巨細胞性動脈炎に対する超短期間ステロイド投与後のトシリズマブ単剤療法【Journal Club 20210721】

Tocilizumab monotherapy after ultra-short glucocorticoid administration in giant cell arteritis: a single-arm, open-label, proof-of-concept study

Lancet Rheumatology 2021, Published Online. July 2, 2021
DOI: https://doi.org/10.1016/ S2665-9913(21)00152-1  

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Summary
新規発症の巨細胞性動脈炎に対し、3日間のステロイドパルス後のトシリズマブ単剤療法
→平均11.1週で寛解が得られ、ステロイドの累計投与量を減量させる
ただし寛解導入までの期間はステロイドによる治療よりも長い11.1週であった。
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【背景】
巨細胞性動脈炎(以下GCAと略す)の治療は依然ステロイドが治療の中心である。
これまで2つのRCTで、トシリズマブは52週間にわたって寛解維持に有効であることが示された。
これらのRCTでは、12週目にそれぞれ7mg/日、9mg/日とし、26〜52週目にかけて漸減することでステロイドの総投与量を
50%以上削減させたが、いずれも26週間以上ステロイドの併用があり、ステロイドの投与時間は依然として長く、さらに減量することは可能か、トシリズマブ単剤での累計ステロイド投与量の温存効果や寛解・維持効果は不明であった。
→そこで、超短期間ステロイドとトシリズマブ単剤による前向き試験が行われた(GUSTO試験)

P:新規発症のGCA
I :ステロイド超短期間投与後のトシリズマブ単剤療法
C:(ステロイドによる寛解導入)
O:31日以内の寛解・24週目までの寛解維持率

<セッティング>
2018年11月23日〜2019年9月22日までに新規発症のGCAと診断された50歳以上の患者、スイス
(1)ACRの基準を満たす4週間以内に診断された新規発症のGCA、または大血管の血管炎を伴うPMR
(2)CRP≧25mg/L以上
   (3)生検で診断されたGCA、またはMRAやPETで診断された大血管の血管炎
(4)GCAの診断から最大10日間、プレドニゾン60mg/日または同等量のステロイド投与
(5)書面によるインフォームドコンセント

<研究デザインの型>
単群・単施設、オープンラベル、前向き研究

<除外基準>
他のリウマチ性疾患、活動性の感染症、”complicated diverticulitis”の既往、
慢性的なステロイドの使用、心疾患、肺疾患、肝疾患 のいずれか

<治療プロトコール>
・day0-2      mPSL 500mg/day DIV
・day 3       ステロイド終了、トシリズマブ 8 mg/kg静脈内投与
・day10-52週目  毎週トシリズマブ (162 mg)の皮下注射
→day0, 3, 10、その後4週間ごとに診察

・症状の再燃・持続・悪化があった場合には、症状の重症度に応じてステロイドを再開
・すべての患者で側頭動脈生検を実施
・MRIはday0に実施、所見は放射線科医によって評価、0~3のグレードで評価、グレード2以上が陽性

<定義>
・寛解:CRPの正常化を含むGCAの症状の消失
・部分寛解:軽度の症状は含む(EULARの勧告には記載のない用語)
・再発:GCAの徴候または症状の再燃、CRP値が10mg/L以上、ESR≧30mm/h以上のうち1つ以上

<エンドポイント>
・主要評価項目 :31日以内に寛解・24週目まで寛解維持率
・副次的評価項目:24週目および52週目に再発のない完全寛解が得られた患者の割合、初回寛解までの期間、再発までの期間、初回部分寛解までの期間

<統計解析>
・真の奏効率が、第2相試験におけるプラセボの奏効率と同等の40%であるという帰無仮説を立て検定
・主要アウトカムは40%を基準とした片側検定
・統計解析はStata version 16;数値はR version 4.0.3を用いた

【結果】
18名の患者を対象とし、18名全員が3日間のステロイドパルス・トシリズマブ投与を行なった
・12/18名がトシリズマブ皮下注射の80%以上を受け、13/18名は52週目まで追跡
・治療不応で3名、有害事象で2名の計5名が52週以前に脱落
・1名は好中球減少のためにtocilizumabの投与間隔が延長

<患者の年齢・背景>
・12/18名(67%)が女性、年齢中央値は72歳
・11/18名(61%)が中央値1日間でステロイド前投与
・15/18名(83%)が頭部症状(10名が顎跛行、12名が頭痛、6名が視覚障害)
・10/18名(56%)がPMRの症状
・14/18名(78%)がMRAで大動脈炎、14/18名(78%)が頭部MRIで血管炎
・13名(72%)が側頭動脈生検でGPAとして矛盾ない所見を示した
・CRPの中央値は、0日目で4.4(1.8-6.2)mg/dL

<主要エンドポイント>
・3/12名が(25%、95%CI 5-57)が31日間で寛解、24週目まで再発なし
→奏功率が40%よりも小さいという帰無仮説を棄却できず(p=0.92)
・11/12名(92%)が24週以内に寛解(平均期間:10.6週、95%CI 7.2-14.1)または部分寛解(平均期間:5.6週、95%CI 3.0-8.2)
その後、10/12名(83%、95%CI 52-98)が52週まで再発なしを維持
全18例中、14例(78%)が24週以内に寛解(平均11.1週、95%CI 8.3-13.9)または部分寛解(平均6.2週、95%CI 3.7-8.7)
その後、13例(72%、95%CI 47-90)が52週まで再発なしを維持
・3/18例(17%)は治療抵抗性でステロイドによるサルベージが必要となった。うち1名は新たに発症した前部虚血性視神経症(AION)であった。
・特筆すべきはベースライン時に視覚症状があった他の患者の視力は安定していた
・2/18名(11%)は有害事象で中止
 1名:肝機能障害(14日目、寛解導入前、TCZ投与後、ALT 194>正常値上限×5)
 1名:憩室炎(115日目、寛解導入後)
・52週目までに3名に重篤な有害事象が発生(憩室炎:1名、口腔アフタ性病変:1名、悪心:1名)。
・6/18名に1,500/μL未満の好中球減少、うち4名は1,000 /μL未満であった(好中球数が1,000/μL以上になるまでトシリズマブの投与を中止)
・好中球減少が再発した1名の患者には、Tocilizumabを10日ごとに投与
・ステロイドパルスによる有害事象はなし

<結果のまとめ>
・ステロイドパルス3日投与後にTocilizumabを単剤投与したところ、14/18例(78%)で寛解が得られた。
・主要評価項目である31日以内の寛解は得られなかったが、平均11.1週間で寛解は達成されたこれはステロイドによる治療で予想される寛解までの期間よりも長い
・副次評価項目である24週目までの持続的寛解は、18名中13名(72%)が達成した。また24〜52週目の間に再発者はなし

【Discussion】
・他の2つのRCTと同等の結果が得られた
・74歳の女性に見られた視力低下
・ステロイド投与期間が短かったことが視力低下につながった可能性が高い
・しかし、ステロイドパルスから15日後に視力低下が起こり、3日間のステロイドパルスを実施しても効果が得られなかった。
 MRAで大動脈の動脈硬化の進行、冠動脈疾患、脳血管の変性変化もあり、既存の血管障害が影響したと考えられる。
 Danesh-Meyerらは、既存の血管病変があり、初期から視力障害がある場合には、大量ステロイド療法にもかかわらず27%で視力障害の悪化が見られると報告(治療開始後1~6日)している)

【本研究の優れている点】
・虚血症状のあるハイリスク患者を含めた点
・初発のGCA患者でステロイド投与量が非常に少ない患者で行われた

【Limitation】
・サンプルサイズが小さく単施設研究、白人のみの研究であること
・オープンラベルである点
・新規発症のGCAに限定

<理解ができなかった点>
・検定方法について
・TCZによる試験であり効果判定について臨床症状などの不確定要素に頼らざるを得ない点
・「部分寛解」についての詳細は不明、結果における部分寛解の意義は懐疑的

<まとめ>
★3日間のステロイドパルスの後、トシリズマブ単剤療法を行うことで、新規の巨細胞性動脈炎の患者において、非常に緩徐ではあるが寛解が得られ、ステロイドの累計投与量を減少させる
★症状の持続期間が長くなることから、導入期に低用量ステロイドの併用が有益かもしれない

担当:道津 侑大

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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