EGPA発症と環境因子曝露との関連【Journal Club 20210922】

Occupational Exposures and Smoking in Eosinophilic
Granulomatosis With Polyangiitis: A Case– Control Study
EGPA発症と環境因子曝露との関連
Federica Maritati, Francesco Peyronel, Paride Fenaroli, Francesco Pegoraro, Vieri Lastrucci,Giuseppe D. Benigno, Alessandra Palmisano, Giovanni M. Rossi, Maria L. Urban, Federico Alberici,Paolo Fraticelli, Giacomo Emmi, Massimo Corradi, Augusto Vaglio.
University Hospital of Ospedali Riuniti, Ancona, Italy
Arthritis & Rheumatology。2021;73(9):1694–1702

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<サマリー>
111名のEGPA患者さんを対象として環境因子とEGPA発症の関連をみたイタリアのケースコントロール研究。シリカ(OR 2.71)、有機溶剤(OR 3.19)、農業(OR 2.71)でEGPA発症が多くみられた。喫煙はEGPAの発症を抑えた(OR 0.49)。ANCA陽性EGPA発症との関連はシリカと農業でみられ、ANCA陰性EGPA発症と関連は喫煙と有機溶剤でみられた。
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<セッティング>
 Vasculitis Clinic of Parma University Hospital(イタリア)
2010.12月-2018.10月まで

<研究デザインの型:RCT、横断研究、前向きコホートなど>
ケースコントロール研究
ケース:コントロール = 1:3
コントロールは一般人
マッチは年齢(±5歳)、性別、地域
コントロールの募集はケースと同時期に実施

<Population、およびその定義>
EGPAを発症した方
ACRとチャペルヒルのクライテリアにて診断
除外基準:18歳未満、他の血管炎の合併者、認知機能低下者、質問紙への回答が難しい重症者

<主な要因、および、その定義>       
環境因子
・喫煙
・職業曝露:シリカ、アスベスト、農業、有機溶剤、重金属、他の工業用金属、農薬, 原料繊維
質問紙・インタビュー調整により収集:発症から3カ月以内に実施
環境医学専門家による←caseかコントロールはblindした
思い出しバイパスに対処するため、質問票やICでは研究の目的を明らかにしなかった。
患者さんには、環境因子とEGPAとの関連の可能性については伝えなかった
質問紙は3つのセッションで構成

<セクション1>
人口統計学的データ、教育水準、生活習慣に関する危険因子(血圧、肥満、)、喫煙、
心血管疾患(虚血性心疾患、脳血管疾患)、悪性腫瘍、その他の自己免疫疾患などの併存疾患

<セクション2>
アスベスト(職業、職業外)、シリカ(シリカにさらされた職歴)、農業(農作業への参加、収穫作業への参加、動物への曝露)

<セクション3>
有機溶剤,金属,その他の工業化学物質,農薬への職業的曝露、繊維への曝露

<主なアウトカム、および、その定義>
・EGPA発症

<その他の変数、および、その定義>
・疾患活動性:BVAS
・予後評価:five factor scoreアウトカム:PCP治療後の30日および60日死亡率

<解析方法>
・連続変数は中央値と四分位範囲(IQR)で、カテゴリー変数は数とパーセント
・連続変数:Student’s t検定を用いた。
・カテゴリー変数:chi二乗検定で解析した。
・相関分析はSpearmanの相関係数を用いて行った。
・単変量および多変量マッチドロジスティック回帰モデルを用いて、曝露とEGPA発症の関連評価
・多変量マッチドロジスティック回帰モデルの独立変数は前方選択法で選定
・両側P値が0.05以下の場合は有意
・欠測対処:記載なし

<結果>
・130名のEGPA患者を同定
19人は除外(死亡、lost of follow-upなど))
非職業上の危険因子
・肥満の有病率は両群間で差がなし(6%vs11%、P=0.128)。
・高血圧症、糖尿病、脳血管障害、虚血性心疾患、悪性腫瘍などのその他の臨床的変数については、統計的に有意な差はなし
・現在および過去に喫煙していた人の割合は、コントロール群に比べて有意に少なかった(34%vs 54%)(OR 0.49 [95%CI 0.29-0.70]、P < 0.001)。
・喫煙の累積暴露量は、コントロール群に比べてケース群ではpack-year指数が低値(OR 0.96 [95%CI 0.94-0.98]、P < 0.001)。

職業上の危険因子
・シリカへの曝露はEGPAと強く関連(OR 2.79 [95% CI 1.55- 5.01]、P = 0.001)。
・有機溶剤への曝露はEGPAの有意なリスクと関連(OR 3.19 [95% CI 1.91- 5.34]、P < 0.001)。
・EGPAと化学物質への曝露との間に有意な関連性(OR 1.84 [95% CI 1.12- 3.03]、P = 0.016)。容量依存性があり、20年の中央値以上の暴露がEGPAと強く関連(OR 3.30、95%CI 1.62- 6.70、P = 0.001)
・農業もEGPAのリスクと関連していた(OR 2.71 [95% CI 1.71- 4.29]、P < 0.001)。作物,家畜,特定の動物種への曝露を区別することはできなかった。
・農薬への曝露については,有意な関連性なし(OR 1.20 [95%CI 0.58-2.49],P=0.62)。
・アスベスト職業暴露はEGPAとの関連はなかったが(OR 0.94 [95%CI 0.26-3.40]、P = 0.919)。暴露疑いではEGPAとの統計的に有意な関連あり(OR 2.38 [95%CI 1.22-4.63]、P = 0.011)
・EGPAと金属や繊維への曝露との間には有意な関連なし(表2)。
・多変量ロジスティック回帰分析では、シリカ、有機溶剤、農業への曝露がEGPAのリスク増加と独立して関連していた(OR 2.26 [95% CI 1.10- 4.62]、P = 0.026;OR 2. 20 [95% CI 1.14- 4.25]、P = 0.018、OR 2.10 [95% CI 1.19- 3.73]、P = 0.011)
・一方、タバコの喫煙はリスクの低下と独立して関連していた(OR 0.39 [95% CI 0.22- 0.69]、P = 0.001)(表3)。
・農業とシリカ、農業と有機溶剤、有機溶剤とシリカの共曝露を調べ、共曝露者と非共曝露者を比較した。シリカと農作業の共曝露では、最も高いOR(9.12 [95% CI 3.06-27.19]、P < 0.001)→これら2つの暴露の間に相乗効果あり(図1)。
・シリカと有機溶剤、農業と有機溶剤の共曝露もEGPAと有意に関連していたが、いずれの因子に関連したリスクもわずかに高める程度

曝露と疾患の症状やANCAの状態との関連(表4)
・喫煙と有機溶剤は、MPO ANCA陽性のEGPAよりもMPOANCA陰性のEGPAと強く関連
・シリカや農業との関連は、MPOANCA陽性患者では非常に有意

<結果の解釈・メカニズム>
・喫煙がEGPAのリスク低下と関連
喫煙は、粘膜免疫、特にT細胞を抑制する効果、局所的な微生物相を変化させて免疫反応の発現を制限する可能性。
→潰瘍性大腸炎のような他の粘膜炎症性疾患においても仮説が立てられており、喫煙が重症化や再発を防ぐ
→今回の研究では、EGPAと喫煙の関連性はANC陰性のサブセットに限られており、これは粘膜/バリアー機能障害の仮説と一致する結果
・有機溶剤への職業的曝露がEGPAのリスク増加と強く関連
溶媒による酸化ストレス、脂質過酸化による自己抗原の修飾、T細胞応答の増強など、さまざまなメカニズムが関与
・シリカとEGPAのリスク増加と有意に関連
非特異的な免疫アジュバントとして作用し、特にエフェクターT細胞に作用し、Treg細胞の早期アポトーシスを促進、好中球の活性化、アポトーシス、またはネクローシスを誘導した後にMPOなどの自己抗原を活性化、自己反応性B細胞の反応の増幅
 ・農業がEGPAのリスク増加と有意に関連
過剰な外来抗原(例えば、動物に感染する病原体)や、飼料や抗生物質などの他の化合物への曝露と関連している可能性
・有機溶剤や低濃度の喫煙は、特にANC陰性EGPAの粘膜機能障害に関与しており、粘膜反応に関与する遺伝子変異と関連
・自己免疫やMPOANCAの生成を促進したり、過剰な抗原負荷にさらされたりすることで、シリカや農業は、特にHLA- DQに関連するANCA陽性EGPAの自己免疫や全身性血管炎を促進する可能性

<Limitation>
・曝露情報の収集が質問紙で実施されていること
・サブタイプのサンプル数が少ないこと
・単施設研究であること
・我々の日本人に適応してよいかの議論は必要

<研究の強み>
・全体のコホートは非常に大きい
・患者は学際的なチームによって登録
・コントロール群は慎重にケースマッチ

<どのように臨床に活かす?どのように今後の研究に活かす?>
・我々がかかわる発症後には活かすことができない。今回は「発症」に関わる因子だが、「増悪」に関わる因子であるかとは異なるため、今後の研究が待たれる。
・methodのセクションは、丁寧に記載しており、書き方の見本になる。

<この論文の好ましい点>
・使用している質問紙は、以前他の同様の研究(後腹膜繊維症、パーキンソン病など)で使用しているものを利用している
・コントロール群の選定は、ケースの知り合いから行われた。SESなどの背景がそろう可能性がある。

担当:矢嶋宣幸

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