギリスに在住する白人
E:UK Myositis Networkに登録されたTIF1γ抗体陽性成人発症皮膚筋炎患者
C:the University of Manchester Longitudinal Study of Cognition in Normal Healthy Old Age cohortを通じて集められた年齢と性別を一致させた健康人
O:両者でのコロナに関連するエピトープの比較

 <セッティング>
UK myositis Networkに登録された皮膚筋炎患者

<population およびその定義>
患者群:UK myositis Networkに登録された抗TIFγ抗体陽性の患者20名。すべてBohan and Peter classification criteria for dermatomyositisでdefiniteかprobableを満たす症例
健康群:the University of Manchester Longitudinal Study of Cognition in Normal Healthy Old Age cohortを通じて集められた性別と年齢を調整した20名

<主なアウトカム、および、その定義>
新型コロナ(SARS-COV-2)に特異的なエピトープの検索
健常集団とTIF1γ抗体陽性成人発症皮膚筋炎患者でのエピトープの比較

<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
コホート研究
研究にはthe “Serum Antibody Repertoire Analysis (SARA)” pipeline(次世代シークエンサーと競合的バイオパニングを組み合わせ、ペプチド配列やエピトープを決定する方法)を使用

<解析方法>
連続変数:log10 transformed
正規分布:the Shapiro-Wilk test.
正規分布でない2群間の定量的対比較: Wilcoxon rank sum test for variables
正規分布で変数:unpaired t test
等分散:F test
3群間以上:The Kruskal-Wallis nonparametric test
compare pairwise differences in the sum of ranks with the expected average difference (based on the number of groups and sample size per group):Dunn’s multiple comparisons test
specify the location of each observation within a distribution:Z score transformation
統計解析には GraphPad Prism 8.0

<結果>
Supplemental table 1
患者背景
皮膚筋炎群には9例の癌合併あり。1例は強皮症との合併
対象群は癌合併なし。

Table 1
患者血清で検出されたエピトープ。20種のコロナウイルスに存在するエピトープを認め、内10個のエピトープは3種のコウモリコロナウイルス(全ゲノム解析で高い配列類似性が指摘あり)に存在するものであった。次にthe orf1ab polyprotein of SARS-CoV-2 (NCBI RefSeq:P_009724389.1)でSARS-COV-2とのエピトープを比較し、異なる6つの配列相似性が高いエピトープ(†)を認めた。6つのエピトープでthe database of non-redundant protein sequences (NCBI Blastpsuite)にて検索を行ったところ、6アミノ酸長の3つの線状エピトープは、SARS-CoV-2に対して高度に特異的であった。

Figure1
A:今回の研究で同定されたコロナウイルスの系統樹。緑四角がDM患者のみ、白四角が健康患者のみで見つかったもの。
B:上記の同定された3つのエピトープの部分的な配列。それぞれSARS-CoV-2 2′-O-ribose methyltransferase, RNA-dependent RNA polymerase and 3′-to-5′ exonuclease proteins の遺伝子領域に位置している。
‘DDAVVC’ RNAポリメラーゼタンパク質は、the Immune Epitope Database and Analysis Resourceで高ランクのCD8 T細胞 から予測されていた免疫原性エピトープであった。

<結果の解釈・メカニズム>
上記の免疫原性エピトープがSARS-COV-2のワクチン開発のターゲットを示す可能性がある。
コロナウイルス科への感染が報告されている新型コロナ関連の筋骨格系自己免疫疾患(Beydon M, et al. Myositis as a manifestation of SARS-CoV-2.Ann Rheum Dis 2020)の発症に寄与する可能性

<Limitation>
・抗TIF1γ抗体陽性皮膚筋炎患者であること。抗MDA5抗体関連皮膚筋炎患者では発症の季節性に関してのべ触れられている既存報告もあり。MDA5はRNAウイルスの細胞内検知に関わっていることも報告あり。
・皮膚筋炎の9例は癌の合併もあること。
・本文中に記載ないため血清の採取時期については不明であるが、筋炎発症後に血清を取った場合は発症後に獲得したエピトープである可能性。
・筋炎発症との直接的な関係を述べているわけではない点

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
他自己免疫疾患にも同様の検査手法が使える可能性
コロナ感染後に筋骨格症状を生じる症例があることを知れた点

<この論文の好ましい点>
抗TIF1γ抗体陽性皮膚筋炎という希少疾患で症例20例集めていること

<この論文にて理解できなかった点> 
Figure1Aで健康群とのコロナウイルス種の違いについて記載があるが本文中にはその違いによるエピトープの違いなど記載はないこと。

担当:林 智樹

 

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