全身性硬化症治療の戦略としてのインターフェロンの標的化【Journal Club 20210106】

Targeting interferons as a strategy for systemic sclerosis treatment
Marzena Ciechomska ,Urszula Skalska 
Immunol Lett. 2018 Mar;195:45-54

<背景>
全身性強皮症(SSc)は、血管障害、炎症、および線維症の亢進を特徴とする自己免疫疾患であり、その後、臓器機能の喪失または早期死亡につながる可能性がある。インターフェロン(IFN)は多面発現性サイトカインであり、ウイルスや細菌の感染に対する免疫応答だけでなく、SScの病因にも関与する。また、高レベルのIFNがSSc患者に見られ、皮膚硬化および他臓器の疾患活動性と相関しており、バイオマーカーとしての潜在的な役割を示唆する。SScにおけるIFNおよびIFN誘導性遺伝子に関して、IFNを対象とした治療がSScおよびその他の自己免疫疾患の治療としての有効性についてまとめた。

<ポイント>
図1 自己免疫性疾患におけるIFNの病原性
免疫細胞 
・I型IFNシグネチャーは単球の活性化に関与する
・SSc血清からの免疫複合体や抗Scl 70抗体は、pDC (形質細胞様樹状細胞)によるIFNα産生を誘導する
・SSc患者におけるPBMCではIRG(IFN調節遺伝子)は増加し、リンパ球ではIFNγは増加する
・レイノー現象を有する患者の血清中のIFNγは健常人に比し高値である
内皮細胞 
・IFNαとIFNγは血管透過性の亢進に関与する
・IFNγは血管内皮細胞において線維化促進性をもつα-SMA、CTGF、TGFβおよびET-1の産生を増加する
線維芽細胞
・IFNαは、SSc線維芽細胞の増殖、分化、炎症性サイトカイン、ケモカインおよびコラーゲンの産生を増加する
・SSc線維芽細胞のⅠ型IFNシグネチャーは、皮膚硬化の出現前に発現する
・骨髄間質細胞移植で治療された患者では、線維化の改善および毛細血管の再生は、皮膚でのI型IFNの発現の低下と相関 する
・IFNγにより線維芽細胞からCXCL9、CXCL10は増加する
・肺組織におけるIRGの発現は進行性の肺線維症と相関し、IRF(IFN調節因子)5は肺や皮膚の線維化に関与する

Fig 1 IFNシグナル伝達経路
IFNαまたはIFNβはⅠ型IFN受容体に、IFNγはⅡ型IFN受容体、IFNλはⅢ型IFN受容体に結合する。IFNが受容体に結合するとJAKファミリーが活性化され、STAT1やSTAT2のリン酸化を起こす。IRF9は、Ⅰ型やⅢ型IFNの結合時にも活性化され、STAT1、STAT2とともに核内に移行し、ISRE(IFN刺激応答要素)を刺激する。これによりIRGやISG(IFN刺激遺伝子)が発現する。

SScの皮膚および肺繊維症に対するIFNの影響
IFNシグネチャーは末梢血細胞に存在し、血清やpDCがIFNαの供給源となる。活性化された単球およびマクロファージは、IFNαや線維芽細胞の増加および、線維化促進因子の増加をきたし細胞外マトリックス(ECM)合成を亢進する。
DCの分化・増殖によりToll様受容体(TLR)の発現をきたし、Ⅰ型IFNの産生を増加する。Ⅰ型IFNはDCでのTLRの発現を亢進するとともに、線維芽細胞にもTLRの発現を亢進する。線維芽細胞からはIP-10(CXCL10)の発現が見られ、肺や腎臓、心、血管の線維化に関与する。Ⅰ型IFNシグネチャーは、B細胞活性化因子(BAFF)mRNAと正の相関関係にあり、BAFFの疾患早期の上昇レベルは皮膚硬化に関与する。
Ⅱ型IFNにより皮膚単核細胞や線維芽細胞にCCL2やCXCL9の発現をきたし、TRL3リガンドやⅡ型IFNにより線維芽細胞からのCXCL9やCXCL10の発現を促進する。
肺の線維化についてはTRL3の関与が示唆されている。TLR3の活性化により気道上皮細胞の炎症性タンパクの増加をきたし、TLR4はIRF5を活性化することで線維化を誘発する。また、IRGやTGFβ調節遺伝子の関連性は患者やマウスモデルの双方で肺の線維化に関与することが言われている。

SScの免疫細胞に対するIFNの影響
単球や介した炎症やTRL活性が病因の一つである可能性は示唆されているが、活性化のトリガーや維持する因子は解明されていない。
EBVに感染したSSc患者の単球においてTLR8およびIFNを介した炎症の活性化に関与した可能性が示されている。TLR8は単球の線維化促進をきたすとされ、別の報告では活性化された単球と共培養された線維芽細胞はコラーゲンとα-SMAの産生を増加している。
Ⅰ型IFNシグネチャーは皮膚硬化前のレイノー現象や爪所見・抗体異常のみの患者の血清に見られ、BAFFmRNAやⅢ型プロコラーゲンN末端プロペプチドと正の相関関係にある。pDCを活性化しIFNα産生をきたす誘発因子としては抗Scl70抗体であることが言われている。

SScの内皮細胞に対するIFNの影響
手指潰瘍はⅠ型IFNの活性が高く、IRGの発現は増加している。抗セントロメア抗体においてはIRGの発現は低下している。IFNαやIFNγはFli1(フレンド白血病統合1転写因子)や血管内皮カドヘリンの減少をきたし血管透過性を亢進させる。また、IFNγは血管内皮細胞からの線維化促進タンパクの発現を増加し、特にET-1は血管新生に強く関与する。IFNγはMHCclassⅠ・Ⅱやケモカインの発現を増加し、血管外組織への免疫細胞の移動をきたす。

Fig 2 SScにおけるIFNの役割およびアニフロルムマブ・抗ILT7抗体の治療標的
MEDI546(アニフロルマブ)およびMEDI7743(抗ILT7抗体)によって単球活性化の低下、T細胞増殖の低下、線維芽細胞によるECM形成の低下、pDCによるIFN産生の低下、および血管内皮透過性の低下をきたすとされる。

<結論>
Ⅰ型・Ⅱ型IFNおよびIFNシグネチャーはSScの病因に関与する一つとして重要である。SScの免疫異常や血管障害、線維化を標的として抗IFN療法の可能性をまとめた。単一の経路を標的とし、単一の投与量で使用する生物療法で疾病管理を完全に達成することは困難であり、患者のサブグループはIFNシグネチャーやDNA変異などの分子基準に基づき特定する必要がある。pDCやTRLで発現するILT7を標的とする他の薬剤開発も一つの方法である。均一な患者サブグループを対象とすることで、個々の症例に応じた治療戦略の開発が可能になると思われる。

担当:徳永剛広

 

 

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