SAPHO症候群における前胸部病変のMRI所見【Journal Club 20210113】

Anterior chest wall in SAPHO syndrome: magnetic resonance imaging findings
SAPHO症候群における前胸部病変:MRI所見
著者   Mirei Shirakashi , et al.
掲載雑誌/号/ページ Arthritis Research & Therapy 2020 Sep 22;216

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<サマリー>SAPHO症候群の前胸部病変に対するMRI所見の研究は多くない.今回MRIにおける前胸部病変所見をまとめる事により疾患の特徴と病因を検討する.
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<背景>
SAPHO症候群(synovitis滑膜炎-Acneざ瘡-Pustulosis膿疱症-Hyperstosis骨化症-Osteitis骨炎)特徴的な皮膚病変と骨関節病変を合併する症候群である.
1987年にChamot,Khanらによって重度の痤瘡,掌蹠嚢胞症症と関節炎,無菌性骨髄炎の合併例85例が報告されSAPHO症候群が提唱された.以降様々な類縁疾患が明らかになりアンブレラ症候群(様々な疾患のよせ集め)と言われている.
2003年ACR診断基準が提示された.                                                      
・Inclusion criteria
①掌蹠嚢胞症に関連する骨関節疾患
②重症痤瘡または化膿性汗腺炎を伴う骨関節疾患
③無菌性骨炎
④慢性再発多巣性骨髄炎(CROMO) 小児疾患
⑤炎症性腸疾患と関連する骨関節所見
・Exclusion criteria
感染性骨髄炎/骨炎・骨腫瘍/転移性骨腫瘍・非炎症性骨関節病変                       
 Kahn MF et al.American College of Rheumatology 67th Annual Scientific Meeting; 2003 Oct 23-28

*皮膚病変が先行する場合患者の約70%において2年未満に骨関節炎が生じる.両症状の病勢は関連しないと言われている.掌蹠嚢胞症は約60%に併存し最も多い.
また,皮膚病変を伴わない症例も報告によっては20%ほど見られている.CRPや赤沈の上昇を伴わない例もあり診断を困難にしている.
骨シンチグラフィの[bull’S head]は典型的であるが,頻度は稀である.前胸部病変は70―90%の成人患者で認められ,診断に重要な所見である.今回MRIにおける前胸部病変所見をまとめる事により疾患の特徴と病因を検討する.

P:SAPHO症候群の患者
E
C
O:前胸部MRI所見の特徴

<セッティング>
2018年3月から2019年6月に Peking Union  Medical College Hospital とBeijing Traditional Chinese Medicine Hospitalを訪れSAPHO症候群71例を対象に行われた.
<population およびその定義 >
Kahnらによる2003年ACRの診断基準を満たし,上記施設を訪れた患者のうち18―70歳の患者で骨シンチグラフィによって前胸部病変(胸骨,胸鎖関節,鎖骨を上縁,肋骨弓を前面,前腋窩線までを後縁と定義)を確認され,同意が得られた患者.
MRI撮像3日以内の CRP,ESR,RF,ANA,HLA-27が測定され,倫理委員会で認可された.

<主なアウトカム、および、その定義>
【MRIプロトコール】Magnenton Skyra3.0スキャナーが使用された.仰臥位で撮像され,矢状,軸位,斜位,冠状断でT2W(TSE)で最初に撮像し軸位のT1W(VIBE)がとられた.
【画像診断】読影は臨床情報をブラインドされた2人の放射線科医によって行われた.所見が異なった場合は3人目の放射線科医によって読影された.以下の所見が前胸部の各部位で確認された.
1)T2Wで2連続以上のスライスでBME骨髄浮腫(骨髄高信号)を認める.BME周囲の軟部影や対称性や分布も考慮された.
2)関節腔への滑液貯留による滑膜炎の存在
3)fat-only T2W Dixonで2スライス以上の骨髄の脂肪浸潤
4)卵殻様骨化が見られる肋軟骨の骨化 Fig4
5) 周囲よりも際立つ骨増殖像
6)他の骨と結合した骨髄である骨橋
7)周囲血管の狭小化
18箇所(SCIJ、肋鎖骨靭帯,鎖骨中心,側面,第1―7胸鎖骨,胸骨角)を読影部位として定義した.

<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
横断研究

<解析方法>
カテゴリー変数は%,連続変数はmeanSDであらわされた.AgreementはCohenのカッパー検定が行われた.各群間の比較はstudent t検定を使用された.両群間検定が行われ0.05で有意か判断した.

<結果>
Table1
・患者背景
71名の患者のうち55名が女性で16名が男性,23―69歳の患者が含まれる.骨関節症状の発症時の平均年齢は49±10.6歳で,皮膚症状発症時の平均年齢40.2±10.2歳であった.診断時の平均年齢は44.0±12.3歳,平均罹病期間は51.3±9.9ヶ月であった.すべての患者が罹病期間中に前胸部の痛みを自覚した.掌蹠嚢胞症が最も多い皮膚症状で83.1%,重度の痤瘡は7.0%であった.9.9%の患者は皮膚症状がなかった.63.4%の患者がESR,CRPの上昇を認め,RF,ANAとHLA―B27はそれぞれ7%,2.8%そして5.6%で陽性であった
・MRI所見
2人の読影者の見解は有意に一致していた.
71名すべての患者で前胸部に異常所見があり,4.8±3.4部位に罹病病変があった.男性患者の方が罹病部位数が多い傾向にあったが統計学的に有意ではなかった.

table2
・骨髄浮腫
急性炎症を示唆する骨髄浮腫は63名(88.7%)の患者に認めた.部位は胸骨柄(60名84.5%)胸骨角(26名36.6%)胸骨体(11名15.5%)鎖骨(35名49.3%)と第2肋骨(2名2.8%)であった.すべての部位で周囲の軟部組織の炎症も見られた.関節部分は胸肋関節が87.3%,胸鎖関節が38%であった.Bull’s headで知られる両胸鎖関節と胸骨の罹患が見られたのは3例(4.2%)のみであった.
・滑膜炎
滑液貯留は64名(90.1%)に認められた.胸鎖関節で76.1%,胸肋関節は15.5%であった.胸骨柄結合は7.0%
・軟部組織陰影
骨髄浮腫を認めるすべての患者に軟部組織陰影も見られた.49名に胸骨後面腫瘤影を認め,16名22.5%で大胸筋に陰影を認めた.脈管狭窄が13名18.3%に認められた.
・第一肋骨
91.5%の患者で第一肋骨前面と周囲軟部組織に陰影を認めた.52.1%で(急性,慢性)事象の異なる骨化像が見られた.11.3%で左側,15.5%で右側25.4%両側,硬化した第一肋骨の70%にBME,22%で脂肪浸潤,50%に非対称性骨増殖像を認めた.

Table3
骨橋は80.3%の患者に骨増殖像は43.7%,脂肪浸潤は39.4%に認めた.骨増殖は鎖骨で26.8%,胸骨柄に31%,胸骨角に31%,胸骨体に8.5%認めた.脂肪浸潤は胸骨柄に38%,胸骨体に12.7%認めた.

<結果の解釈・メカニズム>
これまでの研究では最も罹患しやすい部位としては胸鎖関節,胸肋関節,胸骨柄であったが,本研究では胸鎖関節と第1肋骨部であった.
前胸部病変の病期はこれまで以下で分けられ
Stage1 肋鎖骨靭帯の軽度の強直
Stage2 胸骨肋骨鎖骨部の中等度強直
Stage3 鎖骨上部にまで及ぶ強直
此の病期により付着部より病変が生じ,肋鎖関節靭帯から周囲の骨,関節へ広がるとされてきた.しかし胸骨柄より始まり関節や周囲の靭帯,関節包に進展し得る.
付着部炎,滑膜炎,骨炎の三兆候がある事.すべての骨髄浮腫は骨皮質の内部にあり,靭帯や関節包と連続した.付着部より炎症が始まったことが示唆された.

<Limitation>
コントロール群がいない事.滑液は物理的刺激による可能性.
すべての鎖骨下静脈を描出できておらず,静脈病変を過小評価している可能性がある
CTを併用していないため骨化像はMRIの検出能力の方が劣る.
罹病期間や治療法によって分けて分析されていないため治療の修飾を受けている可能性もある.患者のPRO尺度を取っていない点.

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・臨床
靭帯付着部炎から連続した骨髄浮腫を呈することが多く,単独であった場合他疾患の除外に組織学的検査も積極的に検討する.
すべての鎖骨下静脈を描出できておらず,静脈病変を過小評価している可能性がある

<この論文の好ましい点>
希少疾患で多くの症例を集められた点.
LimitationにPROが入っていないところを入れた点.

担当:小黒 奈緒

 

 

 

 

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